理由と着眼点。
なんかすっからかんな気がしますが。
「じゃあ貴方達が死にたいというのは、人間の死と同じようにとらえて良いの?」
記憶等を自分から失いたいと言う者はいないだろうと思った末に放った言葉がそれだった。
「はい。ここはもともと人間が創った世界ですから。人間中心の考えになるのも当然だと言えるでしょう。しかし、先程私が人間と私達の死の認識が違うことを忘れていたように、私達は人間の死の認識が完全には記憶出来ていないようです。たとえ完全に記憶していたとしても、人間に会うと忘れたり思い出したりするのを繰り返してしまいます。 」
私は体験したことが無いからわからないが、忘れたり思い出したりを繰り返すのは精神的にかなり辛いことだろうと思った。
何か目的があるのだろうかと考え始めた矢先に、ある一つの考えが私の脳裏に過ぎった。
「……もしかして、人間だった頃の記憶を思い出させないようにするためにそんなことをされているの?」
「はい、おそらくそうでしょう。何かの拍子に記憶を取り戻してしまうと、ここで働く者が激減してしまうかも知れませんからね。」
そうなる可能性は限りなく低いんじゃ……と思ったが、私は口にしなかった。
「ところで、後払いにします?前払いにします?」
彼は突然おかしなことを言った。
「それは、何のことですか?」
「条件のことに決まっているじゃあないですか!どっちを先に済ますかです!貴女が先にやり直すか、先に私の大切だった人を捜すかですよ!」
「ああ、そのことですか。正直今まで考えていませんでしたが。まあ、普通に私が先ですよ。貴方の大切だった人を捜すなんて何年かかるかわかりませんし。」
「そ、そうでした!私としたことが!そんなこと微塵も考えつきませんでした!」
何故終始彼のテンションが高いのかはわからなかったが、やはり彼は馬鹿だった。
「ち、違います!私は他の者と着眼点が違うだけで馬鹿ではありません!」
「良く言えばね。」
彼とはかれこれ二時間は話込んでるが、不思議と飽きることは無かった。むしろ、女友達と話をしているよりも気が楽だと感じたほどだった。
「ところで、一つ質問良いですか?」
私からの質問を受けてばかりの彼が、珍しく私に質問をした。
「ええ。」
「……貴女が、一つ目の条件を拒んだ理由は何ですか?」
一つ目の条件……というと、『二度と生まれ変わることが出来ない』だ。
あまり大した理由ではないかと思ったが、私はきちんと理由を話すことにした。
「……いろいろな経験がしてみたいからだと思う。」
「いろいろな経験、ですか。」
「ええ、いろいろなことを経験してみたい。一度だけの人生でもいろいろなことを経験すると思う。でもそれはほんの一部だと思うから。友達と喧嘩したりするのも経験だし、上司に叱られたりするのも経験。生まれ変わったらすべて忘れてしまうかも知れないけど、経験した事実は変わらない。それに、違った経験もすることが出来る。だから、私はもう一度生まれ変わりたいのだと思う。もちろん、他にもいろいろあるけどね!」
「そうなんですか……。天国へ行っても生まれ変わることを希望する人はごく僅かだと聞いたもので……。貴女は立派ですね。」
その僅かな人達で今の世界の人口が成り立っているのか、と思った。
その考えだと天国には人がうじゃうじゃいることになるのだが。
「貴女も人のこと言えませんね。着眼点が違い過ぎます。」
私が天国の人口について考えていると彼がそう言った。
「良いんです。私は貴方よりは馬鹿ではありませんから。」
「……今から上の方に報告をして来るので、ここで待っていて下さいね。」
彼はそういうと一瞬で消えた。あろうことか、瞬間移動を身につけているらしかった。なぜだか少しだけ悔しくなった。
天国は世界の人口を上回るみたいです。