九歳のお爺様。
遅くなりました。
短めです。
人生をやり直す代わりに、彼を死なせる。
つまり、彼の生前大切だった人を見つけだすということだ。
私はとても良いアイデアだと思ったのだが、彼は返事をしなかった。
「ちょっと、なんで返事をしてくれないんですか!?すごいアイデアだと思いません?我ながら天才だなって一瞬勘違いしてしまいましたよ!」
私は少し困惑しながら彼に話しかけたが、彼は反応しない。
「だって私にも貴方にもメリットがあるんですよ?私はあの奇妙な三つの条件のうち一つも選ばずに済むし貴方は死ぬことが出来るし。」
まだ反応はない。
「これ以上のアイデアがあると思いま……あれ?」
私が彼の顔を見ると、彼は涙を流していた。
「……え?……ど、どうしたんですか?私、何かまずいことでも言いましたか?」
鬼の目にも涙。私はそんな諺を思い出した。
「貴女は……です。」
やっと彼が喋ったと思ったら、声が掠れて聞こえなかった。
「あの……もう少し大きな声で…。」
「貴女は……いです…。」
「もう少し大きく…。」
「あ、えっと、……もう少し……だけ……。」
「………貴女は、………貴女は天才です!!!!」
「わっ!!うるさ!!」
彼がものすごく大きな声を出したものだから、私の声もつられて大きくなってしまった。まったく、こんなに線の細い体なのにどうしてあんなに大きな声を出せたのだろう。
しかし、此処に来てまさか他人から天才呼ばわりされるとは思ってもみなかった。
さっき私が自分のことを天才だと言ったのは冗談だというのに。
こいつは冗談通じないタイプだなと思ったが、こいつが私の心を読むことが出来るのを思い出し、私の思考回路はこんがらがった。
まさか……本気でそう、思ったのだろうか。
「貴女本当に凄いです!こんな画期的なアイデアは前代未聞です!何万年も誰も思い付かなかったのにまさか貴女が考え出したなんて!流石です!」
彼の素直な言葉を聞いた私は、そうか、この世界には今まで馬鹿しか来なかったのか、と思ったと同時に、残念な気持ちになった。
「たぶん頭の良い人も来ましたよ!」
では何故その人は思い付かなかったのだろうか。
「それは……何か事情があったに違いありません!」
三千歳のお爺様に何がわかるというのだろうか。
「歳は関係ありませんし、私はお爺様ではありません!」
このお爺様は見た目年齢は二十代、精神年齢は九歳といったところだろうか。
「見た目年齢はともかく、私の精神年齢が九歳って、どういうことですか!私のどこに九歳児の要素があるというのです!?」
冗談通じないところと、デリカシーが無いところと、空気が読めなさそうなところ。
あと、学力が無いところと、負けず嫌いそうなところと、意地っ張りそうなところと、見栄っ張りそうなところ。
「後半は完全に偏見です!それに、学力は……あります!私の場合、ただ他の者と少し考え方がズレているだけで……」
彼がかなり落ち込んでしまったようなので、私は彼をからかうのを止めることにした。
「それで、この条件を認めてくれますか?」
「あ、やっと喋りましたね。そのことなんですが、少しの間待っていてくれませんか?やり直しの期間を聞いて来るので。」
「は?やり直しの期間?」初めて聞いたその言葉に私は驚いた。
「あれ、言ってませんでした?」
「初耳ですぞ」
「何ですかその口調。そうか言ってませんでしたか。すいません。」
九歳のお爺様なのだから大目に見てやらなくては。
私はそう考え、あまり彼を責めないことにした。
「貴女が心の中でそう思っている時点で既に私を責めていますから!それに何度も言いますが私は九歳でもお爺様でもありません!確かに三千歳ですが、あと少なくとも六千年は生きないといけませんし!」
「だから私がなるべく早く貴方を殺してあげるんじゃない。それより、期間のことをもう少し詳しく教えてくれる?」
私には、その期間というのがどの程度の時間なのかわからなかったので、彼に教えて貰うことにした。
「はい。」
そう返事をする男の目の色は、私が昔飼っていた猫の目の色に似ていた。
どうやらやり直しにも期間があるようです。
3/26編集しました。