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死後探索  作者: 華織
2/18

条件と記憶。

遅くなりました(-.-;)実はもうすぐ受験なんでこんなことしているヒマなんて無いはずなんですがね……

「それで、どうします?」


「まだ考え中です!第一、まともな条件なんか一つもないでしょう!一つ目の条件なんか、二度と生まれ変わることが出来ないとか!私はヨーロッパ人に生まれ変わって、毎日フランス菓子を食べるのが夢だったのに!こんな条件酷過ぎます!」


これに関しては断じて冗談ではなく、私が本気で夢見たことだ。

私はフランス菓子の中でもマドレーヌが特に好きで、初めて食べたときはとても衝撃的だった。こんな美味い食べ物がこの世にあったのか!と思ったほどである。

今でもマドレーヌのことに関しては、作られた地方や年代から美味しいお店まで5時間程度は余裕(よゆう)で語れるだろう。しかしそんな話を聞いてくれる心の広い友人は存在しなかったので、私は常日頃からマドレーヌに対する情熱を押し込めて生活していた。


「貴女どんだけマドレーヌ好きなんですか……。あと、フランス菓子が食べたいならフランス人に生まれ変われば良いでしょう……。それに、日本に住んでいても食べることは出来ます。」


男は軽く呆れたように言った。いや、頭のてっぺんからつま先までの、ありとあらゆるところから『呆れたオーラ』を(にじ)み出しながら言った。


「私は本場のフランス菓子が食べたいのです!ヨーロッパ人に生まれ変わりたいと言ったのは、その方が確率的に良いかなと思ったからです!日本人の私から見たら顔同じだし!」


私はめげずにそう言い返した。


「じゃあフランスに引っ越せば良いのでは。」


「貴方私が死んだのを忘れていませんか!生きていたとしても、しがないOLだった私にそんなお金あるわけないじゃないですか!あと、生粋(きっすい)の日本人の私なんかがフランス語なんて喋れる訳ないじゃないですか!」


私が言いたかったことを全て吐き出すと、彼はしばらく何も言わなかったので、私も黙っていた。


「……とりあえず、早く決めて下さい。」


沈黙を破った男が最初に言った言葉がそれだった。男は笑顔だったが、目は笑っていなかった。


「はい……。」


何だよ自分はなかなか条件を言わなかったくせにと思ったが、そんなことを言ったらやり直しをさせてくれなさそうだったので、ひとまず黙った。

黙っている間、私は条件のことだけを考えていたが、なぜかなかなか決めることが出来なかった。


最初に言っておくがこれは間違いなく条件の方が悪い。

まず一つ目の条件は論外だ。二つ目の条件は最初は良いと思ったが、人間に生まれ変わることが出来ないのは厳しい。しかも、次に生まれ変わるまで三百年も待たなくてはいけないのは勘弁して欲しいし、三百年経ち生まれ変わったとしても、ゴキブリにでも生まれ変わったらどうする。というより、ゴキブリに生まれ変わる自信がある。私は物事を最悪な方向に考えるということに関してはプロだ。

もしそういう仕事があり、私がその会社に入社したなら数年間のうちに社長になっていたであろう。

しかし残念ながらそんな会社はどこにも無かった。


三つ目の条件の、天使と悪魔がそれぞれ干渉しないようにする、というのも良いと思ったが、面倒臭そうだし、私の中の天使と悪魔のイメージを壊したくないので却下。


教えて貰った条件はその三つだけなので、私は生まれて初めて究極の選択というものを体験する羽目(はめ)になった。


「生まれて初めてなんて、貴女は既に死んでいるではありませんか。」

男はその言葉を言ったあと、鼻で笑った。


「貴方は黙っていて下さい。それに、たとえ人の心が読めるとしても、それを本人の前で口にするのは控えて頂けます?それが紳士の(たしな)みなのではないのかしら?」


私がわざとらしく似合わないのも承知で丁寧な言葉で言うと、男は何か言いたげな顔をしたが諦めたらしく、やがて口をつぐんだ。

あまりにもしゅんとした顔をしているものだから、小動物のようだなと思った。


ところで、私がこの世界にきてからどのくらい時間が経ったのだろうか。

私が条件を選ぼうとしてから30分は経ったと思う。

私は大体午後10時くらいに死んだが、店の窓から見える景色は昼間のように明るかった。

少なくとも夜は明けているのだろう。


「私がこの世界に来てどのくらいの時間が経ったかわかりますか?」


それまでずっと黙っていた男に話しかけると、待ってましたと言わんばかりに男は身を乗り出した。


「1時間半程度経ちましたかね。」


男は嬉しさを隠そうと平然とした態度を装っていたが、それは十数年間いろいろな人に鈍感と言われてきた私でさえも気が付くほど、わかりやすいものだった。

内心、長い間一人で過ごすとこうなってしまうのか、と思った。また、例え自分は一人になってもこの男のようにはならないぞ、と思いつつ、まだこの世界に来て1時間半くらいしか経っていないのにもかかわらず、なぜ窓の外が明るいのかなと思った。


「なぜですか?」


「貴女今、わざわざ自分の口で質問するのが面倒だからって、質問の大部分を省きましたね?……まあ良いでしょう。この世界はずっと昼なのです。」


「じゃあずっと同じ景色なの?」


「はい。何時間経っても何十年経っても同じ景色です。天気や季節も全く変わりません。」


この世界を創った人間は風景や季節のことなど気にしなかったのかもしれない。

じゃあ、私が最初に来たあの白い空間は何だったのか、新たな疑問が生じた。

「何だったんですか?」


「またですか……。あの白い世界は、この世界の本体です。したがって、ここの喫茶店なんかは白い世界の裏側と言いますか、まあ白い世界の一部と言っても良いでしょう。」


男は私の紅茶を注ぎながら答えた。頼んだ覚えは無いが、有り難く頂こう。


「じゃあ、この喫茶店の外側には世界はあるの?」


私がその質問をしたのは、そろそろ外の空気でも吸いたいと思ってたからだ。


「さっきから質問ばかりですが……ちゃんと条件のことも考えてます?」


彼は皮肉めいた感じで言ったが、考えているかどうかは私の心が読めるならわかるはずだ。


「男のくせに細かいことを気にしないで。それに私の心が読めるのならわかりますよね?」


「はい……。意外にもいろいろなこと考えていますね……。意外にも……。」


「貴方って本当デリカシー無いわね!意外にもって何よ!今度そういうこといったらただじゃおかないから!」


そう言ったは良いが、具体的に何をすれば良いのだろう。

確かこいつは死ぬことが出来ないとか言ってたから、肉体的にも精神的にも永遠にいたぶり続けようか……。

そんなことを考えていると、目の前のヨーロッパ製の彫刻の顔がみるみる青ざめていった。


「……すみませんでした。それだけは勘弁して下さい。」


彼は棒読みで言ったが、どうやら本当にそう思っているようだ。


「わかれば良いんですよ。わかれば。」


私は満面の笑みで言ったが、心の中で、次そういうことがあったら本当にしますよ、と考えた。それだけで男は身震いをするものだから、思わず笑いそうになる。

まるで肉食動物に怯える草食動物のようだなと思った。


「……それで質問の答えですが、外の世界はあると言えばありますよ。ほんのわずかですが。」


「具体的には?」


「そうですね……私達ガイドの記憶の断片が凝縮したような散らばったような、世界の切れ端をつぎはぎにしたような……とにかくよくわからない混沌とした世界ですね。」私は彼の言葉を聞き、外の世界を想像しようと思ったが途中で断念した。

そこでやっと、私には想像力が無いということを思い出した。


「ただし、外の世界には私無しでは絶対に出てはなりませんよ。気をおかしくしてしまわれる方が多いのです。」


「窓を開けるのは駄目かしら?」


「それは大丈夫ですよ。」


彼のその言葉を聞いた後、私は店内の窓を開けた。

外は店内の気温と変わらなかったが、少しだけ心が和らいだ。


そして、それまで内側から見えなかったものが窓を開けると見えるようになったことに気付いた。


上手く説明出来ないが、巨大なアメーバのようなものが辺りにウヨウヨと漂っていた。よく見ると、アメーバには、スクリーンに映しだされた映像のようなものが見えた。

映像は、家族や恋人、友人との楽しい思い出のようなものもあれば、目を背けたくなるような残酷な映像もあった。

このことから、それらの映像は良い悪いに(かか)わらず、より強く心に残っていた記憶なのだろうと思った。


「この中には貴方の記憶も存在するの?」


「はい、おそらく。しかし、他の者の記憶と混じってしまっていると思いますよ。まあ私自身の中には記憶が無いので何とも言えませんが。」


記憶同士が混じるなんて、とてもおかしなことだと思ったし、私には考えられなかった。

また、彼自身の中に記憶が無いというのはどういうことだろう。


「もしかして……貴方達ガイドは記憶を消されてしまうの?」


「はい。それもゆっくりと時間をかけて消えていきます。日に日に友人の名や家族との思い出が体から溶けるように消えていくのです。この世界に来てからの記憶は消えないらしく、記憶が溶けるような感覚は何百年経っても思い出せます。」


男は何でもないふうに語ったが、やはり記憶を失って、悲しかったのだろうか。

そこで、私はやっと決心した。


「私、条件決めました!私は貴方を死なせてみせます!」


私は彼の手助けをすることにした。

主人公のキャラが早くも崩壊してしまいましたね(苦笑)

3/21編集しました。 3/26更に編集しました。

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