王城の鳥
進まない、全部書き直したほうがいいかも
「姫君にはご機嫌麗しく……と、いうわけではないようだね。ふくれてどうしたの? クリスティーナ」
夏の終わりのこの季節に、春の女神もかくやと思わせる笑みで王甥エドアルト・エルウィンは王女に微笑んだ。その物言い、物腰はあくまで柔らかく優美なこの場にふさわしい。
とにかく実用的で堅牢な城のなかにあるとは思えないほど東宮は優美で洗練されている。四対の装飾的な柱のみで支える、丸みを帯びた屋根が印象的な東屋を中心とする中庭は亡き王妃の故国の様式を模した物で、二重の堀をめぐらせた厳しい城の中にあるとは思えない。
「いい訳ないでしょう」
王女は顔をしかめて、エルウィンをにらみつけた。その様は蜂蜜の瞳もあいまって、威嚇する猫そのものだ。
「何が気に入らないのやら……」
対するエルウィンはあくまで優美で優雅で……「男女が逆ならよかったのに」などと影で言われていることを、もちろんクリスティーナは知っている。
「見目もいいし、近衛の中でも腕が立つし、なにより陛下のお気に入りだ」
いらだつ王女には気づかないのか、ふりだけなのかエルウィンはさらに言葉をついだ。
「キライなものはキライなの」
見事な金髪を逆立てかねない勢いで、クリスティーナは言った。
実際は東宮にひっこんでいるクリスティーナと近衛の任で忙しくしているウィリアムとでは、キライといえるほどの接触はない。しかし、クリスティーナにとってウィリアムはあらゆる「ままならなさ」の象徴にみえていた。