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帰還

 ファンタジーですが、魔法ナシの世界です。もちろん、魔王も女神もナシ。エセ中世ヨーロッパ風の世界なのは、お姫様と騎士様が書きたかったから(笑)

 亀更新でもよろしかったらお付き合いくださいませ。

 薄墨に朱をたらしたような気だるい夕焼けを背に、逞しい軍馬が帰還のいななきをあげた。

「ウィリアム!」

 すぐそばの厩舎《きゅうしゃ》で待ち構えていた馬丁たちより早く、ごく薄い麻を重ねた藍色のドレスがひるがえる。

 ほぼ半日、駆けとおしての帰宅に気をぬいていたせいで、不意をついて抱きついてきた襲撃者に息を詰まらせた。危うく後ろに倒れこみそうになり、あわてて踏ん張る。

「姉上、離れてください」

 あわてて頭半分ほど背の低い姉を引き剥がすが、ドレスの胸元から裾にかけてまだらに白くなりひどい有様になっている。

「半月ぶりの帰還の挨拶がそれなの?」

 冴えた銀の髪に縁取られた深藍の鋭い双眸が眇められる。少なくとも機嫌はよろしかろうとの予想に反した、ドスの利いた姉の声につめたい汗が背中を落ちてゆく。御歳二十二歳、十四の頃より王国一の美女の名をほしいままにする姉の笑みは二つ下の弟にとってはひたすら恐ろしい。

「放しておあげなさい、エリザベス。慌てなくとも、しばらくはウィリアムもこちらにいるのですから」

 いつの間に現れたのか、やわらかそうな金髪をゆるく結い上げた婦人は笑いを含んだ声でそう言うと、後ろに付き従ってきた侍女に湯浴みと食事の用意を命じた。

「婚儀も決まった娘がはしたないですよ? あなたも着替えていらっしゃい。夕食後にはウィリアムも私たちに時間をとってくれるでしょう」

「も……もちろんです母上」

 柔らかな笑みと言葉に押されて、ウィリアムはうなずいた。エリザベスとウィリアムは銀髪に濃い青の瞳で、顔立ちも男女こそ違えよく似ているが、淡い金髪に薄い水色の瞳のこの夫人とはまったく似ていない。年齢的にもこんな大きな子供がいる歳にも見えないが、知らなければ血縁関係すら感じられないだろう。ただ、このウィード王国の貴族に連なるもので筆頭公爵家夫妻とその子供たちを知らぬ者がいるはずもないが。

「無事に帰ってこれて何よりです」

 やわらかいながらも有無を言わせぬ母親の物言いに「これからすぐ城へ」とは言えなかった息子は、汗に張り付いた手袋を慌ててはずして、差し出された母の手に口付ける。これでは何のためにわざわざ正門を通らずに厩舎に直行したのかわからない。領内の本宅ほどではないとはいえ、公爵家の決して狭くはない城屋敷(王都にある屋敷)の厩舎近く、いわば裏方に母と姉の二人が現れたのだ、これはもうてぐすね引いて待ち構えていたと見るべきだろう。

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