【契約】男なのに聖女に選ばれたから、王子と結婚することになった件【結婚】
全然イチャつかなかったので、放置後、供養のため投稿しました。
暇つぶしになったら幸いです。
「あ、そうだ、神殿寄って帰ろう」
買い出しついでに、ずっと後回しにしていた神殿への用事を済ませようと考えた。
誰でも出入り自由の神殿に入ると、受付の人に家に届いていた開封済みの封書、その中身を見せる。
宛名と、俺がどこの誰かということが記載されている書類だ。
受付の人は書類を受け取ると、礼拝堂へすすむよう言われる。
書類はそのまま別の人、たぶんこの神殿で働く事務員らしき人へと渡された。
礼拝堂の最奥には、この世界を創った女神様の像がデンと鎮座している。
その前には神官が立っていた。
神官の前には簡易なテーブルがあって、テーブルの上には人の頭よりさらに一回り大きな水晶が置いてあった。
そこへ向かって何十人もの多種多様な種族が列を作っていた。
みんな、俺と同じように封書が届いて、記載されていた用事を済ませるために来たのだろう。
今日、休日だし。
封書の中身を思い出す。
なにか、調べたいことがあるから神殿にきて儀式を受けるようにとだけ書いてあった。
何を調べるんだったか。
列に並んでる間、暇なので書類の内容を思い出そうとする。
そうそう、たしか花嫁がどうのこうのという内容だった気がする。
だんだん思い出してきた。
何でも、百年に一度の神聖な儀式のための聖女であり、王族の花嫁候補を探しているとかなんとか。
その聖女はこの国、【フルール王国】の未婚女性、純潔の乙女の中から神によって選ばれるのだという。
選ばれ方は単純明快。
王都にある神殿、もしくはあちこちにある教会に置かれている水晶玉に手をかざすだけでいいとのことだ。
候補者が見つかれば、水晶玉が光って教えてくれるらしい。
今年はその記念すべき年で、年明けから王室と神殿は協力して聖女を探し続けていた。
しかし、見つからなかった。
雪が溶け、花が咲き乱れる春が来ても見つからなかった。
過去にもこういうことはあったらしい。
それまでは候補者の年齢を、妊娠適齢期前後の十代半ばから、少し広めにみて三十代半ばまでの女性たちに絞って探していた。
その範囲を広めたのだ。
下は八歳から上は五十代まで。
それでも中々見つからなかった。
こんなに見つからないのは、数百年ぶりだったらしい。
そのため、性別やその他の条件を取っ払った。
今から五百年前に、少年でありながら聖女として選ばれた者がいるという記録が見つかったためだ。
他にも既婚者だった女性が選ばれたこともあるという。
懇切丁寧に封書の中身にそう書いてあった。
並んでいる者たちの大半は女性、それも少女で、もしかしたら自分が特別な存在かもしれない、とウキウキしている。
なかにはカップルや夫婦で来ている者たちもいた。
ウキウキしている女性たちとは対照的に、男性たちは物凄くめんどくさそうだ。
なかにはグループで来たらしいもの達もいる。
どこかの学生服を着ている。
「これが終わったら、焼き肉の食べ放題いこうぜ!」
と和気あいあいと話している。
欠片も、自分が聖女候補だなどとは信じてい無さそうだ。
神殿内は、そんなどこか浮ついたざわめきが響いていた。
まぁ、それが普通だ。
俺だってこんなめんどくさいこと、さっさと終わらせて飯食って帰りたい。
そんなことをつらつら考えていたら、順番がきた。
「それでは、次の方。
こちらへ、水晶に手を当ててください。
では、お名前と年齢をお願いします」
言われた通りにする。
「グレイ・ライドリュー、二十歳です」
ビカァアアアアア。
名乗った途端、雷よりも強い光が水晶から放たれる。
咄嗟に水晶から目を瞑った。
ザワザワと、神殿に来ていた人達のざわめきが消える。
「え?え??」
うっすら、目を開ける。
光はすでに無かった。
シン、と神殿内は静まり返っている。
気づいた時には、俺は神官たちに取り囲まれていた。
そのまま神殿内にある、応接室のような場所に連れてこられて待つように指示された。
待て待て待て。
落ち着こう。
まず、現状の確認だ。
おそらくだけど、水晶が光って俺が聖女だか嫁候補だかになったってことだよな?
よし、オーケーオーケー。
しかし、である。
こういうのは、アレだ、実はやんごとなき血筋の女の子が選ばれるものと相場が決まっている。
つまり、何かの手違いにちがいない。
うんうん。
そうだ、そうに決まっている。
なにせ、俺以外の家族親戚全員、五年前の災害で村ごと流されて天に召されてしまったが、うちは先祖代々由緒正しき農家だ。
やんごとなき血が入り込む隙もない、平々凡々な家である。
ちなみに災害当時、俺だけ学校行事で不在だったためたすかったのだ。
色々あったが高校もなんとか卒業できた。
いまは、なんとか無事だった空き家を借りて細々と畑を耕して生活している。
たまに王都の大衆食堂で外食する程度には、なんとか食べていけている程度の稼ぎも確保出来ている。
まぁ、それはいいとして。
とにかく、水晶玉が壊れるかなんかして誤作動を起こしたに違いない。
神官がもどってきたら、きっとそのことを説明されて解放される。
「うんうん、水晶玉だって壊れるよな。
物だもん」
経年劣化に決まっている。
しかし、こうも待たされるのは居心地がわるい。
「……帰っていいかな??」
案外、間違いだったからもういいや、と放っておかれてる可能性もありそうだ。
神官たち、忙しそうだったし。
ここは、気を利かせて帰るべきだろう。
正直、クソめんどうそうなことに巻き込まれる予感がする。
自営業社会人三年目の勘だ。
俺は椅子から立ち上がり、ドアの前へと移動する。
ドアノブへ触れようとした時だ。
その時、俺の右手に痣が出来ているのに気づいた。
「なんだこれ??」
どこかにぶつけただろうか?
そんな記憶はなかった。
蕁麻疹だろうか。
よく確認しようとした瞬間。
ガチャ。
ドアが開いた。
同時に、
「へぶ」
俺の顔にドアが当たってしまう。
「あ、すまない。」
現れたのは、新聞で見たことある顔だった。
金髪碧眼の美青年だ。
アルバート・レイフォルド・フルール。
この国の第一王子様である。
たしか歳は、俺より二つ三つ上だったはすだ。
逃げられなくなった。
いや、待て待て、逃げようとしたんじゃない。
帰ろうとしただけだ。
テーブルを挟んで座り、俺とアルバート王子は向かい合った。
アルバート王子は今回の儀式のことや、花嫁候補について詳しく説明してくれた。
「理解できた?」
説明が終わり、アルバート王子が確認してくる。
俺は、謙譲語での会話なんてできないので、精一杯の丁寧語で答える。
「はい。
つまり俺は除草剤として選ばれたと言うことですよね」
除草剤、という言葉にアルバート王子がなんか微妙な顔をした。
「あ、漂白剤かな。
この場合は」
「ふっ、ふふ、うん、そう、そんな解釈でいいよ」
さらに言い換えたら、吹き出された。
なにかツボってしまったらしい。
この人、こういう人だったんだ。
普段、王都なんて来ない。
王族が出てくるようなイベントにも参加したことはない。
精々、新聞のニュースで見かけるくらいだ。
アルバート王子の説明によると、こういうことだった。
だいたい、百年に一度くらいのペースでこの国は【瘴気】による被害が増すらしい。
それも数十年にわたるとのこと。
それに対処するため神によって選ばれる人間が【聖女】とのこと。
選ばれる基準はわかっておらず、ただ女性が多いらしい。
一説では、魔力に対する諸々の適正が女性のほうが向いているからとも考えられているとのことだった。
だが、極々稀に男性が選ばれることもあるという。
今回、それがたまたま俺だったということだ。
変な方向でクジ運が良いのか悪いのか。
【瘴気】への対処とはつまり、浄化である。
聖女の魔力をもって、さまざまな厄災となる【瘴気】を浄化することが、選ばれし聖女の仕事ということだった。
【瘴気】は放っておくと、魔物の異常発生、作物の不作、人々の体調不良、果ては災害まで引き起こす厄介なものらしい。
……五年前の災害ももしかしたら、それが原因だったのかもしれない。
本当のところはわからない。
まだ五年というべきか、もう五年というべきか。
引きずっていても腹が膨れるわけでなし。
家族のことは時折思い出して、感傷に浸る程度にまでは受け入れられるようになった。
とにかく、そういった【瘴気】を浄化して綺麗にする仕事なわけだから、俺は除草剤もしくは漂白剤に結びつけたわけだ。
アルバート王子には何故か笑われたけど。
もしかしたら笑い上戸なのかもしれない。
「ほかになにか聞きたいことは??」
「届いた封書には、嫁がどうのこうのって書かれてたんですけど。
アルバート様には婚約者がおられますよね?
まぁ、それ以前に俺は男で、身分だって不釣り合いですし。
この辺ってどうなるんですか??」
そう、アルバート王子には婚約者がいる。
公爵家のご令嬢で、アルバート王子とは幼なじみ。
仲睦まじく、ゴールインまで秒読みとかなんとかゴシップ誌に書かれていた。
本当かどうかは知らない。
なにせ、面白そうな話題で人をぶん殴るのがゴシップ誌だからだ。
「正確には婚約者候補だな」
アルバート王子は困ったように頬をスラリとながい人差し指で掻きつつ訂正する。
「婚約者じゃないんですか??」
「ちがうよ。
周りはそうなってほしいみたいだけどね。
ほら、今回は聖女が出てくることもあって保留になったんだ。
彼女が聖女に選ばれてくれれば簡単で話が早かったんだが」
苦笑のなかに疲れが滲んでいる。
「聖女と王族、というより僕との婚姻は決定事項だ。
性別は関係ない。
といっても、聖女が別の誰かと婚姻関係にあるなら免除されるが。
君は、未婚だよね?」
「はい」
学生時代に付き合ってた人もいない。
恋人いない歴=年齢だ。
「交際している人はいるのかな?」
「えーと居るって言ったら、結婚が免除になったりします??」
「ならない。
あくまで神の前で結婚を誓いあっている関係なら免除、というだけだ」
「……そうですか」
「君、思ってることが顔に出るタイプだねぇ」
「よく言われます。
ちなみに、居るっていったらどうなるんですか?」
「相手へ王宮から使いをやって事情を説明して、関係を終わらせてもらう。
昔、三百年前に聖女本人に行かせて、流血沙汰になったらしくてね。
死者が出なかったのが不幸中の幸い、なんて記録に書かれていた」
「痴情のもつれってやつですね」
「そういうこと。
ご家族への説明も王宮からさせてもらうけど。
君のご家族は??
同居中かな??
それとも離れて暮らしている?」
ん?
なんかちょっと引っかかる言い方だ。
家族への説明なんて、それこそ本人にさせればいいだろうに。
まぁ、俺には関係ないことだが。
「いえ、いませんよ。
皆、天に召されました」
アルバート王子の表情が固まった。
しかし、詳しくは聞かれなかった。
「すまない」
「いえ、でも家族への説明なんて本人がすればいいのでは??」
俺は思ったことを口にしてみた。
「出来ればそれが一番なんだろうなぁ」
と、アルバート王子が遠くを見ながら言った。
アルバート王子の説明によると、やはり過去に聖女が選ばれたことで貴族によるゴタゴタがあったらしい。
「自分の娘を王家へ嫁がせたかった当時の公爵が、聖女暗殺を目論んだんだ。
で、聖女は殺されてしまった。
次の聖女が見つかるまで十年近くかかったとか。
そういう記録が残っているんだ。
ちなみに、聖女暗殺をした公爵家は取り潰しになって、一族郎党処刑された。
まぁ、そんなことがあったから聖女の身の安全の確保のため、聖女が見つかったらすぐに隔離、保護することになっている」
……逃げ出さなくて、じゃなくて、帰らなくてよかった。
もっとめんどくさいことになっていたかも。
いや、帰り道に不慮の事故で死んでたかもしれない。
「え、ちょっと待ってください。
じゃあ、俺、今日は家に帰れないってことですか?!」
アルバート王子が憐れんだ表情を向けてくる。
「無理だね。
帰宅する場合は、いろいろ書類の提出が義務付けられている。
なるべく早く手配するから、待ってほしい」
待て待て待て、それじゃ食材諸々が腐ってしまう。
畑だって枯れるだろう。
野菜をおろしてる農業ギルドにも説明しないとなのに。
「そんなぁ……」
「もちろん、君にも生活があるのは重々承知している。
君が自営業なのも知っているから、取引先への説明にもこちらから人を派遣する。
とにかく今日からは、こちらが用意した屋敷に住むことになる」
強引だ、とおもった。
しかし、これらの対処が血で書かれたマニュアルなんだと知ってしまったら何も言えない。
そもそも雲の上の人に抵抗なんて、出来るわけないのだ。
「わかりました」
俺は項垂れたまま、そう返すことしかできなかった。
しかし、アルバート王子はそれでいいのだろうか?
気のおけない幼なじみのご令嬢と結婚した方が、こんなめんどい事にならなかっただろうに。
……いや、待てよ??
たしかこの国は、一夫多妻制だったはずだ。
俺みたいな貧乏農家には縁のない話だが。
一夫多妻ができるのは、それを養える経済力がある一部のお金持ちだけだ。
なるほど、説明にはなかったけれど俺は立ち位置的に二号さん、つまりは側室とか愛妾とかそういうことになるのだろう。
で、正室には話に出ていたご令嬢がおさまるに違いない。
そうでないと跡継ぎ問題とか出てきそうだし。
うんうん、これだな。
なら、俺はお仕事として【聖女】をやればいい。
「ほかになにか質問は??」
アルバート王子の言葉に、俺は最後の悪あがきをしてみる。
めんどくさいことはごめんだ
めんどくさいことはごめんだ
めんどくさいことはごめんなんだ!!
社会人になって身に染みてわかったことがある。
何でもない日が一番なんだ!!!!
ということだ。
納品した野菜のクレームや、日雇いで入った仕事でのミス。
その他諸々で毎日が悪い意味でのイベントだらけの毎日。
そんななか、ほんとーに、ほんっっっっとーに!!!
なにもない日は貴重だ。
それに何より、俺は今の生活をそこそこ気に入っている。
そこそこ自由に、悠々自適に過ごせるからだ。
その日々が終わるのは、正直嫌だった。
だからこそ、悪あがきをしてみる。
「確認なんですけど。
本当に俺が聖女なんですか??
なにか手違いで間違われてたりしませんか??」
浄化だなんだと言われても、俺はこれまで魔法を使えたことがない。
自分に魔力があることも知らなかった。
魔法は訓練しないと使えないらしいし、魔力だってよっぽど多く持っていないと無意識で使うことなんて出来ない、と言うのは常識で。
さらにそれだけの多大な魔力の持ち主は、現代ではほぼほぼ貴族からしか生まれないとされている。
アルバート王子は俺をまっすぐ見つめ、やがてその視線を俺の右手へと移す。
釣られて、俺も自分の右手を見た。
痣がある。
いつの間にか、出来ていた痣がそこにはあった。
いや、痣というには何かの模様、いや紋章のようにも見える。
「あの?」
「触れても??」
有無を言わせない口調で、アルバート王子が聞いてきた。
「はあ、どうぞ」
俺は右手を差し出す。
それをアルバート王子は恭しく手に取ると、まじまじとその痣を見た。
それから、また俺に視線をもどす。
「これはね、聖女紋と呼ばれるものだ。
いわば聖女の証に他ならない。
水晶玉に触れた時に出現するものなんだ」
なにそれ聞いてない。
光るだけじゃなくて、二重で証明がされるようになってたなんて。
「この紋章は、女神によって聖女であることを定められた証だ。
間違いでもなんでもない。
グレイ、君は、神に選ばれた聖なる存在だ」
言葉が重くのしかかる。
逃げられない。
そう、実感した。
もう諦めるしかないのだ。
俺の悠々自適生活よ、さようなら。
俺の悲壮な表情に気づいたのか、アルバート王子は気楽な感じで続ける。
「とはいえ、まぁこれは契約結婚だ。
そうだな、結婚という条件が着いてるだけで君は王国という企業に雇用された、とでも考えて欲しい。
ただ、その役目から離婚はできないが」
「二重の意味で永久就職ってことですか」
俺がすかさず返すと、アルバート王子は苦笑した。
「そうだね、それでいい。
僕との関係はビジネスパートナーとでも思ってくれ。
その方が君も気安いだろ?」
「ビジネスライクな関係、ですか。
そうですね、えぇ、その方が気楽です」
俺が答えると、アルバート王子は握手を求めてきた。
俺はそれに応える。
「これからよろしくお願いします、アルバート王子」
「こちらこそ、グレイ」




