俺のカッコいい幼馴染は「可愛い」に弱い
学院の中庭を通りかかると、女の子たちの黄色い歓声が聞こえてきた。
人垣に遮られてよく見えないが、たぶん鍛錬場で剣技の試合でもしているのだろう。長年、隣国オスニア王国との緊張状態が続いていた名残もあり、騎士を志す生徒たちは、昼休みでも鍛錬に余念がない。
「素敵! ミシェル様のお嫁さんになりたいですわ」
「強くて美しくて、憧れますわね」
――ミシェルは、俺、アンリ・ブロスの幼馴染だ。
すらりとした長身に、均整の取れた体つき。
整った顔立ちはどこか中性的で、肩まである黒髪を無造作に一つにまとめている。
そんな飾り気のない姿さえ、どこかカッコいい。
「ちぇっ、女じゃないか」
「親が騎士団長だからな。子どもの頃から手ほどき受けてりゃ、そりゃ強くもなるって」
少し離れた物陰から、そんな悪口が聞こえてきた。
片手に、暗号術指南書を持ったマクシムとロランだ。
実技には強いが、座学はからきし。
卒業を間近に控え、すでに必要な単位を取り終えている者も多いというのに、追試なのだろう。
「いいよなぁ。女ってだけで重宝されて、王族の護衛にも就けるんだぜ。女性騎士は少ないし、卒業後の進路も決まったようなもんだろうしな」
「女ってだけで優遇されて、羨ましいよね」
苛つきながらもマクシムたちに近づき、俺が作った想定問答集をちらつかせる。
一部三百ギル。
俺の、ちょっとした小遣い稼ぎだ。
「まずミシェルに勝てるようになってから、文句言えよ。あいつ、成績トップだろ」
圧倒的な筋力差。
それを補うために、ミシェルがどれだけ努力をしていると思っているんだ。
親が騎士団長だから強いだなんて、そんな簡単な話ではない。
「ちょっと待て。もしかして、俺が弱いって言ってるのかよ?」
「そこまでは言ってない。でも、裏でぐずぐず言うのは、ダサいからやめろよ」
「何だと!? その血まみれ頭、本物の血まみれにしてやろうか!?」
マクシムが、いきなり俺の胸ぐらを掴み上げてきた。
――しまった。
こいつは気が短いうえに、腕っぷしだけはめっぽう強かった。ロランは眼鏡を押し上げると「はぁ」と深いため息をついた。
だが、止める気はないらしい。
そのとき――。
「アンリ様のおっしゃる通りですわ」
可愛らしい、それでいて凛とした声が響いた。
振り向くと、友人たちを伴なったコレット嬢が立っている。
波打つ栗色の長い髪を、大きなリボンで束ねている。
そのリボンに負けないくらい可愛いコレット嬢は、学院の男子生徒なら誰もが憧れる、正統派の美少女だ。
「陰で悪口を言うくらいなら、ご自分を鍛えるべきですわ」
「そうですわ。人を貶めるのではなく、ご自分が高みに行こうとする。それこそ、本当の騎士ではなくて? ミシェル様を見習ってください」
「あ、えっと……」
女の子たちから正論を次から次へと畳みかけられ、マクシムが反論する隙もない。
これはまずい。
このままでは反省を促すどころか、マクシムのミシェルへの感情を余計に拗らせかねない。
どうしたものかと思っていると――。
「何を騒いでいるのかな?」
天の声――いや、救世主よろしく現れたのはミシェルだった。
途端にコレット嬢たちは目を輝かせ、マクシムたちは揃って気まずそうに目を逸らした。
「みんな。先ほどは私を応援してくれて、ありがとう」
「い、いえ、そんな……」
お礼を言われただけで、女の子たちの頬が、みるみる赤くなる。
察しのいいミシェルは、何があったかのかわかったのだろうか。
今度はマクシムへと視線を向け、微笑んだ。
「マクシムは、最近腕を上げているとテランス先生から聞いた。今度、私の練習相手になってくれないだろうか?」
「あ、ああ。いいぜ」
「ありがとう。ロランも、ベルナール先生に着眼点がいいと褒められていたな。よかったら君のその視点を、私にも教えてほしい」
「……いいよ。でも、教わってできるものではないと思うけど」
「それでも助かるよ。じゃあ、また今度」
ミシェルは俺にウィンク一つ寄越すと、コレット嬢たちを自然に伴って、その場を去っていった。
相変わらずかっこいい奴である。
気が削がれたのか、マクシムたちも頭を振りながら校舎へと消えていく。
ほっとした俺は、まだ知らなかった。
まさか、この出来事が後に起こる事件の始まりになるなんて――。
◇◇◇
放課後、ぼんやりと座っていると、ミシェルが何気ない顔でこちらへ身を乗り出してきた。
「これから、付き合ってくれないだろうか?」
途端に、周囲にいた女の子たちが色めき立つ。
「頼むから、誤解を招くような言い方をするな」
「何か悪かったか? 買い物に誘っているのだが」
不思議そうに首を傾げるミシェルに、悪気はないのはわかっている。
だが、男子の制服を身に纏い、言動も男らしいミシェル。対して俺は、背こそミシェルよりわずかに高いものの、細身で女顔だ。
何を勘違いされているのか。最近、俺たちが並んでいると、周囲から妙な視線を向けられている。
「……いや、いいけど。何を買うんだ?」
「歩きながら話すよ」
――早く、この場から立ち去りたい。
皆の注目が、ミシェルに集まっているのがわかる。
俺がモテないのは、半分はカッコよすぎるミシェルのせいだと思う。
「で、何を買いに行くつもりなんだ?」
歩き出しても、買う物について一向に触れようとしないミシェルに、しびれを切らして聞いてみた。
すると珍しく頬を染め、涙目で俯いた。
――こいつ、こんな顔もするんだ。
「……ドレスを」
「は?」
「その……。ドレスを選んでほしい」
あまりの驚きに、息を呑んだまま固まってしまう。
ミシェルと初めて出会ったのは、十年前。まだ七歳の頃だった。
父親に連れられ、剣の練習相手として俺の家にやってきたミシェルは、ズボン姿だった。その頃から強く、凛々しかった。あまりに男前だったせいで、俺は十歳になるまで、ミシェルを男だと信じていたくらいだ。
唯一スカートを履いたのは、学院の入学式。
でも、それも騎士科ではズボンの着用が認められているからと、翌日にはもうズボンになっていた。
なんでも、動きにくいからスカートは嫌だったらしい。
そのミシェルがドレスが欲しいだなんて、信じられない。
「ミシェル。一体、何があったんだ?」
「その……」
「あ、わかった! 親父さんから密命の依頼でもあったのか? それで女装が必要になったんだな?」
「…………違う」
「じゃあ、なんだ?」
ミシェルはしばらく黙ったあと、小さな声で答えた。
「告白されて、デートに誘われた」
「はぁぁぁ? だ、誰にだよ?」
「リュカに。次の休みの日に、一緒に買い物に行こうって」
眩暈がした。
この学院にいるリュカといえば、一人しかいない。
ネール子爵家の嫡男で、色白の肌に金色の髪を持つ、いかにも優男といった風貌の男だ。
「いや。それ、何かの間違いじゃないのか?」
「顔を見て言われたから、間違いではないと思う」
「お前、リュカのこと好きだったのか?」
「顔は知っていたけど、特に話したことはない」
「じゃあ、どうしてデートに行くんだよ!?」
照れたように、ミシェルが身をもじもじとさせている。
いつもの、女の子たちをキャーキャー言わせている王子様然とした態度はどこへ行った。凛々しく剣を振るい、笑顔を振りまいて「初恋泥棒」と言われるあのミシェルは?
「……『可愛い』って言ってくれた」
「えっ、それだけ?」
「うん」
――嘘だろ!?
女の子たちからあんなに熱い視線と歓声を浴びながら、こいつは男からたった一言「可愛い」と言われただけで、ころりと参ってしまう女だったらしい。
いや、よく考えれば、そうなのかもしれない。
母親を早くに亡くしたミシェルの家には、騎士団長の父親と、武勇に秀でた三人の兄がいる。
豪快な父親と兄たちは、ミシェルの強さを褒めることはあっても「可愛い」と言うことはなかったのだろう。初めて女の子扱いされて、舞い上がっているのかもしれない。
「アンリは姉上が三人もいるし、女性の装いに詳しいだろう?」
「まあ、そうだけど」
我がブロス侯爵家は、代々、服飾品を扱う商いを生業としている。
友人たちには内緒にしているが、実は俺の趣味は服を作ることだ。
「私を、女にしてくれ」
「だから、言い方!」
思わず突っ込んだ。
だが、ミシェルは気にすることなく、鍛錬で硬くなった手で、俺の両手をぎゅっと握りしめてきた。
「デートなんて初めてだし、どうしていいかわからないんだ。こんなこと、アンリにしか頼めない。どうか私を助けてくれ」
暗に「お前は特別だ」と思わせるようなことを言われて、断れる男がいるだろうか。
こいつは「もしかして、自分に気があるのでは」と思わせるのが、昔から抜群にうまい奴なのだ。子どもの頃は「ミシェル様は私のモノよ!」という女の子たちの争いに、いったい何度巻き込まれたことか。
本人にその気がまったくないのだから、なおさら始末が悪い。
「わかった。でも、あんまり期待すんなよ」
「ありがとう! さすがアンリだ。頼りになる」
こうして――。
ミシェル女化計画(?)が幕を開けた。
◇◇◇
わかっていたことだが、いざ採寸してみると、ミシェルは長身なうえ、肩幅も普通の令嬢より広かった。既製品のドレスでは、肩に合わせれば他が余り、身頃に合わせれば肩が窮屈になる。
結局、ドレスは一から俺が仕立てることになった。
「別に、既製品で構わないのだが」
「ばーか。身体にあった服とそうでない服とでは、大違いなんだよ」
全体のバランスはもちろん、姿勢や身体の癖まで考慮出来るため、不自然な皺を抑えられる。
何より、身体に合わせて仕立てることで、服の形で理想のシルエットが作れるのだ。
「せっかくだから、制服のスカートも直してやるよ。明日からは、スカートで登校するんだろ?」
「それは不要だ。男装の方が、みんな喜ぶしな」
女の子たちは喜ぶだろうが、その陰でひっそり泣いている男のことも考えてほしい。
自分の好きな子がミシェルに夢中になっているのを、しょんぼりと肩を落として眺める男子を、俺はこれまで何人見てきたことか。
「それに、私は王女殿下の護衛もあるから、動きやすいほうがいいのだ」
「もう学院に来ていないんだから、いいんじゃないか?」
「そういうわけにはいかない。いつ、いかなる時にお見えになるかわからないからな」
――真面目な奴である。
オスニア王国に嫁ぐことが決まった王女殿下は、結婚の準備があるため、もう学院には来ていない。
だが、よほどミシェルがお気に入りらしい。
王宮から護衛がついているというのに、いつもミシェルを側に置きたがっていた。
「ついでに聞くけど、家ではどうしてたんだよ」
「動きやすい服装でいたが?」
豪快な父に、武術馬鹿の兄が三人。
ミシェルに年頃の女性らしい振る舞いを教える人は――皆無だな、うん。
「……化粧も教えてやるよ」
「できるのか!?」
「ああ、任せろ。姉上を当代一の美女に仕立て上げ、王太子殿下の心を射止めさせたのは、この俺だ」
姉にみっちり仕込まれたおかげで、詐欺まがいのメイクもお手のものだ。
せっかくのミシェルの初デートだ。
毒を食らわば皿まで。
こうなったら、腕によりをかけてとびきり可愛くしてやろう。
◇◇◇
いよいよ、ミシェルの初デートの日である。
この日のためにリンベルク国の靴はもちろん、ザイリ王国のバッグまで取り寄せた。
ドレスはクリーム色の生地に、リュカの瞳の色に合わせた細い緑のリボンを袖にあしらった、俺渾身の一着。
寝る間も惜しんで仕立てた、自信作だ。
それに姉から髪の結い方まで教わり、ミシェルに化粧も施した。
そうして鏡の前に立ったミシェルは――すごく可愛かった。
「い、いいんじゃないか?」
「そうか?」
本人は鏡を眺めながら、どこか戸惑ったようにドレスの裾をつまんでいる。
「足元がスースーして落ち着かないんだが。こんなものか?」
「そんなものだろ。……知らんけど」
「それに、腕が動かしにくい。これでは剣が振りにくい」
パッと目の前にドレスの裾が広がる。
一瞬、白い足が見えたような気がして、心臓が潰れそうになった。
そして気づけば、ミシェルの手には短刀が握られていた。
「お前、それ、どこから出した?」
「ここだが?」
ミシェルがパンパンと太ももを叩く。
「デートに短刀を持ち歩くなよ」
「アンリの飴と一緒だ。ないと落ち着かない」
子どもの頃、どうしても欲しい赤色の染料を求めて山に入り、遭難した。
飢えの恐ろしさを思い知った俺は、それ以来、飴を常備している。
「髪も、一つに結んでいないと邪魔なのだが……」
「文句言うな。普通の令嬢はいつもそんな感じだ。リュカが喜ぶと思って、頑張れ」
「可愛いを作るのは、大変なんだな」
ため息をつきながら、ミシェルは俺の部屋から出て行った。それでも、頬はほんのり赤く染まっている。
――大丈夫か、あいつ。
窓から待ち合わせ場所へ向かっていくミシェルの背中を見送れば、慣れないドレスの裾を気にしながら、さらに慣れないヒールで必死に歩いていく。数歩進むたびに、若干ふらついている。
低いヒールにしたのだが、それでも普段履き慣れていないせいか、歩き方がおぼつかない。
手を貸してやりたい気もするが、ミシェルにだってプライドがある。図書室で「淑女の振る舞い」を必死に読んでいるのを見れば、なおさらだ。まさか、デートに行くのに幼馴染の俺がエスコートするわけにはいかない。
そう思って目を逸らし、ようやく手に入れた染料植物の本を開いた。
だが、視線は文字を追っているのに、内容がまるで頭に入ってこない。時計の針の音だけが、チクタクチクタク、やけに大きく耳に響く。
――いや。あいつ、やっぱりダメだろ!
上着を掴み、階段を駆け下りる。
こっそり後をつけて、デートの様子を確認するなんて、気持ち悪いことこの上ない。ミシェルにも軽蔑されるに決まっている。
だが、あの歩き方で、本当に待ち合わせ場所まで辿りつけるか怪しい。
ドレスの裾を踏んで、転んでいるかもしれない。
リュカとの会話に詰まって、涙目になっているミシェルの姿が目に浮かぶ。
ーー友人として、念のために様子を見に行くだけだ。
自分に言い訳しながら大通りまで必死に走ると、人混みの中から頭ひとつ抜けた金髪が目に入った。
リュカだ。
その隣には、頬をほんのりと染め、はにかむように微笑むミシェルがいる。
遠目に見ても、二人はよく似合っていた。
俺は、ほっと胸を撫で下ろした。
どうやら無事に待ち合わせ場所まで辿り着けたらしい。
それでも心配で、人混みに紛れながら、二人に気づかれないよう近づいていく。
すると、リュカの穏やかな声が耳に届いた。
「いつも鍛錬場で練習している姿が素敵だと思って……」
――よかった。
リュカは、ちゃんとミシェル自身を見てくれているようだ。ひたむきに努力している姿を見染めるなんて、なかなかいい奴だ。
ミシェルはというと、頬を赤くしながらぎこちなく頷いているだけだった。
けれどリュカは気にする様子もなく、次々と話題を振っていく。
鍛錬や護衛について話を振るのは、ミシェルが話しやすい話題を選んでいるのだろう。
しかもミシェルが答えに詰まればさりげなく話を変え、歩き出せば、自然に歩幅を合わせる。ヒールに苦戦するミシェルに手を差し伸べ、紳士的にエスコートしている。
――俺がいなくても、大丈夫そうだな。
ほんの少しだけ、寂しい気持ちになった。
けれど、俺たちはもう、いつまでも仲良く遊んでいた子どもではないのだ。
二人に見つからないよう、そっとその場を離れた。
◇◇◇
翌日、学院の廊下には、朝の光を浴びながら窓辺に立つミシェルがいた。
いつもは凛々しいミシェルが、珍しくぼんやりと佇み、ただ中庭を眺めている。
「昨日のデート、どうだった?」
「ああ。ありがとう。話も弾んでな。来週は、夕陽の丘に行くことになった」
「そ、そうなのか」
落ち着いた様子のミシェルに、拍子抜けする。
もっとこう、昨日のデートがどれだけ楽しかったのか、あれこれ話してくるものだと思っていた。
だが、ミシェルはそれ以上何も言わず、桜の木の下で男子に囲まれているコレット嬢へと視線を向けた。
「男性は、やはり可愛らしい女性が好きなのだろうな」
ミシェルの言葉に、胸の奥が詰まる。
情けないが、美人で何でもできる女性を前にすると「自分なんか相手にされない」と、つい尻込みしてしまう。その点、可愛いらしい女性なら、こんな俺でも受け入れてくれそうだし、守ってあげたいとも思ってしまう。
「でも、人それぞれだからな。よかったな、リュカがいい奴で」
「え?」
「夕陽の丘は、恋人たちのデートスポットだからな。気合い入れていけよ」
リュカと楽しそうに過ごすミシェルを想像すると、なぜだか胸の奥がざわついて、面白くない気分になった。
だが、そこは幼馴染として応援すべきだろう。
そう思って言ったのに、ミシェルは何の感想も示さず、鳴り響いた予鈴に顔を向けただけだった。
「予鈴だ。遅れるといけないから、先に行く」
片手を上げて去って行くミシェルは、いつも通りカッコよかった。
なのに、その背中が妙に寂しげに見えた。
――気のせい、だろうか。
◇◇◇
「くっそ、何で俺がこんなに走る羽目になっているんだよ!」
沈みゆく夕日に向かって、俺は汗だくになりながら走っていた。
――遡ること、三時間前。
ミシェルは、リュカと出掛けるからと、化粧道具を抱えて俺の家にやって来た。「可愛くしてくれ」そう言って、自分で買ったのか、大きなリボンまで差し出してきた。
俺が腕によりをかけて、めちゃくちゃ可愛くしたというのに、大して喜びもせず「ありがとう」と言っただけ。しかも、先週までは歩くのも覚束なかったくせに、今日はしっかりとした足取りでデートに向かいやがる。どうやら一気に経験値を上げたらしい。
面白くない気分のまま、一人ベッドに転がった。
俺がお膳立てしたというのに、二人がデートしていると思うと、なぜか無性に腹が立ってきた。
気晴らしに街へ繰り出してみれば、今度はマクシムとロランが、飲み物を片手に店の中を覗き込んでいた。
そういえば、この間は喧嘩になりかけたまま謝っていなかったな、と思い出した。
別に俺が間違ったことを言ったとは思っていない。
だが、俺の言い方も悪かった。
一言謝っておこうと、俺は二人の方へ歩いていった。
すると、風に乗って、珍しく心配そうな二人の声が聞こえてきたのだ。
「やっぱりさ、リュカの邪魔しに行ったほうがいいんじゃない?」
「そうだよなぁ。ミシェルは腹は立つけどいい奴だし、賭けの対象なんてあんまりだ」
「……おい、どういうことだ?」
マクシムの口から漏れた言葉に、思わずロランの筋張った肩に手をかける。
「あっ」と二人が同時に口を押さえたが、もう遅い。
「喋らなかったら、試験対策の手伝いしないからな」
卒業が危うい二人にとって、それは何よりも恐ろしい脅しだろう。
力でねじ伏せるより、頭を使ったほうが早い。
腕力では勝てなくても、これなら俺にもできる。
「…………わかったよ。でも、俺たちは賭けてないからな」
しぶしぶとマクシムが口を開いた。
話を聞けば、ミシェルが去った後も、マクシムたちはミシェルの悪口を言っていたらしい。あまりにも女の子に慕われるミシェルに、妬みもあったのだろう。
そのうち「女にモテるミシェルが、男の前ではどんな顔をするのか見てみたい」などとと面白半分に言い出したそうだ。
それを後ろで聞いていたリュカが「俺がミシェルを落としたら、いくら払う?」と言ってきたらしい。
さすがにマクシムたちも、それには引いた。
「そこまで悪趣味なことはしない」と誘いを断ったという。
ところがリュカは、顎に手を当てると「ひと儲けできるな」と呟いた。
そのときは誰も気に留めなかった。
だが、今日ミシェルと並んで歩いているのを見かけたマクシムたちは、もしかすると本気ではないかと考えたらしい。
「だって、デートできたら、千ギル。キスで五千ギルって言ってたんだよ。あんまりだろう?」
「もしかすると、俺たち以外に声をかけたのかもしれない」
その言葉に、頭が真っ白になる。
――なんだ、それ。
俺の知らないところで、ミシェルの恋が金に換算されているじゃないか。
「…………夕陽の丘」
途端に、俺の頭の中で警報が鳴り響いた。
あいつの――ファーストキスの危機だ!
マクシムたちに背を向けると、俺は慌てて駆け出した。
身体が軽いせいか、走ることだけは昔から得意だった。後ろからマクシムたちが何か叫んでいる声が聞こえたが、そんなことはどうでもいい。
俺はただ、夕陽の丘を目指して走った。
脳裏に浮かぶのは、リュカの隣ではにかむように微笑むミシェルの顔。
――チクショウ! ミシェルの純情を弄びやがって。
ミシェルがお前に何かしたか?
鍛錬に明け暮れてきたから少しズレているが、真面目で、一生懸命で、誰にでも優しい奴だ。
それが初めて恋をして。
一生懸命、お前のために可愛くなろうとして頑張って。
それを笑うなよ、馬鹿にするな。
ミシェルがどんな気持ちで慣れないドレスを着て、お前の前に立っていると思っているんだ。
頼むから――あいつを傷つけないでくれ。
丘の上まで駆け上がり、息を整えながら周囲を見渡す。何組かのカップルがベンチに腰掛け、肩を寄せ合いながら夕日を眺めている。
だが、どこを見渡してもミシェルの姿はない。
急いで柵から身を乗り出し、眼下の街並みに目を凝らす。夕暮れに染まる街を見渡し、丘の斜面へと視線を走らせた。
「ミシェル……。どこだ?」
丘の斜面を走る小道の先に、いくつかの人影が見えた。夕日の逆光で顔まではわからない。
それでも、俺が今日結んだ白いリボンだけは、はっきりと見えた。
「……え?」
なぜかミシェルは、リュカと一緒に柄の悪そうな男たちに囲まれていた。
「あいつ、なんで抵抗しないんだよ」
ミシェルなら、あんな男たちくらい光の速さで地面に沈めることができるだろうに。
だが、次の瞬間、背筋が冷たくなった。
ミシェルの背中に、男が何かを押し当てている。
夕日を反射して、銀色の刃が光った。
――短刀だ。
だから動けないのか。
もう何も考えられなくなり、必死で坂道を駆け下りる。足をもつれさせ、今にも転がり落ちそうになりながら、それでもミシェル目指して走った。
「頼むから、無事でいてくれ!」
もう俺の心臓は壊れそうだし、胸も焼けるように苦しい。
ようやく追いつけそうになったところで、ミシェルたちは男たちに囲まれたまま、町へと続く道を外れ、林へ入りこむ細い道へと入っていく。その奥に、長いこと使われていないらしい古い納屋が建っていた。
「どうすりゃいいんだよ!」
俺は座学なら先生方のお墨付きだが、実技は中の下。
武器を持った悪党三人から、捕まった二人を助け出すなんて、そんな高度なことができるわけがない。
そもそも、授業で習っていない。
「武器とか、何か持ってたっけ?」
ポケットを探れば、いつも持ち歩いている飴の小瓶しかない。
――万事休すである。
丘の上にいた恋人たちに、騎士を呼んでもらえばよかったと後悔したが、後の祭りだ。
もう自分で何とかするしかない。
だが、扉の前には見張りが一人。正面から入るのは、絶対に無理だ。
納屋の裏手へ回り、窓からそっと覗く。
――いた。
ミシェルもリュカも、後ろ手に縛られている。
その前には、眼帯をつけた男と大男。
二人とも短刀を片手に、逃げ場などないと言わんばかりに、ミシェルたちを脅しつけていた。
「お嬢さんの知っている情報を教えてくれたら、解放してやるよ。だから、さっさと吐いちまいな」
「な、なあ。俺は関係ないだろ? 逃がしてくれよ」
首元に刃を突きつけられ、情けない声を上げているのは、リュカだった。
自分だけ助かろうとしている姿に、腹の底から怒りが込み上げてくる。
「だめだ。ほら、お嬢さん、恋人がどうなってもいいのか?」
「恋人ではない」
「そこはどうでもいいさ。友人でも何でもな。王女がいつ、どの道を通って出立するのか。それを教えてくれれば、この男は解放してやる。――断れば、どうなるかわかるな?」
――王女狙いか。
オスニア王国への嫁入りを阻止したい輩がいるのだろう。王女を害して、この縁談を破談に持ち込もうとしているに違いない。
「そちらが依頼主を話してくれれば、私も話すが?」
「知ってどうするんだよ」
「冥途の土産にしたい。何も知らぬまま殺されるのは、あまりに癪だからな」
ミシェルが平然と言うと、大男は一瞬きょとんとした。
そして次の瞬間、堪えきれないと言わんばかりに笑い出した。
「何とも肝が据わったお嬢さんだ。だが、俺たちが口を開くことはねぇよ。一流だからな」
「そうか、残念だ。大方、うちとオスニア王国の同盟を嫌うリンベルク国の回し者ってところか?」
「…………」
「その顔を見る限り、あながち間違いでもなさそうだな」
王族の婚姻は、どの国と縁を結ぶかによって、周辺国との力関係や同盟関係まで変わってしまう。
だからこそ、王族の婚姻を巡っては、昔から暗殺や陰謀が絶えなかった。
とりわけ、今回の王女の嫁入りは大きな意味を持つ。
長年敵対していた二国が、近年急速に台頭してきたリンベルク国に対抗するため、婚姻によって手を結ぶのだ。それを快く思わないリンベルク国が、黙って見ているとは限らない。ましてや、この機に乗じて戦争を望む者たちが動き出しても、不思議ではなかった。
「質問は、俺がしてんだよ。あんたは答えるだけでいい」
「な、なあ。俺は、ここにミシェルを連れてきたら金をくれるって、言われただけなんだ。俺は何も知らない。関係ないだろ?」
――あいつは、ミシェルの恋心を金にしようとしたどころか、スパイに売ったらしい。
それを聞いたミシェルがどう思うのかと考えると、胸が締めつけられた。
痛ましい思いでミシェルに目を遣ると――こちらを向いて、パチリとウィンクしやがった。
「最初からそのつもりかよ!」
思わず声が出てしまい、慌ててしゃがみ込み、口を押さえる。
腹が立って今すぐ帰りたくなるが、ここまで来て見捨てるわけにもいかないだろう。
まったく、どこまで人を振り回せば気が済むんだ。
だが、格闘が苦手な俺ができることなど、たかがしれている。
頭に手を突っ込み、髪をぐちゃぐちゃにかき回した。ついでにシャツのボタンを一つ引きちぎり、頬や額に泥を塗りたくる。
――よし。これでかなり悲惨に見えるはずだ。
あとは、演技である。
意を決して扉の正面へ回り込むと、腹の底から声を張り上げた。
「助けてください! 強盗に遭ったんです!」
自分でも驚くほどの大声が、納屋の周囲に響き渡った。
すぐさま見張りの男に駆け寄り、縋りつきながら必死に声を上げる。
「早く騎士を呼んできてください! まだ近くにいるかもしれません!」
「な、なんだ!?」
騒ぎを起こされるのは、向こうだって嫌なはずだ。
案の定、納屋の中から大男が顔を出した。
「うるせぇよ! 黙らせろ!」
「あっ、その人相の悪さ……まさか強盗!? 誰か、誰か来てください!」
わざと逃げようと踵を返した瞬間、背後から腕を掴まれた。
見張りの男が、俺の腕をむんずと掴んだのだ。
「おい、黙れ!」
「助けてくださ~い! ここに強盗がいま~す!」
「うるせぇ! 黙れって言ってるだろ! お前も、ここへ入っとけ」
どすん、と納屋の中へ投げ飛ばされ、俺はわざとよろけながら、ミシェルの隣まで這いつくばった。
「ひぇっ、怖いよ~」
ミシェルに抱きつくふりをして身体を寄せ、そのままミシェルのドレスの裾へと手を忍ばせる。
――緊急避難だ。決してやましいことはない。断じて、セクハラではない。
ミシェルの太ももに固定されていた短刀を素早く抜き取り、背後に回した手で、縛られたロープに短刀を当てる。
「女に縋ってんじゃねーよ」
大男に肩を掴まれた、その瞬間。
ざくり、とロープが切れた。
ぐい、と身体を引かれたかと思えば、次の瞬間には、男の大きな身体が宙を舞っていた。
――ミシェルだ。
「はっ……?」
次の瞬間、眼帯の男の腹にミシェルの蹴りがめり込んだ。
眼帯男は呻き声を漏らし、地面に膝をつく。
「この野郎!」
斬りかかろうとした大男の足を、ミシェルが屈んでさっと引っかけた。
足を取られた大男の巨体が、勢いよく前のめりに倒れる。
「ぎゃぁ!」
大男がそのまま倒れ込んだ先にいたのは、リュカだった。
短刀が顔に突き刺さりそうになり、リュカは情けない悲鳴を上げたきり、気を失った。
大男は額を押さえながら、よろよろと立ち上がろうとしている。すかさずミシェルが、脳天めがけて足を振り下ろした。
「おいっ! ロープ切った意味は?」
「足だけでいけるが?」
「じゃあ、俺、助けに来る必要なかったよな!?」
「いや、必要だ。ほら、もう一人が逃げ出してしまった」
「…………え?」
振り返れば、見張りの男がそそくさと扉へ向かっている。
どうやら形勢不利だと判断したらしい。
男は扉を開けるなり、そのまま外へと飛び出していった。
「アンリが追いかけて、捕まえてくれると助かるのだが」
その背後で、腹を蹴られた痛みから立ち直った眼帯男が、再びミシェルに襲いかかった。
やばいと思ったが、ミシェルは男の姿を確認することもなく、すでに足を振り上げている。
――うん、あれなら大丈夫だ。
ミシェルを信じて、逃げた見張りの男を追いかける。
「もうっ、今日の俺、走ってばっかじゃねーか!」
幸い、林を抜ける直前で追いついた。
後ろから男に飛びつき、そのまま勢いに任せて地面へ引き倒す。
だが、男は倒れた勢いなどものともせず、すぐさま身を起こした。次の瞬間、横っ面に強烈な一撃が飛んでくる。
「痛っ!」
俺が地面に転がっている間に、男は脱兎のごとく駆け出していく。
一瞬だけ追うべきか迷ったが、ここで逃せば、またミシェルが狙われるかもしれない。
必死に身体を起こすと、俺も後を追うために地面を蹴って走り出す。
「待てっ!」
その言葉に呼応するかのように、さっきまで逃げていた男の足がぴたりと止まった。
何事かと思った次の瞬間、男の身体がゆっくりと前へ傾いていく。
そして、その背後から現れたのは――不敵な笑みを浮かべたマクシムだった。
「ようっ。腕っぷしが必要だろう?」
マクシムの後ろから、ひょいとロランが顔を覗かせた。
「ちなみに、飴玉で作られた暗号を見つけたのは、僕だからね」
ロランがそう言って、俺の足元を見る。
小石や小枝を使い、危険を知らせ、仲間へ助けを求める――騎士たちが使う簡単な合図。
俺はそれを真似て、小石の代わりに飴玉を並べた。
どうやら、ちゃんと伝わったらしい。
「ありがとう、助かったよ」
へなへなとその場に崩れ落ちた俺に、マクシムは鼻の下を擦りながら、得意満面の顔で告げた。
「追試の対策、よろしくな!」
◇◇◇
翌日から学院に姿を見せなくなったミシェルに、やはりリュカのことがショックだったのだと、大いに心配した。
ところが、ミシェルは王女の護衛として、オスニア王国まで同行していたらしい。
ミシェルの兄に尋ねてみたものの、帰国の予定は機密事項だと教えてもらえなかった。
そして一ヶ月後。
ミシェルは何事もなかったような顔で、土産を持って俺の家を訪ねてきた。
「何度も訪ねてきてくれたのに、悪かったな。護衛を命じられたのが急だったものだから、アンリに言う暇がなかった」
「別にいいよ。それに、捕まえた犯人たちのこともあったから、忙しかったんだろ」
口を割らないと言っていた犯人たちだが、騎士に捕縛され、拷問を受けると、あっさりと黒幕の名を吐いたらしい。
ミシェルの読み通りだった。
オスニア王国との同盟が強化されることを恐れたリンベルク国が、裏で糸を引いていたそうだ。
「なあ、リュカがお前に本気じゃないって、いつから気づいていたんだよ」
「最初のデートのときだ。やたらと王女殿下について聞いてきたからな。怪しいと思って、リュカのことを調べたら、賭け事に手を出して借金があった。素性の知れない者たちとも接触していたし、何よりリンベルク国がきな臭い動きを見せていることは、父上を通して知っていたんだ」
「……そうなのか」
「ああ。私は王女殿下と親しくしさせていただいていたからな。女だからと侮り、少し脅せば簡単に情報を引き出せると思ったのだろう」
リュカも馬鹿なことをしたものだ。
王女の行動予定を敵対国へ売ろうとしたのだから、王族への危害を企てた罪に問われ、死刑を言い渡されてもおかしくなかった。
未成年だったこともあり命だけは助かったが、その代わり貴族籍を剥奪され、強制労働に送られた。
小遣い稼ぎのつもりだったのかもしれないが、その代償はあまりにも重かった。
「リュカに会いに行けば、危ないことくらいわかっていたんだろう? それなのに、なんで誰にも知らせなかったんだよ」
「私一人で対処できると思ったからな。それに、私は王女殿下の行動予定を知らないのだ。万が一、私に何かあったとしても、王女殿下の情報が漏れることはない」
本当に、それだけだったのだろうか。
どこかでミシェルは、リュカが自分に向けてくれた好意は、本物だと信じたかったのではないだろうか。
あの日、ミシェルはどんな思いでコレット嬢を眺め、リボンを買ったのだろう。
「襲われたときのために、ちゃんと準備もしていた。だから、問題はなかったんだ」
そう言いながら、ミシェルは踵のない靴を履いた足を上げてみせた。
なるほど。
道理で、あれほど足取りが安定していたわけだ。
「それでも、危ないだろ。命を落とすかもしれなかったんだぞ」
「心配かけて悪かったよ。でも、アンリが来てくれて助かった」
ミシェルは軽く俺をいなしながら、紅茶を口に運んだ。
その姿に、胸がきゅっと痛む。
少なくとも最初のデートまでは、ミシェルはリュカのことを本気で信じていたはずだ。
頬を染め、ドレスが必要だと言ったミシェルの顔が、脳裏にこびりついている。
平気な顔をしているからといって、傷ついていないわけじゃない。
だけど、どう慰めていいかわからない。
触れて欲しくないかもしれないし、気の利いた言葉をかけられる自信もない。
仕方なしに、用意していた大きな箱をぼんっとテーブルの上に置く。
「なんだ、これは?」
「ミシェルへのプレゼントだよ。卒業パーティのとき、ドレスがいるだろう?」
目を丸くしているミシェルをよそに、俺は箱に結ばれたリボンを解いていく。
中から現れたのは、真っ赤なドレスだ。
茜から取り出した染料で、何度も染め重ねてようやく生まれた、深く鮮やかな赤。
幼い頃から、ミシェルに似合うのは絶対この色だと思っていた。その色を作るための染料を、ようやく見つけることができたのだ。
「スカートの内側に隠しスリットも入れたし、裾も短めにしたから動きやすいと思う。重くならないよう装飾を減らしたけど、その分デザインにはこだわったから」
「ああ、ありがとう」
「ミシェルを想いながら、ひと針ひと針縫い上げたんだ。絶対に似合うと思うから、着てくれよ」
驚いてはいるものの、ミシェルの表情に大きな変化はない。
――少しくらい、俺の気持ちに気づいてほしい。
ダメ押しで、付け加える。
「いい色だろ? 社交界では、好きな相手に、自分の髪や瞳の色のドレスを纏わせるのが流行しているんだ」
「なぜだ?」
――そこから説明しなきゃダメなのか?
顔を隠すように俯き、自分の赤い髪をくしゃりと掴んだ。
きっと、この赤を作るための染料を探そうと思ったときには、もうミシェルに恋をしていたのだろう。
だけど、近くにいすぎた。
いつも隣にいるのが当たり前で、それが恋だなんて思ったこともなかった。
リュカに取られ、ミシェルが傷つけられたと思ったとき、ようやく気づいた。
――俺は、ずっとミシェルが好きだったんだ。
「好きな子を、誰にも取られたくないんだよ。だから、その……周りを牽制してるんだ」
頼むから、これで気づいてくれ。
これでも、へたれな俺にできる精一杯のアピールなんだ。
「……それは、私のことが好きだということか?」
ここまで言っているのにまだ確認するミシェルに、心が折れそうになる。
だけど、はっきり言わないと、鈍いミシェルには伝わらないのだろう。
――仕方ない。
ここまで来たら、もう言うしかない。
意を決して、ミシェルを見つめた。
「そうだよ。ミシェルが好きなんだ。ずっと前から……誰よりも可愛いと思ってる」
すると、瞬く間にミシェルの顔が赤くなっていく。
俺の告白に反応――いや「可愛い」に反応しただけかもしれない。
だけど、それならそれでいい。
これからずっとミシェルのそばにいて、何度でも伝えよう。
「可愛い」って。
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