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【短編版】犬探し〜猫琉羅斗の依頼〜

作者: ツキノ
掲載日:2026/02/23

甘党探偵月影ましろ〜インフィニティ・オンライン〜(連載版)より。

「ふふっ。無事に帰って来れてよかったね。魔王サマ」

「フン。どうせならあのステータスの状態で現実リアル世界に帰してくれればよかったものの」

「まー、人生そんなに上手くいかないって。現実リアルでは物語ソネット狩って上手くやるしかないっしょ」


赤羽根榴姫あかばねるき夜闇鴉よやみあろうが制服姿で学校に通っている最中だ。2人は昨日経験したVRMMORPGインフィニティ・オンラインでの出来事について話していた。


「またしてもあの甘党探偵にやられた気分だ」

「まぁ運良くチート引き当てただけだと思うけど」

「ーーもしもし、そこのお方たち」

「ん?」

「アタシたちのこと?」


のんびりとした声に引き留められ、夜闇鴉よやみあろう赤羽根榴姫あかばねるきは足を止めた。


「今、探偵がどうのと言ってた気がしたのですが……」

「ああ。それがどうかしたのか?」

「実は僕、探偵を探してまして。教えてくれませんか?その人の居場所を」



◇◇◇



「ん~。今日は暇だなぁ」


来夢に林檎、綺羅々、鵜久森は学校に通っている時間帯。午後2時を過ぎたあたり。ましろはカウンターに寄りかかり背伸びする。

そこへ、カランカランと扉に付けられているベルが鳴り響いた。


「こんにちは」

「いらっしゃいませ」


ましろは慌ててカウンターから腰を離した。カフェに入ってきた人物は気にもしてない様子だ。


「君が甘党探偵、と呼ばれている月影ましろくんかい?」


男性に問い掛けられ、ましろは首を傾げる。


「貴方は一体……?夜闇鴉よやみあろうの知り合いですか?」

「僕の名前は猫琉羅斗ねこるらと。君のことを通りすがりの学生に聞いてね。依頼をしてもいいかな?」

「ええっと……」


探偵じゃないんです、とは言い辛い雰囲気。猫琉羅斗は気にせずテーブル席に腰掛けてましろを手招きする。


「君にある犬を探してもらいたくてね」

「犬探し、ですか?」


ましろが向かい側の席に座ったのを確認すると、猫琉羅斗は話を切り出した。


「これが、居なくなってしまった愛犬のティロさ」

「……」


テーブルに置かれた写真を見て、ましろは困惑する。写真に映る犬はどう見ても狼のようなものに見える。痩せこけて骨が露出しているような身体。長い針のような舌。全身が青い炎で燃え盛っているように見える。


ボクの手には負えないような案件の気がするーー直感でそう感じたましろは、写真を突き返した。


「探してきてくれて、折角なのですが……」

「引き受けてくれないのかい?依頼料は弾むよ。これくらいで」


猫琉羅斗はメモ帳を取り出し、ボールペンで15万と書く。ましろは身を乗り出した。


「ほ、本当に!?依頼料15万円??」

「ああ。なんなら現物でも見るかい?」


猫琉羅斗が懐から茶封筒を取り出し、15万円を取り出して数える。


「や、やります!引き受けさせてください!!」

「ああ。よろしく頼むよ」


ましろと猫琉羅斗は両者とも笑顔で握手をした。



◇◇◇



「ーーで。この如何にも怪し気な犬を探すことになったと?」

「仕方ないじゃないか。探して捕まえれば15万だよ15万」


先日の件でスマホをなくしたましろにとって、今回の件は報酬に釣られてしまっても仕方がないことだった。


「まあ、確かに特徴的な犬ですし。御伽街内に居るとすれば簡単に見つけられるかもしれませんね」


猟犬でしょうか、と猟師の呪いが疼くのか、林檎は写真に映る犬に興味津々である。


物語ソネットとは関係ないことをポンと持ってこられてもね』


ラプスはやれやれという口調で不満そうにしっぽでぺしぺしと床を叩く。


「15万あれば新しいスマホがすぐ買えるしね!」

『聞いてないなましろってば』

「まぁ、15万って言ったら学生には大金だもんね。仕方ないよ」


鵜久森がコーヒーに砂糖を入れてかき混ぜる。


「飼い主さんによれば、昼型の犬で日中の散歩が好きみたい」

「こ、この姿の犬が日中出歩いてるの?こわ」


綺羅々が拾い上げた写真をはらりと落とす。


「とにかく、みんなも学校の登校途中や帰り道でもし見かけたら、ボクに連絡ーーあ、そうだった……。ボクに教えてね」

「ましろさんがスマホを持ってないのは、連絡する側も不便なので致し方ありませんが……」

『まあ、100歩譲って犬を探すのはいいとして。ちゃんと物語ソネットを探すように』

「うん。わかったよ。ラプスも犬探しに連れて行こう」

「ちょっと、ましろくん!?もうすぐ夕飯だよ!!」

「寝床を見つけられたらすんなり捕まえられるかもしれない……。すぐ戻るから安心してください」


外へ出ようとするましろの後を、ラプスがついていく。


「安心って、君、ケータイ持ってないじゃないか!」

「やっぱ今の時代、ケータイがないと不便だよ」


ましろを呼び止める鵜久森。スマホゲームをしながら肩を竦める綺羅々。


「……行っちゃいましたね」

「まぁ、ましろさんは一応護身術はありますし……。ですが、かと言ってこの前みたいに動画を撮られるようなことがあると厄介なんですけど」


目を合わせる林檎と来夢。アーバン・レジェンドの窓の外から、その光景を見つめる者がいた。


「昼間を待たずに夜に行動するか……。まぁ、厄介事は昼間より格段に減るだろうから、それも良しだね」



◆◆◆



『ねぇましろ』

「なんだい、ラプス」

『犬の寝床探しって、何か心当たりがあるのかい?』

「いや、全然。ただ特徴的な犬だから、写真を見せればすぐに見つけられそうだなぁって思って」


飼い主から手渡された5枚の写真をひらひらとさせ、ましろは歩いている。


『……』

「どうしたんだい?らしくもなく黙り込んじゃって」

『見つけやすい犬なら、どうしてわざわざ探偵を見つけて依頼なんてしてきたんだい?今回の件、話が美味すぎないと思わないのかい?』

「……言われてみれば、ラプスの言う通りかもしれないね」

『だろう?僕にしてはとてもまともなことを言ってるよね』

「でも、報酬の旨みには届かないかな」

『スイーツ以外の報酬に目を輝かせているなんて……、こんなのましろじゃない……!!』

「そうだね。ボクにしては珍しいことかもしれない」


ましろは胸元のポケットに写真をしまい、ソーダ味のチュッパチャプスの包装を破り始める。


「でも、みんなが言っていた通り、現代はスマホがないと不便なんだ。ボクはスマホをなくして、それを初めて知ったわけさ。今度買うのはiphone17のセージにするって決めたよ」

『僕は人間じゃないから、スマホを欲しがるましろの気持ちはわかんないや』


とてとてとついてくるラプスは足を早める。ましろの歩幅に合わせて歩くのは一苦労だ。


「すみません、ちょっと聞きたいことがあってーー」


ましろが街を歩く人相手に聞き込みを始める。数十人相手に聞いてからだろうか。夜勤明けと思わしき女性が、首を傾げながらましろの見せる写真を見つめた。


「昼間の休憩時間に見たことがあるわ。……疲れが出て何かの見間違いかと思ったけれど……」

「ありがとうございます。その犬はどこに行ったかわかりますか?」

「確か、最近出来た風変わりなマンション辺りに逃げて行ったわ」

「風変わりなマンション……?」

「なんでも、螺旋状になっている建物らしくて……、風変わりな分、家賃もさぞかし高いんでしょうね」


ほら、あのマンションよ。と、女性が指差す方向を見ると、郊外に聳える立つ螺旋状の建物の上部が目に入った。


『どうするましろ?マンションとなると、聞き込みにまた時間がかかりそうだけど』

「うーん……。誰かに拾われて、飼われている可能性もあるのかなぁ?」


今日はもう遅いし、調査は明日にしようと、ましろは螺旋状のマンションに踵を返した。



◇◇◇



気を取り直して翌日の昼頃。ましろがマンションの住人に聞き込みを行ったところ、どうやらティロは最上階に住む人間に飼われている可能性が浮上してきた。


「うーん……。厄介なことになってるなぁ」

『事情を話して、大人しく受け渡ししてくれるかどうかだね』


ましろがインターホンを鳴らすと中年の男性の声が応答する。


「へーい。どちら様ですかー?」

「あ、すいませーん。貴方が飼っている犬の件でちょっと聞きたいことがあって……」


ガチャリと扉が開けられ、その部屋の住人が姿を現す。


「こ、近衛さん……!?」

「ん?何で俺の名前……って、コンビニ常連のスイーツ男子くん?」


意外な人物を目の当たりにし、ましろは驚きを隠せない。近衛昴このえすばるは、立ち話もなんだから、部屋に入るように誘導する。


「お、おじゃましまーす……」

「はは。コンビニ店員がこんな良いマンションに住んでて不思議だろ?このマンション、事故物件が複数あってさ、家賃4万で安いわけよ」

「じ、事故物件……」

「ほら、ポチこいよ」


ポチ、と呼ばれた犬のような生物はフローリングに敷かれたクッションの上で寛いでいた。ぴくりと耳を立てると近衛のところまで歩いて行き、抱きついてくる。


「だいぶ懐いている……」

「ポチは最近近所で拾ったんだ。夕方ぐらいに寂しそうにひとりで歩いててな。朝シフトで帰りの時に俺たちは出会ったんだ」

「へ、へぇ……」


よくもこの外見の犬を飼おうと決めれたものだと、ましろは感心する。


「こ、この子、の名前は本当はティロって言うんです。飼い主が捜索願いを出していて」

「ふぅん。本当の飼い主がいるわけか……」


ドッグフードを与えながら、近衛は考え込む。


「どうしようかねぇ。ペット系動画でバズった後だし、おじさんポチと別れるのは辛いよ……」

「バズったって」

「ほい。この動画だぜ」


テーブルに置かれていたパソコンを弄り、近衛は一件の動画をましろに見せる。【野良犬拾いました】再生数約10万回。


「リスナーと話したけど、ドーベルマンと何かのミックス犬かなぁこいつ」

「あはは……違うと思います」


ましろが流れるコメントを見ていると、ある一部のコメントに目が止まった。


:そいつはティンダロスの猟犬じゃないのかい?

:架空の生物がいるわけないだろ

:腹空かせて弱って異常に痩せて見えてるだけだって


「ティンダロスの猟犬……」


ましろが呟くと、ポチがドッグフード を食べるのを止め、ましろをジッと見つめるようになる。


「んー……。少年よ、少し時間をくれないかい。具体的に言えば3日ほど」

「長いですね」

「良い年してこんなに別れるのが辛いなんてな……」


近衛がポチの喉元をくすぐるとポチがグルルと鳴き声を出す。近衛が居なくなれば、今すぐにでもましろに飛びかかりそうな雰囲気を醸し出している。


「ーーわかりました。もう暫く近衛さんに預けておくことにします」

「物分かりの良い少年で助かるぜ」

「それじゃあボクはこれで。お邪魔しました」


ましろは立ち上がると玄関へと向かう。あまりおもてなしできなくてすまんね、と近衛が言った。

バタンと扉を閉めると張り詰めていた空気が軽くなり、ましろは肩の力を抜く。


「架空の存在……ティンダロスの猟犬か……。近衛さんに預けたままにしといて大丈夫かな?」

『少なくとも近衛には懐いているみたいだからね……。問題はましろさ。ましろは嫌われてるみたいだよ』

「あはは……だよねー。部屋の空気からしてそんな感じだったよねー。近衛さんがいるから襲わないぞっていう……」


ましろはふぅ、と息を吐く。


「……帰ろっかラプス」

『うん。今日のところはひとまずね』



◆◆◆



「じゃあな、ポチ。バイト行ってくるから。大人しくしてるんだぞ」


ポチに見送られ、近衛はコンビニバイトに出勤する。寂しそうな鳴き声を出すポチに別れを惜しむ表情の近衛。ドアはバタンと閉められ、ガチャリと鍵がかけられた。



◆◆◆



「今日はホールじゃなくてキッチンのシフトかぁ」


今日のホール担当は来夢。キッチン担当はましろとなっている。

ましろは三角巾とエプロンを付け、厨房に立ちスイーツの仕込みに専念していた。


「クッキングシート……クッキングシートっと」


クッキングシートを小さく切る為、キッチン用のハサミを持ち、刃を広げたその瞬間だった。


「え?」


鋭角から黒い煙が吹き出し、「ソレ」は頭から徐々に実体化する。


「う、うわぁ……!?」


突如現れたポチーーティロが口を大きく開ける。ましろはハサミを放り出して逃げ出した。


「ま、ましろさん!?」

『ましろ!どうしたんだい!?』


キッチンから大急ぎで出てきたましろを見て来夢が驚く。ホールでマスコットとして鎮座していたラプスが走ってましろに追いついた。


「ちょ……!走りながらの会話はムリ!」

『ポチじゃないか!何でアーバン・レジェンドに?!』


ラプスは走りながら振り返る。ポチは目をぎらつかせながら涎を垂らしてましろを追いかけていた。


「かっ、噛まれたら死んじゃいそう……!!」

『うん。わかる。少なくともポチに噛まれたらただじゃすまないだろうね』

「グルル……!!」


街中をエプロンと三角巾を付けたまま疾走するましろ。追いかけるポチは速度を緩めることはなかった。飛びかかってきたポチを方向転換してかろうじてかわす。


『追い払うにしても、街中じゃマズい!』

「はぁ……!!も、森の方に逃げよう!!」



◆◆◆



「き、木登りなんて初めてだけど、や、やれば出来るもんだね……」


街外れの木の上。頑丈な枝にましろは縋り付いている。全力疾走したせいで息が荒い。木の下ではポチがガリガリと木に爪を立てていた。


『ーーポチから物語ソネットに似た気配を感じるよ』

「と、ということは、ポチはクトゥルフなのかな……?」

「いやあ、元気そうで何よりだよ。ティロ」


穏やかそうな声と共にパチパチと拍手をして歩み寄ってきたのは、猫琉羅斗ねこるらとだった。


「……猫琉さん」


ましろは息を整えて猫琉羅斗と対峙する。エプロンの中に入れていたマドラーを杖代わりに構えて。


「よしよし。いい子だね……」


ましろに警戒されていることを露知らず、猫琉羅斗ねこるらとはポチーーティロに近付いた。ティロは怯えているのか後退りする。

猫琉羅斗ねこるらとは手にしていた赤い首輪をティロに嵌めた。するとティロの姿がふさふさのしば犬へと変化する。


「……貴方は一体……」

「僕かい?僕は飼い犬に逃げられた、ただの飼い主さ」


赤いリードを軽く引っ張り、猫琉羅斗はにこりと微笑む。


「少なくとも、今はそう言うことにしておいた方がいい筈だよ。もちろん、君の為だよ」


そう言って猫琉羅斗は懐から茶封筒を取り出す。


「はい。これ。約束通りの報酬だよ」

「……」

「おやおや。木に登って降りられなくなったのかい?じゃあこっちの子に渡しておくよ」


猫琉羅斗は身を屈めると、側に居たラプスに茶封筒を咥えさせた。


「ーーいつかまた会う日が来ると思うよ。月影ましろくん」



◇◇◇



「もう!いきなり厨房から飛び出したと思えば、とことこと帰ってきて!一体なんなんですの!?」

「はぁ……。それはこっちが聞きたいよ」


三角巾をぐしゃりと握りしめて、ましろはアーバン・レジェンドに帰ってきた。エプロンのポケットには茶封筒ーー15万円。欲しかった筈の報酬を手にしても、新たな謎が気になり、手を合わせて喜べない。


猫琉羅斗ねこるらとーー。一体何者なんだろうね』



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