1話 魔王は知りたい。
この世界には「正」と「負」2つの魔力が存在する。
我々モンスターや魔族は負の魔力から生れ落ちる。
モンスターや魔族は凶暴、残忍、非道……
というのが人間達の認識らしい。
そして人間には【冒険者】という職業があるらしい。
それは、モンスターや魔族を倒し金を稼ぐ
仕事だそうだ。
そして今日も……。
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「今日こそお前を倒しに来た!」
「はぁ〜……」
コイツは人間で言うところの、【勇者】らしい。
最初に来た時は耳を疑った。
やれ「国の物価が上がった」だの「国の家から火災が発生した」だの……
我じゃねぇよ!!!!
国の物価も、そっちの国王や主権者達が
自分達が贅沢する為に税をあげただけ!
火災はどっかのバカが火の不始末をしただけ
だろう!?
「はぁ……くだらん。」
「なにっ!くだらないだと!?」
おっといかん、ついつい言葉が漏れてしまった。
こいつも曲がりなりにも勇者なのだ、それ相応の態度を取ってやらねばな。
「お前達のせいで!どれだけの人が苦しんだと思ってる!!」
どれだけの人が……ね。
「ふん…そんな事興味ないな。」
だって我……この世に生まれ落ちてから「1度も」城の外に「出てない」んだぞ???
こんな辺鄙な場所に城を構えてるのだって
我の一族が代々引きこもりだったからだぞ?
城の中でだって、セバスとやれ「今日は天気がいい」だの「作物が育ってきてる」ぐらいの会話しかしてないぞ。
何で我が人間たちにあーだこーだしなければならないのだ。
魔族は魔族の生活圏、人間には人間の生活圏があるのだから、こっちから手を出す意味がないだろう?
別に領地を大きくしたいとか、人間と戦争がしたいという訳でもないのに。
「して勇者よ、貴様は一体何のために剣を振るっているのだ。」
「そんなの、お前を倒して世界に平和を取り戻す為だ!」
コイツはダメだ、完全に人間側で起きてる不始末を全部我らのせいだと思い込んでおる。
誰だ、コイツをこんな化け物に育てたやつ。
「話にならんな、セバス。」
「はっ……何なりと。」
コイツはセバス、我が生まれた頃からずっと
傍にいる付き人だ。
忠義深く何でもこなす、我の右腕だ。
「アイツを殺さない程度に痛めつけて人間共の所へ捨ててこい。」
「はっ。」
刹那、セバスが勇者の後ろに回り込む。
「なっ……!」
首へ手刀一閃。
勇者の体が傾く。
「全く勇者の名が聞いて呆れる。」
「それでは魔王さま、勇者を戻して参ります。」
「あぁ……頼んだ。」
全く、なんで我がこんな事を……
「しかし…小腹が空いたな。」
お前達のせい……か。
我はまだ、人間達の事を何も知らないのかもしれない。
「魔王さま。仰せられた仕事を終わらせて……魔王さま?どこかへ行かれるのですか?」
「あぁ、少し出掛けて来る。」
我は人間を知る必要があるのかもしれない。
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「ここが人間達の国か。」
今我は人の姿に化け人間の国に忍び込んでいる。
「だが、思ったよりも賑わっている様だな。」
周りを見ても皆が幸せそうに笑い、思い思いの生活を送っていた。
商いをする人間もいれば、街中で芸を披露して日銭を稼ぐ者もいた。
「や、やめてください!」
「む…なんだ、今の声は。」
声が聞こえた先には威張り散らしているハゲているデブのおっさんがいた。
「お前らの古汚い定食屋をワシの高級レストランに作りかえてやるって言ってるんだ!分かったらとっとと店を渡せ!」
面倒事には顔を突っ込みたくはなかった、我が魔族であることがバレたら大変だからな。
だが、困ってるヤツがいるなら助けねばな。
「おい、そこのおっさん。」
「ん!?誰だ貴様は!ワシの事を知らんのか!ワシは貴族の【ブーデ・テルボーズ】だぞ!」
「生憎と貴族については良くわかっておらんくてな。」
そうか、人間には自分の位が高いと自分まで
偉くなったと勘違いする傲慢な人間もおるのだな。
「目障りだ、消えろ。」
「ひっ────!?」
……
…
゛覚えてろ゛なんて捨て台詞を吐いて逃げる
とは、滑稽極まりないな。
「ありがとうございます!」
「よい、我はただあの者が気に食わなかっただけだ。」
「でも、何かお礼をさせてください!」
ふむ、礼か……
「なら、飯を食わせろ。」
「我はいま腹が減っていて飯屋を探していたんだ。」
「かしこまりました!少々お待ちください!」
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目の前に運ばれてきたのは、茶色い物体だった。
「……なんだこれは。」
「これは当店名物の゛大猪の唐揚げ゛です!」
ふむ、人間の料理の文化は面白い。
我々魔族は基本的にそのままの魚や肉を焼いて食うのが主流だ、だがこれは……
「揚げているのか……」
人間の食文化はなんと面白い……!
「では……頂こう。」
この料理はこの木の棒…確か、゛箸゛で食べる
のか。
ツルっ。
「……」
ツルっ。
ツルっ。
「すまない、フォークをくれ。」
「えっ、あ……はい!少々お待ちください!」
面白い。木の棒如きが我に恥をかかせようとは……!
「お待たせ致しました!」
「ふむ、すまない。」
では、気を取り直して……
カリッ……ジュワァ……
「!」
美味い……なんだこれは。
「肉を噛んだ瞬間に溢れ出てきたこの肉汁……!今まで食べて来た物とは一線を画す美味さ……!!!」
しかもこの味……肉だけの旨みじゃない!
「ハフッハフッ……!」
噛めば噛むほど旨みと肉汁が溢れ出てくる。
こんなに美味いものを食べたのは魔生初めてだ……!
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「……実に美味かった。」
「ふふ、お粗末さまです。」
「して、あー……すまない、名前を聞いてもいいか?」
「はい!私の名前はスイです!」
「あの……貴方のお名前は……?」
「む……我の名前か……」
魔族には名前と言う物がない。
というか魔族は基本的に名前を持たない。
魔王である我が「魔王」執事が「セバス」と
呼ばれているように、魔族は基本的にその肩書きで呼ばれる。
「あー……我の名前…は、【マオ】だ。」
魔王……マオウ…マオ、なんとも安直なネーミングだと自分でも思った。
「マオさん!先程はありがとうございました!」
「良い、礼も貰ったしな。」
「しかし、何故あのような事が起きていたのだ。」
「えと、それは……」
どうやら、話を聞くとあのデブが個人的に国税で雇ったシェフで店を開いたが中々繁盛しなかったらしく、そしてその原因を探った時にここの店に客を取られているからだと逆上して店を渡せと脅されていたらしい。
「この店は……代々継いで来た大切なお店なんです……だから……!!!」
「全く……人とはなんとも愚かだな。」
さすれば我がする事は1つだ。
「飯の件、感謝する。」
「え!?マオさん!マオさーん!!」
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【テルボーズ低】
「ブフーッ……一体アイツはなんなのだ!」
「アイツのせいでワシの店の拡大計画もふりだしにもどってしまったではないか……!」
「おい!衛兵ども!」
「はっ!」
「あの物を捕らえてワシの前に連れてこい!
そして、適当な罪を被せてワシがこの手で始末してやる……!」
「ブーデ様!侵入者です!」
「何!?衛兵どもは何をやっとるんだ!」
「それが……相手は……」
「ふむ…やはりここがお前の家か。」
「お……お前……!何故ここに……!」
何故って……でかでかと【テルボーズ低】とあったら誰でもわかるだろう、生え際だけでなく脳みそまで後退してるのか?
「おっ……お前ら!奴を捕らえろ!」
「はぁ……」
スキル:【威圧】
「ひっ……!?」
スキル威圧は誰でも覚えれるようなスキル。
だが我は魔王だ、魔王の圧に耐えれる者はそうそういない。
「ぐぅっ……この役たたず共がァ!」
「役たたずはお前だ。」
「ひぃっ……!?」
「だが我の手にかかれば、少しはその些末な脳みそも使い物になるだろう。」
「なっ……何をするつもりだ!こんな事許されると思ってるのか!?」
「我は誰に許しを乞うつもりもない。」
スキル:【改変】
「これで少しは自国の民の痛みを理解出来るだろう。」
「あ……あがが…」
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1週間後。
「いらっしゃ───マオさん!」
「あぁ、また食べに来たぞ。」
「もう、あれからずっと待ってたんですよ!」
「それより聞いてください!前マオさんが追い払ってくれたテルボーズが謝罪に来たの!」
そこから色々な事が分かった。
まずはあのハゲ…テルボーズが謝罪に来たこと
と自らの悪事を告白し貴族の爵位を剥奪されたこと。
「良かったな。」
「これもマオさんのおかげだわ!本当にありがとう!」
ふむ、これで我の心の突っかかりも取れた。
「今日は近況を聞きに来ただけだ。」
「ではな。」
「あっ……!待って!」
「また!食べに来て下さいねー!!!」
゛また食べに来てくれ゛か……
「人間も、捨てたものではないな。」
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【魔王城】
「魔王さま、今晩のお食事は何になされますか?」
「……」
「魔王さま?」
「唐揚げを頼む。」
その日から、魔界では唐揚げが定番のメニューとなった。
1話 完
ご覧いただきありがとうございました!
今日暇な時間に「これ面白そうだな〜……」って
何となくで書き始めた物ですが、何とか
1話終わらせれました。
こちらも時間があれば更新していきます!
改めてご覧いただきありがとうございました!




