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第9話 戦闘は最小限のスタンスです。

 スコーンに跨り、森の深部へと足を進めていきます。

 見知らぬ土地ではありますが、すれ違う動物さんたちは顔なじみばかりです。おかげで戦闘開始となることはなく、スムーズに目的地に近づけています。


「ではまた~」

「ドゥルルル~」

「……ねぇプリオリ」

「はい、なんでしょうか?」

「先ほどからすれ違っている奴らはみんなアンタの友人なのか?」

「そうですよ。今、お話していたのは大蛇のコロネさんです。高いところにあるものが欲しいとき、率先して採りに行ってくれる優しい方なんですよ」

「……そうか。今さらだけど、プリオリ様って呼んだほうがいいかな?」

「急に距離感のある呼び方はやめてくださいよ。私はゆくゆくはフレアさんとお友達になりたいのですから」

「友達か。……難しいんじゃないかな、私たちが友達になるのは」

「がーん……」


 仮にここがマンガ世界だったのなら、今頃私の背景に稲妻のような効果線が走っていることでしょう。

 

 たくさん言葉を交わし打ち解けてきたと思っていましたが、どうやら私の誤認だったようです。魔族の皆さんとも林檎の森に入ったときよりも距離感を感じていますし……うぅ私無自覚になにかしてしまったのでしょうか?


 ……くよくよ悩んでいても仕方ありません。喫緊の課題はグランドアップルを採取することです。少なくともこの課題を乗り越えればエリシュナさんとお友達になれることが確約されているのですから。千里の道も一歩からです!


 その後も動物のお友達とすれ違いながら歩くことしばし、ついに地図上にグランドアップルがあると表記される地点にたどり着きました。


「この崖の頂上にあるっぽいですね」


 自力でよじ登ることはできそうにないですが、浮遊魔法を使えばひとっとびでしょう。


 大人数で向かうのもなんですし、ここは私が代表してグランドアップルを採取することにしましょうか。

 その旨を皆さんに伝えようと振り返ったその時、ズドンとけたたましい音が鼓膜を突きました。音のした方角に首を捻ります。


「何者だ貴様ら」


 抑揚のない声で訊ねてくるのは、血色の悪い真っ白な顔をした男性の方でした。そこらについている骸骨のアクセサリーにまず目がいきます。腰に携えられた剣の持ち手にまで骸骨の装飾があしらわれていました。骸骨好きすぎません?


「魔将軍ガイニス……! お前ら、武器を構えろ!」


 エリシュナさんの一喝で、魔族の方々が一斉に武器を構えます。


 魔将軍ガイニス。

 誰かは知りませんが、魔族の皆さんが恐れる存在であることは明白です。剣を構えるエリシュナさんはガチガチと歯を鳴らしていました。


「ふっ、たかが50の無勢で俺を討てるとでも?」


 ん~、戦闘する流れは避けられなさそうですねぇ。

 ……しょうがありません。


「いいえ、貴方の相手は私ひとりです」

「ん?」


 ガイニスさんの意識が私を捉えた直後、詠唱を省いて光魔法を放ちました。


「無詠唱だと!?」


 ガイニスさんが目を剥きます。


 雰囲気で詠唱していましたけど、実はこれがカットできるって異世界転生してから50年たった辺りで気づいたんですよね。

 ちなみにこれは、光属性の一般攻撃魔法になります。威力は極限まで抑えているので、この一撃で命を奪ってしまうことはないはずです。


 私の杖から放たれた光線をガイニスさんは骸骨の剣で防ぎます。


「ぐぅっ……なんだこの馬鹿げた威力は!?」


 あ、マズそう。

 味方であろうが敵であろうが殺生はご法度です。私は魔法をキャンセルします。


「はぁはぁ……何者だ貴様?」

「プリオリです。ただの大魔導士です」

「大魔導士だと? ふざけるのも大概にしろ。貴様のような小娘がこの世界における最高位の存在であるはずが――」

「メプメプ」


 フードからもぞもぞと顔を出したメープルが突然鳴き声を上げます。

 その直後のことでした。


「っ! た、大変失礼いたしました!」

「ふぇ?」


 ガイニスさんが跪きました。


「このたびの無礼をどうかお許しいただきたい。……ここにきたということは、お嬢はグランドアップルをお求めになられているのですか?」

「は、はいそうですけど……いきなり態度が変わりすぎじゃないですか?」

「これが本来、俺がお嬢に向けるべき態度です。客人は手厚くもてなすものですから」

「……はぁ」


 急に客人扱いされています。なにがトリガーとなったのかはさっぱりですが、まぁ戦闘を避けられるのなら良しとしましょう。

 私はガイニスさんに訊ねます。


「グランドアップルはこの崖の頂上にありますよね?」

「如何にも。しかし、グランドアップルのまわりには幾重もの結界が張り巡らされています。過去に俺も全力の魔法を放ったことがありますが、傷のひとつもつけることができませんでした」

「魔将ガイニスでも傷ひとつつけられない結界だと?」


 エリシュナさんが目を見張っています。


 すいません、ガイニスさん。ステータス確認しますね。

 ひょいっと。


【ガイニス/Lv268】

 職業:魔将軍


【スキル】

 闇夜の宴Lv47

 永久の灯Lv72

 朽ちぬ鋼Lv43


【ステータス】

 体力:3724

 筋力:2989

 耐久:1823

 魔力:2490

 幸運:0


 さすが魔将軍といったところでしょうか。Lv99までという壁を余裕でぶち破っています。エリシュナさんも恐れていましたし、相当に腕が立つ方なのでしょう。

 ただスキル名がかなり夢想的なので、どんな能力なのかさっぱり目途がつきません。永久の灯……命を落としても何度か蘇生する、とかですかね?


 ガイニスさんも非常に強力ですが、私はその遥か上をいく実力を有しています。なので、きっと、結界は破壊できるはずです。……できるよね?


「では皆さん、グランドアップルを採取してきますね」

「いってらっしゃいませ」


 ガイニスさんの見送りの言葉を背中で受けつつ浮遊魔法で飛び上がり、崖の頂上に向かいます。

 名前こそ把握していますが、果たしてグランドアップルとわかるのかと危惧していましたが、どうやら取り越し苦労のようでした。


「キラキラと黄金色に輝いていて如何にもグランドって感じですね」


 そのりんごめがけて、まずは試しに光の一般攻撃魔法を全力で放ちます。

 これでどこまでいけるのか。


〝バリッ〟


 1枚結界が割れました。


〝バリバリバリバリッ〟


 おっ、けっこういけますね。


〝バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリッ〟


「めちゃくちゃいけますやん」


 断続的に音が鳴った後に、パァンとひと際大きな音が響きわたりました。

 ……さてはぜんぶ結界割れたのでは?


 す~っとグランドアップルに近づきます。

 あっさり収穫できました。


「……うん。今後、攻撃魔法は控えよう」


 グランドアップルを手に入れた喜びよりも、自分に秘められた膨大すぎる力に対する恐れのほうが強くありました。


 なにはともあれ、これで第一目標達成です!

 この調子でお友達もつくっちゃいますよ!

 


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