第8話 動物のお友達はたくさんいますよ?
エリシュナさん率いる50人余りいる魔族の方々と私の監視係であるフレアさんのパーティで林檎の森に向かうことになりました。
移動の足は馬です。私は乗馬経験が皆無なので、フレアさんと同じ黒馬に乗っています。
「念のための確認だが、林檎の森に帰りたくてグランドアップルがあると嘘をついたわけではないだろうね?」
「はい、生憎証明する術は持ち合わせていませんが林檎の森にあることは確実です。無理に信じろとは言いませんので、その目で確かめるまで疑っていただいてけっこうですよ」
「信じるよ」
フレアさんはきっぱり言い切って私を振り返ります。
頬はやわらかくほころんでいました。
「皇女さまとエリシュナが殺気を飛ばし合っているときに迷わず割って入るプリオリの背中を見て、私はアンタが悪い奴じゃないって確信したんだ。城に向かう途中、モカモカを魔法が捕まえたのもプリオリだろう?」
「モカモカ?」
「茶髪の盗人の少女だ。どうかな?」
「……包み隠さず言えばその通りですね」
「だよね。あのタイミングであそこまで高度な魔法を使えるやつは仲間うちにいないからな。……大魔道士っていうのはほんとうなのかい?」
「……証明することはできませんが」
「そっか」
投げやりに言って、フレアさんは俯く私の肩をぽすんと叩いてきました。
「プリオリが大魔導士だったら私はすごくうれしいよ。アンタがこの世界でいちばん強いのなら、世界が悪い方向に転がることもなさそうだしさ」
「フレアさん……」
やっぱりこの人めちゃくちゃいい人。好き。親友になりたい。
「……それでなんだが。虫の良い話だとは思っているんだが……」
「なんですか?」
「……な、なんでもないから気にしないでくれ!」
「え、絶対なにかありますよね?」
「なんでもないと言っているだろう!? ほ、ほら、ついたぞ。2時間ぶりのプリオリの実家だ」
顔を真っ赤にするフレアさんに言われて自覚しましたが、私が拘束連行されてからまだほんのわずかな時間しか経っていないようです。
こうも濃密な2時間を過ごすのは、異世界転生してから初のことではないでしょうか。
馬から降りて、私を先頭にして林檎の森に足を踏み入れます。うしろの皆さんがどこか委縮しているように見えるのは、ここが慣れない土地だからでしょう。
「なんだよこの魔力量……。魔族領土のLv5地区より遥かにやべぇじゃねぇかここ」
「あの嬢ちゃん、なんであんなぽわぽわしてられるんだ?」
お城もいいですが、やはり住み慣れた森は落ちつきます。
ふらふらと家に戻ってしまいそうになりますが、今はグランドアップルの収穫が第一目標です。気を取り直して、マップを確認しながら歩きます。
「自称大魔導士」
無言で歩いていると、エリシュナさんに声を掛けられました。
「はい、なんでしょうか?」
「この森で150年、ひとりで過ごしてたという話は誠か?」
「はい、ほんとうですけど」
「襲われたりしなかったのか?」
「襲われるってなににですか?」
質問に質問を返した直後のことでした。
茂みがガサガサと音を立て、奥から巨大な一角獣が出現しました。
「こいつは神獣ッ……! お前らうしろに隠れな! ほらプリオリ、てめぇも突っ立ってないでこっちに――」
「その必要はありませんよ」
エリシュナさんが戦意を剥き出しにしてしまう気持ちはよくわかります。パッと見は危険度Maxですからね。
ですが、第一印象だけで敵と決めつけてしまうのは早計だと思うのです。
風を切り裂きこちらに迫っていた一角獣は、私の目の前までやってくるとぴたりと足を止め、私に顔を近づけきました。
頭を撫でつつ私は話しかけます。
「こんにちはスコーンさん」
「くぅんくぅん」
「すいません、ここ家から遠いし、特に目当てのものもないしでなかなかやってくることがないんですよ。ですが、月に1回は足を運んでいるので許していただけませんか?」
「くく~ん、く~ん」
「わかりました。ではこれからは月に2回、足を運ぶようにしますね」
「……なにしてる?」
恐る恐るといった風にエリシュナさんが訊ねてきます。
私は笑顔で答えました。
「会話ですよ。150年いっしょに過ごしたからでしょうか。動物さんたちがなにを思っているのか、鳴き声からなんとなくわかるようになったんです」
「くぅん?」
「大丈夫ですよ。敵ではないのでご安心ください。皆さんでグランドアップルを獲りにきたんです。スコーンさんはどこにあるかわかりますか?」
「くくん」
「へぇスコーンさんでも知らないものなんですね。ではせっかくですし、いっしょについてきますか?」
「くんくんっ」
「承知しました。……って、わわっ! 背中に乗せてくれるんですか?」
「くぅ~ん!」
「ふふ、ありがとうございます。ではゴールまでお願いしますね」
グランドアップルのある地点までスコーンが足となってくれるようなので甘えることにします。黒馬にはひとりで乗れなかった私ですが、スコーンには問題なく乗れました。
「……エリシュナ様、私の見間違いでなければ、あれは1匹で一国を滅ぼしたとされる神話の神獣デュラコーンですよね?」
「あぁその通りだ。まさかこの目で神獣を目にすることになるとは思わなかったし、なによりその神獣を従えている人間がいるという事実に驚きだ」
「それでは皆さん、グランドアップルの元までレッツゴーです!」
「……自称大魔導士ではないのかもしれませんね」
「あぁ。アイツは正真正銘、この世界における最強の魔法使いなのかもしんねぇ」
スコーンに乗ってズカズカと林檎の森を進んでいきます。不意に先ほどの出来事が頭をよぎり、私はスコーンを止めてフレアさんに手を伸ばしました。
「よければいっしょに乗りませんか?」
「……私なんかが乗っていいのか?」
「なんかなんて自分を卑下しないでください。いいですよね、スコーン」
「くんくんっ」
「問題なし、だそうです。さ、乗りましょ乗りましょ!」
「……ではお言葉に甘えるとしよう」
フレアさんが私の背中に抱きついてきます。
未知の生物に乗っているから恐怖があるのでしょうか、身体が少し震えています。勝ち気な態度が目立ちますがフレアさんも女の子のようです。
「ここから先に行くのははじめてですね」
というか、これまではこんなエリアはなかったです。
結界が壊れたことによって新たに開拓された地域なのでしょうか。
「おいおい嘘だろ、まだ濃くなるのかよ魔力……」
「神獣が出てきたってことは、魔王の仲間とかが出てきてもおかしくないよな……。魔王は封印されているが、その仲間の行方は定かでないもんな……」
これからどんな出逢いが待っているのでしょうか。
私の胸はワクワク高鳴りっぱなしです!




