第7話 このスキル大当たりすぎます。
今の状況における主要なキャストさんを紹介しましょう。
まずはアリスラースさん。
美しい金髪の皇女さまです。佇まいは上品で、口調も丁寧で……
「ほんっとうにものわかりが悪いわねアナタは! 何回も何回も言っているじゃないの! 私はなにも知らないって!」
……まぁ皇女さまだって気分を害すれば顔を般若みたいにして苛立ちを露わにしますよね。だって人間ですもの。
で、そんなアリスラースさんと酷似した表情で対峙するのが、褐色肌に銀髪が映える魔族王妃、エリシュナさん。
「しらばっくれてるんじゃねぇよ! じゃあなんだ、この150年、ここら一帯を探しまわって一向にグランドアップルの手がかりすらもつかめねぇ我の部下が無能だとでも言うつもりか? あぁ!?」
我なんだ一人称。魔族王妃って感じがしていいですねぇ。
先ほど一階で部下の方々を統治しているときは冷静かつ知的な王妃という風でしたが、アリスラースさんと対面してからは喧嘩っ早く荒々しい印象が漂っています。
断言はできませんが、きっとエリシュナさんも普段はこんな感じではないのでしょうね。唯一いるふたりの部下の慌てようがすべてを物語っています。
「落ちついてくださいエリシュナ様! もっと理知的に話し合いましょう?」
「うるせぇ」
「すいませんでした!」
「魔族界隈絶対独裁政権やんけ」
部下ふたりが気の毒に思えてなりません。リーダーの補佐ってポジションは場合によって美味しかったり苦しかったりするギャンブル要素満載の立ち位置ですが、魔族のおふたりは間違いなく後者でしょう。
「まぁ王妃が王妃ですものね。脳足らずの臣下は脳足らずになるのが理ではなくって?」
「てんめぇ……来週盟約が破棄になったらその首ぶった切って民衆に晒してやるから覚悟しやがれ」
「ふふ、ようやくアナタと本気で命の奪い合いができるときが訪れるのですね。……一瞬で片をつけてみせますわ。今日のところはおうちに帰って遺書の準備でもしておきなさいな」
「ちょちょちょっ」
視線をぶつけてじりじりと火花を散らすふたりの間に私は割って入ります。
エリシュナさんがムッと顔をしかめました。
「誰だよてめぇ?」
「プリオリと言います! えと、大魔導士ですっ!」
どうすれば瞬時に一目置いてくれるか悩んだ末、口を突いて出たのは実はとんでもないらしい私の職業でした。
堂々と胸を張る私を見て、エリシュナさんは高笑いします。
「そうかよ、てめぇがどの時代も世界にひとりしかいないっつー大魔導士か。で、証拠はあんのか?」
「はい、あります! 見て下さいこのステータスを!」
この瞬間を待ちわびていました。言葉だけでは疑念を拭えずとも、数値が目の前に提示されれば嫌でも信じざるを得ないでしょう。
私のステータスがチート染みていることは重々承知しています。明かしてしまったら、私の理想としていた交友関係を築くことが難しくなることはわかっています。それでも、自称大魔導士で断定魔女のまま処刑決行日を待つよりはマシでしょう。
どうかこれで風向きが変わりますように。
そう願いつつステータスをオープンすると、エリシュナさんが片眉を上げてグイっと顔を近づけてきました。
「証拠を見せろっつってんだろ。言葉わかんねぇのか小娘?」
「え、いや、あの、ステータスを表示してるんですが……」
「ステータス? なに言ってんだてめぇ?」
「……なんとまぁ」
このステータス、私にしか見えないんだ。
試しにエリシュナさんの隣を指でなぞってみます。
【エリシュナ/Lv74】
職業:ビースト
【スキル】
魔力増長Lv5
筋肉増長Lv8
【ステータス】
体力:807
筋力:893
耐久:671
魔力:547
幸運:250
なるほど、動物さんたちと同様に、所持アイテム以外は筒抜けになるってわけですか。
まわりの方々のステータスもさらっと確認してみます。……ふむ、エリシュナさんのこのパラメータはかなり突出したもののようです。平均レベルは40戦後でした。
「おいアリスラース、このちんちくりんはてめぇの新しい部下か?」
「いいえ、明日処刑する予定の魔女です。アナタこそ彼女のことを知っているのではなくって?」
「知らねぇよこんな自称大魔導士。……待て、お前も知らねぇのかこいつのこと?」
「そう言っているではありませんか。悪ふざけもほどほどにしてくださらない?」
「我はほんとのことしか言わねぇよ。……プリオリっつったな。てめぇ何者だ?」
「さっきからずっと大魔導士と言っているんですけどね……」
いっそのこと魔法でも放ってやりましょうか。……あぁだめだめ、お城が壊れちゃいます。
うぅむどうしたものか。
頭を悩ませます。そんな私にアリスラースさんが声を掛けてきました。
「ちなみにだけど、アナタはグランドアップルの在り処は知らないわよね?」
「グランドアップル?」
反芻した直後のことでした。
ぴこんと頭の中で音がしました。
ステータスに変化が訪れた際に鳴る音です。
ステータスを開いて確認してみると、どうやら所持アイテムのなにかが変化しているようです。
異変はすぐに見つかりました。地図に変化がありました。一地点がキラキラ光っているのでタッチしてみます。
【グランドアップル×1】
「……あの、グランドアップルの在り処わかっちゃいました」
「ほんとうか自称大魔導士!?」
エリシュナさんがふとすればキスしちゃいそうな距離まで顔を近づけてきます。間近でみるとめちゃくちゃ美人だなこの人。
「はい。林檎の森の一角にあるようです」
「林檎の森? 自称大魔導士、どこだよそこ?」
「あの、自称魔導士ではなくプリオリと呼んでいただけませんか?」
「相変わらずエリシュナは情報更新が遅いですね。昨日、突如出現した地域のことですよ。プリオリは自称そこで150年ぼっちで寂しく暮らしていた魔女なんです」
「あの、自称そこでとかじゃなくプリオリと呼んでいただけませんか?」
「プルプルッ」
肩に乗っかるメープルが「プリオリ」と呼んでくれた気がしました。ありがとうございます、あなたは最高のペットです。
「そいつ、ぬいぐるみじゃなくて生きものだったんだな。……おいアリスラース、ちょっとのあいだこの自称魔導士借りていいか?」
「えぇ構いませんよ。日暮れ前までには返してくださいね」
私はレンタル自転車かなにかですか?
「わぁったよ。じゃ自称魔導士、我をその林檎の森まで案内しろ」
「それは構わないのですが……」
「? んだよモジモジして。なにか頼みたいことがあるならハッキリ言え。我は寛大だからな。大抵の望みなら叶えてやる」
「では遠慮なく。もしグランドアップルが見つかったら、人間を襲わないと約束していただけませんか?」
「承知した」
あまりにあっさり承諾されて面食らってしまいます。
エリシュナさんは首を傾げて問うてきました。
「それだけか?」
「……では私の処刑問題もなんとかしていただけますか?」
「承知した」
「よければ私とお友達になってくれますか?」
「承知した」
「エリシュナさん、私、あなたのことが好きになりそうです」
「ははっ、好きになるがいいさ! 我も我を好いてくれるやつは自称大魔道士でも好いてやるぞ!」
「問題解決したら魔族サイドで暮らそうかな」
人間と友達になるよりも魔族と友達になるほうがハードルが低そうです。
なんにせよ、まずはグランドアップルの収穫です。
というか私、いつの間にかこんな便利スキルを宿していたんですね。【採取】スキルが【採集】に進化した恩恵でしょうか。
どうやら、素材の名前を聞いたらその瞬間に素材の在り処が地図に記されるようになっているようです。
……このスキル、やはり反則がすぎません?




