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第6話 だから誤解なんですってば。

 学生の頃に、ロココ調とかバロック建築とかいった建物を資料で見て、こんな建物を目にすることは生涯ないんだろうなと思っていましたが、その瞬間が訪れました。

 ……いや、死んでるから生涯なかったって部分は合ってるのか。


「うわぁ……」


 感嘆せずにはいられません。縦に20メートルはありそうなお城は5階建てになっていて、皇女さまの部屋は5階にあるようでした。


 灼熱さんが豪著な扉を叩いて声を掛けます。


「お忙しいところ失礼いたします。皇女さまに命じられた通り林檎の森に出向いたところ、魔女と思しき怪しい女を捕らえました。処遇を下していただけますか?」

「あら、やはり私の思った通りだったようね。いいわよ、どうぞお入りなさいな」

「はっ、失礼いたします」


 灼熱さんが扉を開き、ついにその瞬間が訪れます。


 生まれてはじめて目にする皇女さまです。

 果たしてどんな身なりをしているのでしょうか。


 やがて玉席が見えてきます。


「おぉ……」


 そこに悠々と腰掛けるのは、ふんわりした金色の髪に、炯々と輝く紫紺の瞳を携えるまさに理想通りの皇女さまでした。

 華美な衣装からも着せられている感は一切せず、むしろ彼女の一部となれた装飾品が喜んでいるように感じます。手に持つ金色の扇子もすごくよく似合っています。


「ご苦労だったわねフレア」

「とんでもございません。プリテンドの街を守る冒険者として当然の務めを果たしたまでです」


 律儀な灼熱さんです。というか灼熱さん、フレアさんって言うんですか。イメージまんまじゃないですか。


 にこりと笑んでいた皇女さまの視線が私に移ろいます。頬がやわらいでこそいますが、瞳の奥に敵愾心が滲んでいることは明白でした。


「あなたが林檎の森の魔女さんね。私はアリスラースよ。あなたのお名前は?」

「プリオリと申します。よろしくお願いいたします、アリスラース様」

「あら、随分と腰が低いのね。エリシュナがあんなだからてっきり四の五の言わずに襲い掛かって来るのかと身構えていたけれど、どうやらアナタは話が通じる魔族のようね。私、聡明な生きものは好きよ」

「私は魔族じゃないです。人間です」


 どうやらこの街の方々は魔女に強い嫌悪感を抱いているようなので、私が魔女ではなく人間であると証明することが、まず解決しなければならない課題でしょう。


 とんがり帽子を外し角の生えていないまんまるな頭を見せつけますが、まぁそれだけでは納得してくれないようです。


「魔族じゃないって証明はできるの?」

「こうして人語を話しています」

「魔族だって話せるわよ」


 鋭いカウンターでした。

 バサッと扇子を開き、アリスラースさんが口許を隠しつつ続けます。


「林檎の森は、150年前に姿を消したと言われる幻の森よ。その森が突如出現した。それはどうしてか説明できるかしら?」

「たぶん私が結界を破壊したからです」

「たぶん? 結界を張ったのもプリオリじゃないの?」

「先日、破壊してはじめて結界が張られていたことに気がつきました。それまでの150年間はこの世界で生きる人類は私ひとりだけだと思っていました」

「なるほどね」


 開いたばかりの扇子を閉じ、アリスラースさんは長い脚を組み替えて言いました。


「判決を言い渡します。明朝、アナタを処します」

「ちょっと待ってください! 気が早くないですか!?」


 私、なにかヤバイこと言いました? なにも言ってませんよね?

 アリスラースさんは至極冷静に言葉を紡ぎます。


「判断材料は充分にそろっているわよ。まず衣装が如何にも怪しい」

「いきって魔女みたいな恰好してごめんなさい」

「次に150年生きているにしてはあまりに若すぎる」

「老化遅延の魔法をかけているからなんです」

「そんな魔法存在しないわ」

「ふぇ?」


 え、そうなの?

 てっきり誰でも使えるものかと思っていたのですが……さては闇魔法って基本的には魔族だけが使えるものだったりするんでしょうか?


「そして最後がものすごく重要でね」


 アリスラースさんはドヤ顔を決めて、


「私の勘がここでアナタを処すのが最適解だと言っているわ」

「めちゃくちゃなこと言いますやん」


 その根拠のない直感で私は死ななくちゃならんのですか?

 それは死んでも死にきれないですよ。末代まで呪っちゃいますよ。


 とまぁこんな風に余裕をぶっこいていられるのは、仮に冒険者さんたちが束になって襲い掛かってこようとも私ひとりで制圧できるという自信があるからなのですが……う~ん、まいったなぁ。このままじゃ仲良くなれそうにないなぁ。


 とはいえ、あまりに強力すぎる魔法を披露するのも反って悪手でしょう。

 どうしたものかと頭を悩ませていると、兵士さんが息を切らして玉席に飛び込んできました。


「お取込み中失礼します! アリスラース様、エリシュナが攻めてきました!」

「なんですって!?」


 アリスラースさんが顔色を変えます。

 エリシュナ……さっきもアリスラースさんが名前を挙げていましたね。


 ちょうど背後に大きな窓があるので、街の様子を窺ってみます。


「マジで魔族だ!?」


 もっとこうコミカルな魔族を想像していたのですが、ちゃんと強そうな人型の魔族が黒馬に乗って猛威をふるっていました。


 ヤバい異種族戦争勃発寸前じゃんとヒヤヒヤしてしまいますが、よくよく見たら魔物さんは一切人を襲っていませんでした。街も壊していません。ただ一直線に、小規模な隊列をつくってこの王城に向かっています。


「あのフレアさん」

「なにかな?」

「あ、はじめて取り合ってもらえた。うれしい……」


 泣いちゃいそうです。


「要件がないのに話しかけてきたといったら腹パンするよ?」

「鬼ですか? ちゃんと要件はありますよ。エリシュナさんってどなたですか?」

「アイツだ。魔族の王妃だよ」


 まぁ聞かずとわかっていましたが、先頭にいる女性の方のようです。

 褐色肌に銀髪が映えています。立派な角としっぽも生えていました。にぃと笑っていて、とんがった歯は骨でもぼりぼり砕いちゃいそうです。


「魔族の方々とはどういった関係なのですか?」

「犬猿の仲だ。人間は魔族を滅して領地を奪い、魔族は人間を滅して領地を奪おうとしている」

「え、ヤバいじゃないですか。これってさては開戦間近ですか?」

「うん、開戦間近というのはあながち間違っていないが、今日がその日ではないだろうね」


 話しているうちに魔族軍がお城に攻め込んできました。

 ……が、一向に玉席に足音が近づいてきません。ひょいと顔を出して一階を確認すると、皆さんきっちり馬を整列待機させてました。真面目ですね魔族さん。


 やがて、玉席にやってきた魔族さんは3人だけでした。エリシュナさんと腕っぷしが立ちそうなふたりの男の魔族の方です。

 エリシュナさんは腕を組んで顎をしゃくりあげます。


「よぅアリスラース。今日も偉そうにふんぞり返って随分と暇そうにしてんな」

「そういうアナタこそ、アポも取らずに大群引き連れてやってきて暇ですね」

「あ?」

「ん?」

「フレアさんフレアさんっ、早速一触即発ってやつじゃないですかこれ?」

「そう焦ることはないさ。皇女さまとエリシュナはいつもこんな感じだ」


 え、いつもこんな感じなの?


 こうして、私は人間側のトップと魔族側のトップの会話のやりとりを特等席で見ることになったのでした。


 ……あの、後まわしにするなら拘束魔法解いてもらえませんか? ちょっぴり肩が凝ってきましたので。

 


 


 



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