SS⑦ 女神様のいやしの時間
天国には毎日多くの人間がやってくる。
まずは彼らから来世ではどうなりたいか、なにを成し遂げたいかを聴取し、前世で積んだ徳と照らし合わせてその要望に沿った来世を提示する。
それが女神の仕事である。
『僕は来世で社長になれますか!?』
「無理ね。課長が限界なのだわ」
『ちくしょおぉぉぉ!』
そりゃ女神だって、できることなら誰しもを希望する来世に送ってあげたい。しかし、たいていの人間は傲慢な夢を抱いていてかつ前世で積んだ徳が乏しいため、希望からはいくらかグレードダウンした来世しか紹介することができないのだ。
ちなみにこの男は、不倫した末に高校時代から付き合って結婚した奥さんに刺されてわずか27歳で人生を終えたようである。人生最後がそれで天国に導かれただけで奇蹟なんよ。
けっきょく男は課長になる来世を選び、二度目の人生をはじめるべく地上に命を落とした。どうか来世では不倫しませんように。
「ふぅ。次の方どうぞ」
こんなふうに、女神は毎日150人近くの人間の裁定をしている。
本日最後の人間の裁定を終えた女神は、大きく息をついてパチンと指を鳴らした。すると、純白だった空間が生活感あふれる部屋に早変わりする。なにを隠そうこの女神、出勤時間は1秒なのである。
女神はベッドに大の字に飛び込み枕をぎゅ~っと抱き締める。
「疲れたぁ……」
女神だって疲れは溜まるのである。
明日出勤すれば、明後日からは2連休。時間が早く進めばいいのに、と女神は庶民的なことを思った。
それから、夕飯を済ませて、湯船に浸かって、テレビを見てゲラゲラ笑って。
あくびがぽわりと出たところで、ベッドに身体を横たえて部屋の電気を消す。女神はそっと目を閉じ……る前に、異世界を観察する水晶玉を起動させた。
『ねぇお師匠様』
『なんですか?』
『大好きのぎゅ~!』
モカモカに抱きつかれたプリオリが目を丸くしている。そんな一幕を見て、女神はふっと頬をやわらげた。
「この150年、あなた以上の善人とは出会わなかったわよ」
プリオリ――理央の前世で積んだ徳を目にしたときは目を疑ったものだ。
いつだって自分は後まわし。常に誰かを想い、誰かのために行動する人間を女神ははじめて目にした。
そんな彼女だからこそ、来世では幸せになってほしいと思った。幸せにしてあげたいと思った。
とはいえ、女神が与えられるのは運氣だけなので、実際のところ彼女が幸せになれるのかと不安もあったが、
『……5年間、待てますか? 5年後、必ず私が異界からモカモカのご両親を連れ戻しますので』
『うん、待つよ。そのときはあたしもいっしょに異界に行く。5年後ってことはあたし18でしょ? きっとあたしもいっぱいいっぱい力になれるよっ』
『……では頼りにしちゃいましょうかね』
女神はふっと笑って口にする。
「ア・プリオリね」
わかりやすく言えば〝生まれつき備わっている〟という意味を持つ言葉である。
理央の優しさ、正しさは、生まれつき備わっているものなのだろう。だから、プリオリに転生してもその長所が削がれることはなかった。
彼女が異世界最強の魔導士となったのも、聖女と讃えられるようになったのも、運が良かったから、の一言では済ませることができない。
プリオリの人間性が、尋常ならざる幸運を惹き寄せているのである。
「……なんとかスローライフ期間を延長してあげたいわね」
弟子との日々を満喫するプリオリを見守る中でずっと思っていた。
(うん、明後日の休日は、プリオリのスローライフ期間をなんとか延長できないか神様に掛け合ってみましょうか)
その夜も、女神はプリオリの動向を1時間ほど見守った。プリオリと彼女の可愛い弟子の笑顔を眺めることが、ここ最近の女神のブームなのである。
「私も異世界に転生してプリオリの弟子になりたいわ」
ごめん女神様、君は息絶えることがないから異世界転生は無理なんだわ。
……たとえば異世界の神様からの干渉とかがあったら話は変わってくるけどね?




