SS⑤ 晴れわたる空
「ハァァッ!」
力強い声と共に剣が振り下ろされる。
狼めいた魔物は、短い断末魔をあげて息絶えた。
「さすがです団長!」
「なに、皆の協力があってのとどめの一撃だ。臆せず対峙してくれてありがとう。この手柄は私だけではなく君たちのものでもあるよ」
「団長ぉぉ……」
感極まって泣きそうになる団員(女)の頭をフレアはそっと撫でる。
『焔騎士団』は、プリテンドを拠点とし、フレアを長とするギルドである。その数は100近くにおよび、メンバーの構成比は男が2割の女が8割といった風である。ふつう逆じゃね?
「しかし、魔物が出没するとはなにか悪いことの前触れのようだな」
プリテンド一帯では、めったに魔物が出現することがない。アリスラースから討伐依頼を受けつつも半信半疑で足を運んだが、まさかほんとうに魔族が待ち構えていようとは。
頭上に目をやる。厚雲のかかった鈍色の空はゴロゴロと不吉な音を立て、あと数分もすれば雨が降り出しそうである。
「よし、魔物の討伐も済んだし帰ろうか」
「はい、団長!」
つま先をプリテンドに向けたその直後のことだった。
「ッ!」
背後から尋常ならざる魔力を感じた。
首を巡らせフレアを目を疑う。数秒前まではなかった大森林が、自分たちを威圧するように構えていたからだ。
「……なんだあれ?」
しかし、フレアを驚愕させているのは突如出現した大森林ではなかった。そこから空に向けて放たれている眩い光線だった。
厚雲を貫き、さては空の果てまで届いているのではないかと錯覚させるその膨大な魔力は、信じがたいことに曇天を晴天に変えてしまった。
フレアはギャグマンガみたいにあんぐりと口を開けて太陽が躍る空を見上げていた。団員全員が同じ顔をしていた。
「……魔女」
不意に団員のひとりがつぶやいた。
――魔女。かつてプリテンドの街に禁忌の災いをもたらしたとされる、街の人々に忌み嫌われる存在だ。
「なぜそう思うんだい?」
「親から聞いたことがあるんです。昔、プリテンドのすぐ近くに林檎の森と呼ばれる大森林があって、そこで魔女が暮らしていたんだって」
「あれをその林檎の森だと断定する根拠はあるのかい?」
「プリテンドのすぐ近くにある大森林だからです」
「まぁ現状では不確定要素が多すぎるからな」
小学生みたいな理由だな、と思いつつも口にはせず、フレアは顎に指を添えて思案する。
特出した過去を持たない彼女でも林檎の森と呼ばれる場所についての見識があった。であれば、皇女を務める彼女ならより詳しい情報を持っていることだろう。
あの光線はなんだったのか。
なぜ大森林が突然出現したのか。
興味は尽きることなく湧いてくるが、まずはアリスラースへの報告が急務であると帰結する。
フレアは無造作に灼熱の髪を払い、プリテンドに足を向けた。
「帰ろうか」
「はいっ。ところで団長、今日の夜のご予定は?」
「特になにもないよ。みんな疲れただろうし、今日は私の奢りで宴でもしようか」
「え、マジすか!? やったやった! 団長マジ天使!」
「ふふ、煽ててもなにも出ないよ?」
こうして今日も、平均Lv8の焔騎士団の活動が終わる。
団員の半数以上は、一度も魔族を討伐した経験の無い、Lv1のなんちゃって冒険者であるのはここだけの話。いざって時に国を護れるのかこのひとたち……




