SS④ 三人分のあまくちカレー
エリシュナは即断即決の権化である。
迷わず悩まず。そうやって200年余りの時間を生きてきた彼女は、ただの一度も後悔というものをしたことがなかった。
そりゃあうまくいかない日もあったが、そんな時は「こんな日もあるかぁ~」と不幸をすんなりと受け入れてきた。まぁ快晴の日があれば、土砂降りの日もあるのが人生だもんね。
そんなエリシュナだが、ここ最近、はじめて後悔というものが生まれそうになっていた。
「お前、まぁたギルの分まで飯つくってんの?」
「しょうがねぇだろ。3人分つくる日常を繰り返してたんだからよ」
刺々しくジークリフに言葉を返し、大口を開けてカレーライスを頬張る。
エリシュナは辛口のカレーを好いており、ジークリフも辛口のカレーを好いている。
しかし、このカレーの甘さは控えめだ。ギルティアが甘口を好いていたから……。
「聖女ちゃんに話したらどうだ。やっぱりギルを育てたいって」
「べ、べつに我は悔いてなどいない! ……ただ寂しさに慣れていないだけだ」
いつ慣れるのかはわからないけれど。
ジークリフはやれやれと肩をすくめ、エリシュナの隣に座りそっと肩を抱き寄せた。
「俺がその場にいたら、聖女ちゃんがギルを弟子にすることを絶対に許可しなかった。ギルと大喧嘩してでもこの家に引き留めようとしたと思う」
「我を非難しているのか?」
「いいや、逆だ。俺は、俺のためにギルをこの家に留めようとしたと思う。けどよ、エリシュはギルのためにギルが聖女ちゃんの弟子になることを認めたんだ。……つい先日のことなんだが、所用があってグラハムに顔を出したんだ。そしたらよ、ギルが肉と交換するためにニジンダケを持ってきたって聞いたんだ」
「あのギルが物々交換!?」
にわかには信じられない話だった。
王妃の娘という肩書きがあり、おまけに実力も天下一品のギルティアは、相手を服従させることで富や名声を勝ち取ってきた。
王妃の娘に相応しい高慢な振る舞いだな、とエリシュナは影でこっそりギルティアの成長を喜んでいた。そのギルティアが自分を下げて相手と視線を合わせた?
「たった1ヶ月でギルは見違えるほどに変わった。実力で相手を屈服させるのもそりゃあ魔族として正しいやり方かもしんねぇが、少なくともニジンダケをあげたことでギルはグラハムで愛されるヤツになってた。だからよ、俺は思ったんだ。聖女ちゃんがギルを育てたら、俺たちといたとき以上にアイツは愛されるんじゃないかって」
「……そうか」
それはいいなと思った。
ギルティアは強者だけれど、常にひとりぼっちだったから。
愛する魔族がいる一方で、嫌う魔族が多くいることも知っていたから。
「だからまぁ、エリシュの選択は間違っちゃいねぇよ。むしろ英断だ。5年ちょっとしたら帰ってくるらしいし、それまでは俺ひとりで我慢してくれ」
「それは寂しい。……ふたりめ、つくるか?」
「え?」
「ほら、クリフも呪いが解けて元気になっただろ。そもそも我は婚約した時点で宣言していたはずだ。子は最低でもふたりつくると」
「あ、あぁ。そういえばそんな約束もしたなぁ……じゃあつくるか?」
「あぁつくろう! 今からつくろう!」
「えっ、今から!?」
エリシュナさん、即断即決がすぎる件。
それから1年と経たずしてギルティアに妹ができるのはまた別の話だ。




