SS② ちっちゃな友情
自負しているようにギルティアは〝天才〟と称される類である。
魔導書を読み独学で魔法を会得し、お師匠様から欠点を指摘されればその次の瞬間から改善に努める。
彼女の産みの親であるエリシュナとジークリフはほとんどギルティアに教育めいたことをしていないが、それは彼女が好奇心旺盛であるためであり、気づけば自発的になにかを学んで自己完結させているからである。
そんなギルティアを皆は天才だの才女だのと讃え、彼女もまたその評価が客観的に見て妥当であると納得している。
しかし、彼女は天才は天才でも、〝先天的天才〟ではなく〝後天的天才〟なわけで……
「ぜんぜんわからないわ……」
夜、プリオリに甘えたい欲を抑えて自室にこもって読書に励んでいたギルティアは、こめかみを揉みつつ深々と息をついた。
彼女が目を通しているのは『スライムでもアクセサリーを作れちゃったんだが?』という煽りがすぎるハンドメイド本である。いやスライムにアクセサリーがつくれちゃうは無理があるだろ。
預言の影響かは定かでないが、馬車で不幸の先駆けのようにひび割れたネックレスの代わりとなる新しいネックレスをモカモカはすでにプリオリに贈っている。
ギルティアも、モカモカと同じようにプリオリにネックレスをプレゼントしようとしていた。素材もすでに用意してある。しかし、作り方がてんでわからなかった。
「えっと、このパーツをこうしてこうして……」
あ~、絡まっちゃってる絡まっちゃってる。力まかせに引っ張ったら壊れちゃうよギルティアさん。
「……嘘ばっかりじゃない。どれだけがんばってもそんな形にはならないわ」
本にグッと目を近づけ、自分の理解に誤りがないか確かめる。ギルティアさん、鬼気迫りすぎてちょっぴり魔力漏れてます。
「……なにも間違っていないのに」
げんなりと息をつき、ギルティアはふたたび手を動かす。また失敗に終わる。
――これまでどの分野でも有り余る才能を発揮してきたギルティアだが、実は手芸の才能に限っては壊滅的であるということに本人は気づいていなかった。
何度も同じ作業を繰り返しもついにうまくいくことはなく……。
ギルティアは苛立ちを通り越してだんだんと泣きそうになってくる。
(私もプリオリ様にプレゼントを贈りたいのに……)
胸元で輝いているディトゥルクのブローチを握りしめる。
誰かからなにかを贈ってもらえるあたたかさを、ギルティアはプリオリから学んだ。このブローチを見るたびに、あの日のプリオリの笑顔がよぎる。ギルティアはそんな体験をプリオリにさせたかった。
「……もう一回」
覚悟を決めて深く息をついた直後のことだった。
部屋の扉が勢いよく開かれた。
「ギルティアっ、あ~そぼ!」
「い、今は忙しいから邪魔しないでくれるかしら?」
「……ギルティア泣いてる?」
その顔を晒したくなくて気づかれる前に背を向けたが、どうやら感情の機微に敏感な友人には声色だけで表情が見え透いてしまうようだ。
モカモカはとてとてと隣にやってきて、ギルティアの手元を覗き込む。どんな作業をしているのかはすぐにわかったようだ。
「お師匠様に贈るネックレスをつくってるんだねっ」
「そうよ。……うまくできないの。無様でしょ。笑いなさいよ」
「笑わない笑わない。あたしも手伝ってあげるっ」
ちょこんと隣に腰掛け、モカモカはにこにこと笑っている。
ギルティアは小刻みに震える唇から短い言葉を紡ぎ出した。
「ありがとう」
「どういたしましてっ」
プリオリに贈るネックレスが完成したら、次はモカモカに贈るプレゼントをつくろう。
ギルティアはひそかに決意を固めたのだった。




