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第40話 私はこの世界を生きる林檎の聖女プリオリです!

目を開いて映ったのは、私に抱きついて泣きじゃくるふたりの可愛い弟子の姿と、頬にすりすりと身体をすり寄せてくる愛しいペットの姿でした。


「……ありがとうメープル」


 つぶやいて黄金の毛並みを撫でます。メープルは「メプメプッ」とうれしそうに鳴き声をあげました。


 意識を失っていた間の出来事はちゃんと覚えています。こんな愛らしい生きものがこの世界の神様だなんて驚きです。


「……お師匠様?」


 真っ赤に目を腫らしたモカモカが訊ねてきます。

 私は頬をゆるめて答えました。


「はい、お師匠様ですよ。心配させてしまって申し訳ありませんでした」

「ばかぁ!」


 頭突きするように胸に飛び込んできたのはギルティアでした。彼女の紫紺の瞳も、潤み腫れあがっています。


「呼んでも呼んでも反応してくれないし、心臓も止まっていたからほんとうに死んでしまったかと思ったじゃないの! 悪質なジョークは金輪際ぜったいにやめて!」

「死に芸ではないですよ」

「え?」


 異世界からやってきたことを明かすことには躊躇いがありますけど、今の私がどのような状況にあるかは隠すよりも明かした方が良いでしょう。


「このドラゴンはレッドドラゴンではなくオレンジドラゴンだったようで、お肉を頬張ったその瞬間に私は一度この世を去りました。そして、神様から不老不死の加護を受けてふたたびこの地に蘇りました。ですので、私がこの先命を落とすことは絶対にありません。ふたりが立派に成長するまでちゃんと見届けますからね」


 私は、モカモカとギルティアをぎゅ~と抱き寄せました。


「ふたりは私のなによりの宝物です。愛していますよ」

「ママぁ……」

「お母さまぁ……」

「……ありがとうございます。私をそう呼んでくれて」

「メプメプッ」


 ふたりの泣き声に、いつからか私の泣き声も混じっていました。


 自慢の可愛い弟子であり、期間限定の娘でもあるふたりとの日常をこれからも続けていける。

 その安堵が私の瞳から絶えず熱を滴らせていました。


「ずびっ、結局、私が命を無くすという預言はなんだったのでしょうね?」

「そうだね。ずびっ、お師匠様、生きてるもんね」

「いいえ、ずびっ、預言の通りになっているわよ」


 ギルティアがごしごし目頭を拭い、キリっとした顔で言いました。


「お師匠様は不老不死になった。言い換えれば〝命を無くした〟の。私たちの解釈が誤っていただけで預言は的中しているわ」


 ギルティアの指摘に私とモカモカはパチパチと瞬きし、どちらともなく吹き出しました。それに驚きつつも、ギルティアもくすくすと笑いはじめます。メープルも楽しそうに鳴き声をあげていました。


 ひとしきり笑ったところで、3人で夕飯をつくっておなかを満たし、3人でお風呂に浸かり、3人と1匹でベッドに横たわりました。


「おやすみなさい、モカモカ、ギルティア、メープル」

「おやすみお師匠様」

「おやすみなさいプリオリ様」

「メ~プ~」


 こんな日々がいつまでも続きますように。


 強く強く、私はお月様を見上げて祈りました。


 ◇◆◇◆◇


 その翌日、プリテンドは聖女さまが占いおばばの預言を打ち破ったと歓喜の嵐に包まれていました。


「聖女さまにかかれば凄絶な運命だろうがイチコロですね!」

「いえ、私はちゃんと預言通りに命を無くしたんです。だから預言は的中ですよ」

「はははっ、聖女ちゃんは優しいねぇ。はじめて預言を外してしょげてる占いおばばを気に掛けてるのが見え透いてるぜ」

「いやあの、ほんとに命を無くしてまして……」

「聖女さま、ばんざーい!」

「あの私の話を……」

「「聖女さま、ばんざーいっ!」」

「……もういいかな、悲愴な運命を克服したってことで」


 ため息をつき、私は2週間ぶりにりんご採取をしてつくったアップルパイを街の皆さんに配ります。街の方々はおいしいおいしいと大絶賛です。


「平和だなぁ」


 な~んにも事件が起きない日常の中で笑い合って大騒ぎする。


 この楽しさを知ってしまったら、とてもじゃないですが、ひとりでスローライフをしていたあの頃には戻れません。


 恥ずかしくて面と向かっては言えませんけど、モカモカとギルティアとメープルはもちろん、プリテンドの皆さんも、ラスエルツァの皆さんも、みんなみんな、大好きです。


「お師匠様、今日はこの後なにするの?」

「そうですね」


 頬に指を添えて考えます。

 ……うん、モカモカに水の基礎魔法を教えることにしましょう。


 そう告げて身を翻したときのことでした。


 路傍に青い光を見つけました。

 なんだろうと思いつつ近寄って拾い上げます。


【大魔女の秘薬×1を入手しました】


「……」


 即座に私は大魔女の秘薬を捨てました。だけどすぐに、ほかの誰かが拾って厄介事に巻き込まれるよりは自分が巻き込まれるほうが安全だよなぁ~と考え直して、ふたたび大魔女の秘薬を入手しました。アイテム一覧にしまいます。


「……ふぅ」


 大魔女の秘薬ですか。

 ……大魔女かぁ。


 ため息をつかずにはいられません。

 なんの変哲もない理想のスローライフにまたどこかで脅威が迫りそうです。


 ですが、心配ご無用です。

 そのときは、私が全力でこの日々を、そしてこの世界をお護りいたしますので。


「どうしたのお師匠様?」

「なんでもないですよ」

「ほんとうかしら? プリオリ様がそういうときはたいていなにかある気がするのだけれど」

「ほんとうですって。まったく疑り深い子はこちょこちょしちゃいますよ~!」

「ちょ、くすぐった……あはは」

「ふたりだけずるいっ、あたしもこちょこちょしたい!」


 なぜなら私は、この世界を生きる、林檎の聖女プリオリですから。


 街の平和と弟子の幸せを守りつつ、今日も私は平和なスローライフを満喫するのです!


                              

                              ―FIN(仮)ー



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