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第37話 争いは滅です!

 王城はてんやわんやの大騒ぎでした。


 慌てて当然でしょう。お隣の国がドラゴンに襲われているのです。自分たちに火の粉が飛んでくるのはいつかと怯えてしまうのが常人の反応でしょう。


「状況把握は?」

「すでに済んでいます」

「そ。なら多くを語る必要はなさそうね」


 金色の扇子をぱたんと閉じます。不慮の事態に直面しようとも動じず毅然としているアリスラースさんはさすがだと思います。


 しかし、私は気づいています。

 彼女のたおやかな指がかすかに震えていることに。


「まかせてください。林檎の聖女とその弟子が必ずドラゴンを討伐しますので」

「……ありがとうプリオリ。今さらがすぎるけれど、初対面で魔女だと罵ったり一切話に取り合わず処刑すると言ってしまったりしてごめんなさい。謝っても許されないことだということはわかってる。この罪は一生を賭けて償っていくわ」

「頭を下げることはないですよ。あの時のアリスラースさんの選択に誤りはありませんでした。恨んだことなんて片時もないのでご安心ください」

「……さすが聖女さま。心がお広いこと」

「それより件のドラゴンなのですが、鱗の色とかわかったりしますか?」

「ん? 赤色だけれど」

「よしっ」


 赤い鱗。つまりはレッドドラゴン。

 食べても安全なドラゴンです!


「今のガッツポーズにはどんな意図があって?」

「事前に情報をつかんでいるドラゴンなので問題なく勝てそうだなっていう自信が表出したガッツポーズですよ、ほんとですよ、信じてください」

「うん、早口でそこまで念押ししてくると反って怪しいわよ?」

「んんっ、こうしている間にも隣町の方々の命が危険に晒されているでしょうから、そろそろ救いにいってきますね。モカモカ、ギルティア、準備はいいですか?」

「うんっ」「えぇ」


 右手も左手も小さな手のひらに握られていることを確認し、私は玉席に腰掛けるアリスラースさんと、まわりにいるフレアさんをはじめとする従者さんに微笑みかけました。


「では、いってきます!」


 サクっと二度目の世界救済といきましょう。


 ◇◆◇◆◇


 隣街の上空に転移し、開けた視界にまず映ったのは、火の海に沈む倒壊した街でした。


「……惨いわね」


 ギルティアがボソッとつぶやきます。モカモカは口を抑えて言葉を失っていました。


「……」


 街の再生は容易です。ですが、失われた命だけは大魔導士である私の力をもってしても取り戻すことができません。


 どうか誰も命を落としていませんように。

 そう祈りつつ、悪夢の象徴である赤色を探します。

 

 あっさり見つかりました。


「Guaaaaaa!」


 全長20メートルほどある赤いドラゴンは、一点を何度も何度も引っ掻いています。そのたびに硬質な音が広がります。


 魔法使いの皆さんが協力して防御結界を張っているようでした。その背後には王城があり、あふれんばかりの人がいます。


 それを見て私はホッとします。ここまで躯を一切見かけていません。おそらく魔法使いの方々が一般市民を王城に避難させ護っているのでしょう。お見事です。


「ギルティア、モカモカ、指示を出します」


 不安に揺れる瞳としっかりと意思を宿した瞳が私を捉えます。


「今から私が魔法でドラゴンを仕留めます。それ自体は問題ありませんが、余波で魔法使いさんたちの防御結界を破壊してしまう恐れがあります。ですので、魔法使いさんたちの防御結界の強度をおふたりの魔法で上げてください。できますね?」

「わかったわ」

「……」

「モカモカ、返事は?」

「……こわい」


 水溜まりに一滴のしずくが落ちるような声でした。


 そりゃこわくて当然でしょう。実を言えば私も逃げ出したいくらいにこわいのです。大魔導士である私といえども恐怖という感情から逃げることはできません。


 それでも毅然とした態度を取っていられるのは、街の皆さんを救わなければという使命感があるから、そして弟子にカッコ悪い姿を見せてはいけないという思いが強くあるからでしょう。ドラゴンを食べたい、という場違いな願望が今はすっかり消え失せています。


 私はモカモカの頭を撫でて言いました。


「モカモカは林檎の子聖女なのでしょう? でしたら慌てふためく人たちの指針にならなくてはなりません」


 こんな鬼みたいなことをほんとうは言いたくないのですが、ゆくゆくは異界という未知の世界に突入することを目的としている以上、恐怖と対峙できるこの機会を見逃すわけにはいきません。


 モカモカは、元気いっぱいだけど怖がりさんです。それを早い段階で克服しておかないと、後々取り返しのつかないことになってしまう気がするのです。


 モカモカは、ほのかに涙が浮かぶ目頭を拭って力強く頷きました。


「うんっ、あたしみんなを護る!」

「よく言えました。では、頼みましたよふたりとも」


 喝を入れるように弟子の背中を叩いて送り出します。

 ……と、ふたりが結界のもとに向かったところで。


「可愛い弟子が移動中に狙われたら困りものですからね」


 眼下にある建物を光魔法で攻撃します。ドラゴンの意識がこちらに向きました。

 ここで一瞬だけ、モカモカに意識同調。


『どうしてあなたがここにいるのですか!?」


 そう叫ぶように問いかけてくるのは、モカモカの魔法使い検定を担当したメガネのお姉さんでした。

 モカモカは質問に応じず思いっきり叫びます。


『光よ、壁となれっ』

『闇の障壁よ、ここに顕現なさい』


 同時にギルティアも魔法を使ったようです。

 モカモカは、ぽかんと口を開けるメガネのお姉さんに言いました。


『困っている人を助けるのが魔法使いだから来たんだよ。4級とか、3級とか、2級とか、そんなの関係ないっ。魔法は誰かを救うためにあるものなんだから!』

『……私はなんて節穴だったのでしょうか』


 ここから先の展開が気になりますけど、そろそろ意識を戻さなきゃヤバそうなので、いったん切り上げます。


 魔法を中断した直後、身の丈以上ある火球が私を焼き尽くそうとしてました。


「わわわっ!? ――水よ、広がりなさい!」


 水壁が私を火球から護ります。

 ふぅ、危うくこんがり焼けちゃうところでした。


 眼下の防御結界を確認します。光と闇の二重層の壁となっています。

 前に試したことがあるのですが、ギルティアの闇の防御魔法は、私の光の一般魔法を弱めに放てばなんとか防げるほどの強度がありました。


「弱めて、凝縮して……」


 ドラゴンがバサバサと翼をはためかせてこちらに迫ってきます。あぁ助かります。あなたから近づいてくれれば防御魔法に及ぶ被害が弱まりますからね。


「Gaaaaaaaa!」


 1級魔法使いの方々だけの防御魔法では心もとないですが、ふたりの弟子も協力している防御魔法となれば安心して魔法を使うことができます。

 私はふっと笑って言いました。


「そんなに近づいてしまっていいんですか?」


 聖女の杖をきっちりと構えます。


 上空に浮いていてかつ超至近距離ならちゃんとした魔法を使っても大丈夫でしょう。


「Gulaaaaaaa!」


 ドラゴンが私を噛み殺さんと大口を開けます。生えそろった瓦礫のような歯に少しだけ臆しつつも、キッと睨み返して私は言ってやりました。


「私の理想のスローライフの邪魔をする争いごとは滅です! 

 ――業火よ、炙り尽くせ!」


 火の上級魔法です。

 杖から爆炎が噴き上がり、炎に包み込まれたドラゴンは痛ましい悲鳴をあげます。


 ともなって予想以上の爆風が吹き荒れます。ヤバイやりすぎたかもと焦りつつ眼下に目をやれば、防御魔法はしっかりと機能していてホッとしました。

 

 炎が消え失せます。ドラゴンは丸焦げになっていました。


 重力のままに落ちていき、ズドンとけたたましい音を響かせる黒焦げのドラゴン。じっと見つめるもぴくりとも動きませんでした。


「メプッ」

「ですね」


 息絶えていることは明白でした。

 私は額に浮かぶ汗を拭って息をつきます。


「これにて一件落着ですね」


 防御魔法の向こう側から歓喜の声が運ばれてきます。

 ふふ、プリテンドに続き、この街でも聖女と讃えられてしまうかもしれませんね。

 


 





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