第36話 預言の日の到来です。
占いおばばの預言は、天より授かってから2週間以内に発現すると言われています。
確証はあるのかと問われたら私は苦笑するほかないのですが、プリテンドの誰もがその話を疑うことなく信じているので、これまでの実績がその話の信憑性の裏付けとなっているのでしょう。
今日であれから14日。
ちょうど2週間となります。
ついに不幸の刃を突きつけられることのないまま、正午を過ぎました。まぁ目覚めてからずっとベッドに寝転がっているので、危険が迫らなくて当然なんですけどね。
「ふふ、モカモカとギルティアもぐ~たら族の仲間入りですね」
「今日限定だけどね。まさか寝起きから少しもベッドから出ないで朝食の準備も洗濯も出来ちゃうなんてなぁ。お師匠様ってほんとすごいね」
「まぁ大魔導士ですので? もっと褒めてくれていいんですよ?」
「プリオリ様ってたまに承認欲求の強い子どもみたいになるわよね……。それにしても不思議だわ。出来たての料理をちんからほいっと出現させる魔法なんて私は一度も聞いたことがない。そんな魔法をどこで会得したの?」
「えぇと、その……気がついたら備わっていました!」
「なるほど。大魔導士はどの時代にもひとりいるとされているけれど、プリオリ様は歴代の大魔導士をきっての天才なのね」
「あはは、そうかもですね~」
EP交換所のことはふたりには明かしていません。というのも、このスキルの詳細を明かさそうと思ったら、私が転生者であることを明かさなければなりませんので。そもそもスキルって言葉自体誰にも伝わらないでしょう。
そんな誰が見ても文句なしに最強でチートな私が命を無くすビジョンというのは、驕りとか抜きにてんで見えません。
仮に天災が降りかかってこようとも、封印されているという魔王がやってこようとも、私は難なく平和を護れる自信があります。
「そろそろお昼にしましょうか。おふたりはなにか食べたいものはありますか?」
「ミートパイ!」
「アツアツのピザが食べたいわ」
「承知しました。では私もジャンキー料理の最強格カツ丼をいただきましょうかね」
「かつどんってなぁに?」
「なんとカツ丼をご存知ないのですか?」
言われてみれば、プリテンドでもラスエルツァでもカツ丼を見た覚えはありませんね。というか白米すら見た覚えがないです。
……私の魔法で田をつくっちゃいましょうか。種籾はきっとEP交換所で……あぁあったあった。米作りなんて如何にもスローライフって感じがしていいじゃないですか。
EP交換所で食料を選択し、ぱくぱく3人でジャンクフードを堪能します。はじめてカツ丼を食べたふたりは顔を紅潮させて大興奮していました。
「やっぱり最高ですよね、カツ丼。まぁ私はカツ丼よりもふたりの料理のほうが好きですけどね」
「まったく、すぐキザなことを言う。……そこがプリオリ様の長所でもあるけれど」
「ありがとお師匠様っ、これからもいっぱいおいしい料理つくるね!」
「はい、楽しみにしています」
その後は流れるようにお昼寝……となるのが定番ですが、今日のふたりは目がぱっちりと開いていました。なんとしても私を護ろうという気概を感じます。
1時間、2時間。読書したり、お話したり、こちょこちょし合っているうちに今日の終わりが近づいてきます。
窓の向こうに広がる空が暮れなずんできた頃のことでした。
家の扉がコンコンコンコンと、光速で何度も叩かれる音が聞こえてきました。
「ギルティア」
「わかってる」
モカモカとギルティアがベッドから降り、モカモカは杖を、ギルティアは双剣を構えて扉に向かっていきます。私も念のため聖女の杖を用意しておきます。
深く息をつき、モカモカが扉を開きます。弟子たちが杖と双剣を突きつける先にいたのは、息を切らすフレアさんでした。
「あなたがプリオリ様の命を脅かす厄災ね。処すわ」
「待って待ってギルティア! 彼女は私のお友達です! 処しちゃダメです!」
「あらそうなの。失礼したわ」
「本気で首を撥ねられるかと思った……。それより大変なんだプリオリ!」
「2週間前にラスエルツァから帰ってきたときも、まったく同じことをおっしゃっていましたね」
さては私の伝達係にでも任命されているのでしょうか。慌てている姿が連続して記憶に焼きついているものですから、初期の冷静沈着というフレアさんの人物像が徐々に崩壊しつつあります。
フレアさんはガチガチと歯を鳴らしながら言いました。
「と、隣町にドラゴンが出たんだ!」
「え、ドラゴン?」
「ドラゴンってあのドラゴンかしら?」
「この地域周辺で最後に目撃されたのは50年前だというあのドラゴンですよね?」
フレアさんは光の速さで3回首肯します。どの質問も答えはYesのようです。
「とりあえず、一度皇女さまのところに来てほしい!」
「それは聞けない頼みだわ。今日が預言の最終日。たとえ隣国が滅びようとも、私はプリオリ様を危険に晒すのはいやよ」
「わかりやすすぎるくらいにそれだもんね、お師匠様が命を無くす預言のやつ」
けどさ、とモカモカは肩をすくめ、私を見やって続けました。
「あたしは知ってる。こういうときに迷わず助けに行っちゃうのがお師匠様でしょ?」
「ご明察です」
ローブに、とんがり帽子に、ブーツに、聖女の杖。
ぐ~たらのプリオリ改め、林檎の聖女プリオリ、ここに在りです。
「詳細はアリスラースさんに伺えばよろしいでしょうか?」
「待ちなさいプリオリ様。私とモカモカは救援の許可を出していないわ」
「あたしはいいよ」
「っ! モカモカ、あなたはプリオリ様が心配じゃないの!?」
「心配だよ、行ってほしくないよ。……けどね、あたしは林檎の子聖女だから、お師匠様の一番弟子だから、困っている人がいたら助けに行くって考えをなにがあっても曲げちゃいけないってわかってるの。そうだよねお師匠様?」
「はい、ちょっくら3人でお隣の国を救って聖女になりましょう」
お隣の国といえば、魔法使い検定でモカモカを泣かせた度し難い1級魔法使いの方々がいますが、まぁ彼らでドラゴンを食い止めることはまず不可能でしょうし。
フレアさんは、じわりと瞳に涙を浮かべて私の手を握ってきます。
「ありがとう。ほんとうにありがとう林檎の聖女さま……!」
「その呼び方はよしてください。私たちは冒険者と林檎の聖女ではなく、フレアとプリオリというお友達でしょう?」
これからどれだけ友人が出来たとしても、あなたが一番最初の友人であったという事実は変わりませんよ。この異世界の住人で誰より先に私と取り合ってくれたのは、あなたなのですから。
ま、そんなお友達が泣いて頼み込んできたのですから、もちろん引き受けますよドラゴン討伐。ひと狩りいこうぜって感じです。
私は、モカモカとギルティアと手をつなぎ転移魔法を使いました。まずはアリスラースさんのもとに向かうことにします。
……それにしてもなんて都合がいいのでしょう。先日ドラゴンのお肉を食べたいなと思った矢先にこんなにも近くにドラゴンが出現するなんて。
「じゅるり」
「お腹を空かせているの?」
「あっ、いえいえ、そういうわけではなくてですね?」
いけない、アリスラースさんと対面一番に涎を垂らしてしまいました。
今は、ドラゴンのお肉をどのように食べるのか……じゃなくて隣国をドラゴン襲撃の危機から護ることに集中しなくちゃですね!
メインターゲットがドラゴンの討伐で、その報酬がドラゴンのお肉ですからね、私? 逆じゃないですからね?




