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第32話 有言実行ってやつですね。

「今後、お師匠様は家から出ることを禁じます」


 そうモカモカから告げられたのは、ブローチが壊れてほろほろと涙を流した夜のことです。


 ゆくゆくは監禁でもされてしまうのではないかという私の懸念は見事に的を射て、気づけば3日間、私は一歩も家の外に出ることなくおうちで過ごしていました。


 まぁ私はおうち大好きっ子なので、これといって不満はないんですけどね。それにモカモカがいない時間は側にギルティアがいて、逆にギルティアがいない時間はモカモカが側にいますし。メープルもずっと近くにいますし……。


「すぅすぅ……」

「監視係が眠っちゃだめでしょうに」


 昼下がり、私といっしょにベッドで寝転んで本を読んでいたギルティアは、いつの間にか夢の世界に落ちてしまっていました。

 

 ギルティアは毎晩、私たちの寝つくベッドに防御魔法をかけてくれています。そのため魔力の消耗で疲れが取れずに日中寝ついてしまうことがしばしばあるのです。


 柔らかそうなほっぺに指先で触れてみます。ギルティアはふふっと笑いました。


「可愛い魔女さんですね」

「メプメプッ」


 ギルティアが寝つけば監視の目は無くなります。

 私はそ~っと身体を起こし……


「たりしませんけどね」


 弟子との約束なので。私がこっそり外出したことがモカモカにバレて、ギルティアが説教されるのは嫌ですし。


 というわけで、私はそっと目を閉じ、とある魔法を使いました。

 脳裏にもくもくと景色が浮かんできます。


『こんにちはっ』

『こんにちはモカちゃん。今日も元気いっぱいだねぇ』

『えへへ、元気なのがあたしの取り柄だからねっ』


 普段よりずっと低いプリテンドの街並み。おばあちゃんがこちらに柔和に微笑みかけています。


 これは、あらかじめ魔法をかけた相手と同じ視点で物事を追体験できる便利な魔法です。傍目には、今の私は眠りこけているように映っていることでしょう。


 今日は、いつもならプリテンドのお悩み事をモカモカと解消している日です。私は謹慎処分を受けていてついていけないので、こうして魔法越しにモカモカを見守っています。ふふ、抜き打ち検査ですよモカモカ。


 景色が右に左に忙しく流れるのは、それだけモカモカが注意を巡らせている証でしょう。


 不意に焦点がぴたりと一点に定まりました。そこには木に引っかかった風船を見上げて涙ぐんでいる女の子がいました。モカモカはすぐに駆け出します。


『あの風船、キーちゃんの?』


 三つ編みの女の子はキーちゃんと言うそうです。さすがモカモカ、地元民という肩書きに恥じない交友関係の広さですね。


『うん。モカちゃん獲れるの?』

『もちろんっ、あたしはどんなお困りごとも解決しちゃう林檎の子聖女だからね!』


 得意げな声色しか知覚できませんが、きっと鼻高々といった感じなのでしょう。というか林檎の子聖女って。……ふふ、可愛らしいネーミングです。


『風よ、吹けっ』


 どこからともなく吹いた風が風船に吹きつけ、ふわふわとこちらに落ちてきます。それをジャンプして掴み、モカモカはキーちゃんに差し出しました。


『はい、どーぞ』

『ありがとモカちゃん! モカちゃんは聖女さんだねっ!』

『聖女じゃなくて子聖女だよ。まだまだお師匠様には遠く及ばないからね』


 その後もモカモカは困っている人を見つけては迷わず助けに向かいます。


 ありがとう、ありがとう、といくつも感謝の言葉が届けられて、私は胸がポカポカとあたたかくなります。


 いつか宣言した通り、モカモカは誰かを笑顔にするために魔法を使っています。有言実行しているだけと言ってしまえばそれまでですが、私は月並み以上に魔力の才能を持つ弟子が魔法を傷つけるためではなく救うために使っていることを堪らなくうれしく思いました。それは私の養育が正しいことを示すものでもありますから。


 日常で発生する些細な問題を鮮やかに解決していくモカモカでしたが、稀少性の高い大きなトラブルと直面してしばし呆然としてしまいます。


『早く火を消せ! 引火しちまうぞ!』


 火事が発生しているようでした。料理店でなにか不手際でもあったのでしょうか。もくもくと煙が立ち上っています。


『……どうしよ』


 モカモカが立ち尽くしてしまうのも無理はありません。彼女が使えるのは、火と風と光を基礎とする魔法だけなのですから。


 この異世界には、ほかにも水や闇を基礎とする魔法が存在します。

 水魔法を使えたのなら、モカモカはこの問題も難なく解決できたでしょう。逆にいえば、まだ使える魔法に制限があるモカモカにこの問題を今すぐ解決する術はありませんでした。


「まぁ街の人に私は大魔導士だって割れていますしね」


 傍観を一時中断し、私は遠距離で魔法を使うことにします。


「水よ、下り落ちなさい」


 これが基礎魔法の詠唱です。


 詠唱の後、ドパッと民家に大量の水が降りかかります。瞬く間に火は立ち消え、辺りは歓喜に包まれました。

 その矛先は、やがてモカモカに向けられます。


『ありがとなモカモカ!』

『あ、いやあたしはなにもしてなくて……』

『ありがとねモカモカちゃん! これからも頼りにしてるね!』

『たぶんお師匠様だよね。……うんっ、これからもあたしとお師匠様を頼りにしてねっ、どんな問題でも解決しちゃうよ!』


 モカモカが杖を突きあげて宣言すると、歓喜の声がいちだんと強くなります。


 うん、もうすっかり盗人モカモカではなく、林檎の子聖女モカモカですね。

 あなたはプリテンドの守り神のひとりです。


 闇魔法はともかく、水魔法は訓練すれば身につけることができます。

 謹慎処分が明けたら、まずは水魔法の訓練をすることにしましょうか。

 

 



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