第3話 ペットを飼いたいなって思っていましたし。
見間違いではないかと思って、もう一度、回復魔法をかけてみます。
【魔法がキャンセルされました】
「……なんでだろ」
首を捻ってしまいます。
原因はさっぱりですが、2度目となると、なにか原因があってこのもふもふちゃんには回復魔法を施すことができないと理解が追いつきます。
さて、どうしたものか。魔法が使えないとはいえ、傷ついている動物が目の前にいるのに救出を諦めることはできません。
腕を組み頭を回転させることしばし、私の中でひとつのワードが浮かびました。
「EP交換所」
灯台下暗しとはまさしくこのこと。希望になり得るのは日頃からお世話になっている反則めいたシステムでした。
異世界転生してからまもない頃に回復魔法を習得してしまったし、そもそも怪我をしたことがないのですっかり意識の外側にあぶれていましたが、たしか【回復ポーション】なるものがEP交換所にあったはずです。
EP交換所を開いてみると、記憶に違わず回復ポーションが表記されていました。
しかし、表記されているポーションはひとつだけで、EPの記載もありません。
「どうやって使うんだろ?」
物は試しです。
回復ポーションをタップしてみます。すると、【対象を選んでください】と文字が表示されました。なるほど、対象に合わせてEPが変動するシステムっぽいですね。
迷わずもふもふちゃんを選びます。
思っていた通りEPの数値に変動がありました。
が、
「桁、おかしくない?」
必要とされているEPは100,000,000。
何度数えても1億です。
しかも、これで回復するもふもふちゃんのHPは全体の10%ほど。つまり完全復活にはおおよそ10億のEPが必要とされるようです。
記憶にある限り、もっとも必要とされたEPは5000万です。極星魔法というこの異世界における最高峰の魔法を会得するときに求められたEPがそれでした。
その2倍の数値にあたる1億EPが回復に必要とされている。
……いったいこのもふもふちゃんは何者なのでしょうか。回復させたらマズい動物だったりするんでしょうか。
「ま、なんでもいっか」
難しいことはその時に考えましょう。とりあえずは助けてあわよくばペットにする方向で進めます。
【交換する】を押して、回復ポーションを10個ゲットします。所持EPが途轍もない速度で減り、無限にあるかと思われた私のEPは1億を下まわってしまいました。まぁその気になれば半日で1億EP稼げるので問題なしです。イージーゲームすぎ。
回復ポーションの蓋を開けます。
魔法はダメでしたが、ポーションなら……
「あ、いけました!」
ポーションを浴びたもふもふちゃんが緑の光に包まれています。回復している証です。微量ですが、HPが回復していることを確認できました。
ひとつ、またひとつと、1億EPのポーションをもふもふちゃんにかけていきます。
もふもふちゃんの呼吸は徐々に安定していき、ポーションが底尽きる頃には、傷がすっかり塞がり、つぶらなルビーの瞳がじっと私を見つめていました。
私は黄金の毛並みを撫でて言いました。
「もう大丈夫ですよ。痛いのはすべて私が追っ払ってやりましたから」
「メプ~!」
不思議な、それでいてうれしそうな鳴き声をあげ、もふもふちゃんは私に飛びついてきます。
全長15センチほどのもふもふちゃんは、私の肩に乗り頬をすりすりしてきます。
「か、かわいいぃ~……!」
目をハートして頬擦りし返してしまいます。
決めた、絶対ペットにする。転生から150年目にして、ようやく共に暮らしたいお友達を見つけた私なのでした。
「メプッ、メプッ」
「ふふ、変わった鳴き声ですね。あなた名前はありますか?」
「メ~プ~」
ふるふる首を振っています。
もふもふちゃんに限らず、この森にいる動物はどなたもしっかりコミュニケーションが取れます。たまにテレパシーで話しかけてくる方もいらっしゃいますし。
ただ、どなたも勇ましいので、ペットにしようとは思えなかったんですよね。ペットに必要不可欠なもの。それは庇護欲をそそる愛嬌なのです。
「では、今日からあなたはメープルです。どうでしょうか?」
「メプッ、メプッ」
「ふふ、気に入ってくれたみたいでなによりです」
その直後のことでした。
【〝採取〟が〝採集〟に進化しました】
「ん?」
突然、出現したテキストに思わず首を捻ってしまいます。
それを皮切りに、雪崩のようにテキストが落ちてきました。
【Lvが999→9999になりました】
【体力が999→9999になりました】
【筋力が999→9999になりました】
【耐久が999→9999になりました】
【魔力が999→9999になりました】
【EPが87,4232,020→∞になりました】
【職業が〝賢者〟から〝大魔導士〟に進化しました】
【すべてのパラメータがこの世界における最高値に達しました】
「……」
目を見開くしかありませんでした。
動揺する私にお構いなしに、メープルは頬擦りを続けてきます。
……絶対この子ですよね、なにかしたの。ただものじゃないとは思っていたけど、もしかしたら私の想像の遥かうえを行く上位存在だったりするのでしょうか。
「恩返ししてくれたんですか?」
「メープッ」
「そうですか。ありがとうございます」
ま、この子の正体がなんだって構いません。もふもふで懐いてくれてちっちゃくてかわいい。メープルは今日から私のペットで家族なのですから。
それにステータスが限界値に達しようが、のんびりスローライフを送る私には関係ない話ですし。
……いや待って。EP無限?
それは生活を一変させません? もはやりんご採取する必要すらなくなっちゃってますやん。
「魔力9999か」
ふと魔力999と魔力9999とではどれくらいの差が生まれるのかと好奇心が湧きました。聖女の杖を上空に構え、私は厳かに詠唱します。
「光よ、放たれよっ」
魔法陣から光線が放たれます。
これはたとえるなら、格闘対戦ゲームにおける中攻撃のような魔法です。
魔力999の頃は、同じ魔法を唱えて10本の木に穴が穿たれました。その10倍のステータスになっているとなると、空まで光が届いたりするのでしょうか。
ワクワクしながら光線を見守ります。
すると、ぱりんっとガラスが割れるような音が響き渡り、それと同時に光線は急加速して空に向かっていきました。
「ふぇ?」
行きは晴天でしたが、いつの間にか曇天になっていた空に光線が突き刺さります。
雲が霧散し空が晴れ渡りました。
「……」
きっと今の私はギャグマンガみたいに呆けた顔をしていることでしょう。
まさか魔法ひとつで天気を変えてしまうなんて……。
私は金輪際、お遊びで攻撃系統の魔法を使わないと決意しました。……いや違うな。こんな惨事を起こさないために調整練習しなきゃなのかな。
「メプメプッ」
「はは、どうもです」
メープルに褒められてぺこぺこする私です。
さて、反則気味ですがダンジョンも攻略したことですし、そろそろおうちに帰るとしますか。
これでダンジョンを攻略するのも5734回目。
今回の報酬は愛らしいペットのようです。




