第26話 私の着せ替えなんて需要あります?
ラスエルツァにやってきてから4日が経ちました。
「1週間ってあっという間ですね」
今となっては、この街にあるもので知らないものよりも、知っているもののほうが多いです。
街を歩けば当然多くの建物が瞳に映ります。そのたびにギルティアが案内してくれた場所だなぁ、街の人たちが手厚く歓待してくれた場所だなぁと、まだ過去というには日が過ぎていないのに懐かしい気持ちに浸ってしまいます。
「どこか行きたい場所はあるかしら」
「そうですねぇ」
ギルティアに問われて私は頭を悩ませます。
モカモカが元気よく手を挙げ「スライム触れ合い体験!」と意見すると、ギルティアが「プリオリ様が賛同したらね」と苦笑しました。モカモカはあのアトラクションを気に入っているようですが、私は軽くトラウマになっているので却下です。
ふとモカモカの衣装が気にかかりました。可愛らしい子どもサイズのローブを着ています。ギルティアはいつもと同じゴシックドレスです。
これだと思いました。
「洋服店に行きたいです」
「承知したわ。モカモカ、スライム触れ合い体験はまた今度ね」
「うん、わかったっ」
「相変わらずモカモカは聞き分けがいいわね。それじゃあ私イチオシの洋服店に案内するわ。幅広く衣装を取り揃えているからきっと気に入ってもらえるはずよ」
そうしてギルティアに案内されたのは、いつも繁盛している洋服店でした。滞在2日目にも案内されましたが、人混みを理由に避けたお店でもあります。
「お師匠様、お洋服に興味があったの?」
「はい。私も女の子ですので」
プリオリは永遠の18歳。
女の子という表現に誤りはありません。いいですね?
とは言ってみたものの、実を言えば自分の衣装にはてんで興味がないです。
では、なぜ足を運んだのかって?
弟子を可愛くコーディネートしたいからですよ。
「ふふ、どれを着せようかなぁ」
ギルティアの説明に違わず品ぞろえは豊富でした。
いいですねこのふわっとしたスカート。あぁこのレース服も魅力的です。ふたりとも可愛いので衣装の選び甲斐がありますねぇ。ふふふ。
脳内でふたりを着せ替えしつつ、衣装をいくつか買いものカゴに入れているとくいくい裾を引っ張られました。胡乱な顔つきをしたモカモカとギルティアがいました。
「どうして子ども服のコーナーにいるのかしら?」
「あ~、えっとですね~」
正直に白状してしまいましょうか。……いいや、後から明かすほうがサプライズ感があっていいですね。
幸いにもカゴに入っているものがふたりのお洋服であることはバレていないようなので、私は盛大に嘘をつくことにしました。
「このあたりにふたりがいるかなぁって探していたんです」
「そうなの。ごめんなさい、探す手間をかけてしまって」
「いえいえ、そんな。広い店内ですし仕方ありませんよ」
「そんなことよりお師匠様っ、見てよこれ!」
モカモカが元気いっぱいに見せてくるのは唐紅のドレスでした。ただサイズはどう見てもモカモカに合うものではなくて……
「あっちに更衣室があるから試着しよう、お師匠様っ」
「え、私が試着するんですか!?」
「プリオリ様が衣服を欲しがっていたから、私とモカモカ、どっちがプリオリ様に似合う衣装を選べるか競おうということになったの。衣服はぜんぶで6つ。私が選んだものが3つで、モカモカが選んだものが3つよ。もし気に入ったものがあれば買っていって頂戴ね」
「……まぁせっかくの機会ですしね」
私なんてなにを着ても変わらない気がしますが、ふたりの瞳のキラキラを奪うのは気が引けるので用意された服を試着することにします。
1着目。
「モカモカが用意してくれた唐紅のドレスです」
「わぁ~、きれい~」
「元から整っているプロポーションがひときわ際立っているわね。うん、いいセンスだわモカモカ」
「そ、そんなに綺麗でしょうか私?」
2着目。
「ギルティアが選んでくれた純白のワンピースと麦わら帽子です」
「わぁ~、かわいい~」
「うん、思った通り深窓の令嬢を思わせる衣装は聖女であるプリオリ様の印象と非常に合っているわ。開放的な感じがいいわね」
「えへへ、次いきましょうか」
可愛い、美しいと言われれば当然気分は舞い上がり、気づけばノリノリで着替えてポージングまで決めてしまっている自分がいました。
「悪い子ちゃんは逮捕です」
「わぁ~、ほんものの警察さんみたい~」
「悪い子ちゃんにはガブっとかぶりついて血を吸っちゃいます」
「ふふっ、お可愛い吸血鬼さんですこと」
着せ替え人形になるのははじめてですが、これはなかなか癖になりそうです。あぁ楽しいなぁ。
「これがモカモカが選んだ最後のお洋服ですね。――じゃじゃん! 女神の衣装です!」
「わぁ~、施しまくってそ~」
「ほんとうに地上に舞い降りた天使のようね。絶世の美少女だし」
「絶世の美少女だなんてそんな~、ふへへぇ」
舞い上がってクネクネしてしまいます。
そして、ギルティアが選んでくれたこの衣装で最後です。
「魔女コーデです。ふふ、どうですか? 魔女に見えますか?」
「わぁ~、悪いことしてそ~」
「よく似合ってるわよプリオリ様。いっそのこと今後はその衣装で過ごしたらどうかしら?」
「えへえへ、そうですかそうですか? なら――いいえダメです! 私は林檎の聖女ですので!」
危ない、ギルティアの術数にハマってしまうところでした。
ギルティアは「惜しい。あと少しだったのに」と小悪魔のように笑いました。
その後、私はモカモカとギルティアの服と自分の服を購入しました。
その際に店員さんからこんな誘いを受けました。
「今晩、街でファッションショーをやるの。良かったら聖女様たちも参加しない?」
「ファッションショーですか。……ちなみにですが、あの子たちも参加できますか?」
「えぇできるわよ。思い出づくりにどうかしら?」
「では参加させていただきます。よろしくお願いします」
と、頭を下げる私は参加するつもりはありませんがね。
「ふふ、夜が待ち遠しいです」
すいません、ファッションショーに参加する皆さん。優勝は私の可愛い弟子ふたりが掻っ攫っちゃいます。
私の弟子より可愛い生きものなんてこの世に存在しませんからね(親バカ末期だという自覚はあります)。




