第24話 お節介も善行ですから。
ラスエルツァ滞在2日目。
昨日は渡りに船で自分の意思ではまるで観光できなかったので、今日は食べもの以外の魅力を探ろうと思います。
「おっ、えらいべっぴんさんがいると思ったら聖女ちゃんじゃないか! 今日はなにする予定なんだい?」
「えぇとですね」
「私のプリオリ様を困らせないでくれるかしら?」
グイッとギルティアが私の前に出ます。
「なにをしようがプリオリ様の自由でしょう? あなたに情報共有する義務はないと思うのだけれど」
「げ、ギル嬢……ごめんね聖女ちゃん、なにか困ったことがあったらいつでも街の連中を頼ってね」
「はい、お気遣いありがとうございます」
「いいからさっさと失せてくれないかしら」
「ギルティア、ちょっとこっちに来なさい」
「ん、なにかしら?」
私は人気の少ない通りに足を運び、ギルティアの前に身をかがめました。
「さっきのは言い過ぎです。今後もたくさんの方が私に話しかけてくるでしょうけど、さっきみたいな態度を取るのは控えてください」
「説教される理由がわからないわ。さっきプリオリ様は明らかに困っていた。あの凡夫よりも私のほうが秀でているから助けは不要であることは明白。聡明なプリオリ様も理解しているでしょう?」
悪意はないのでしょう。意見も筋が通っています。凡夫とか言っちゃうのは如何なものかと思いますが。
「ギルティア、さっきの方が善意をもって私に話しかけてきたか、それとも嫌がらせで話しかけてきたのかはわかりますか?」
「善意をもって話しかけてきたと思うわ」
「うん、正解です。善意が常にいい方向に転がるとは限りません。お節介で終わってしまうことも当然あります。試しにギルティア、私に魔法を教えてあげると言ってみてください」
「プリオリ様、私が魔法を教えてあげるわ」
「すべて会得しているのでけっこうです。金輪際、その話はしないでくれますか?」
「……どうしてそんな酷いこと言うのかしら」
ギルティアはしょんぼりとします。
その姿を見て、私はまだ救いがあるなと希望を抱きました。ぽんぽんと頭を撫でて微笑みかけます。
「すいません、今のは演技ですから気にしないでくださいね。……こころが痛いでしょう? さきほどギルティアがしたことは今私があなたにしたこととほぼ同じです。ですので、今後は善意には善意で答えるように心がけましょう。相手がなにかしようとしてくれたらまずはありがとうです。いいですね?」
「えぇわかったわ。……ごめんなさい、私が間違っていたわ」
「うん、ちゃんと間違いを認められて立派です。良い子良い子」
「ふふふ、こんな風に褒められるのは初めてだけれど、悪い気はしないわね」
いい顔で笑うじゃないですか。私は普段のムスッとした顔よりも今の表情のほうが断然魅力的だと思いますよ。
そんなことを思っていると、うしろからくいくい裾を引っ張られました。モカモカが頭を突き出していました。
「もう甘えん坊さんですね」
右手でギルティアの頭を、左手でモカモカの頭を撫でます。
「ふふふ」
「えへへ~」
今の私は、少しはお師匠様兼母親らしく映っているのでしょうか。
◇◆◇◆◇
ふたりと手をつないで街探索開始です。
「どのお洋服も綺麗ですねぇ」
「当然よ。ドワーフはお洋服づくりのプロなのだから」
「ドワーフって、あのドワーフ?」
「ドワーフという呼称の生命体はひとつしか存在しないから、おそらくモカモカの思い浮かべるドワーフと私の思い浮かべているドワーフは同じよ」
「ん~、ギルティアって賢いけど言いまわしがちょっとくどいよね。もっと端的にできないの?」
「多少遠まわりでも理路整然としているほうがいいでしょう。ねぇプリオリ様?」
「まぁ時と場合に応じてって感じですかね。私はギルティアの口調好きですよ」
「だそうよ。モカモカはどう? 私、このままでいいかしら?」
「え? ……あ、うん、いいけど」
「今の躊躇いはなに?」
「あ、えとっ……急にあたしを気遣って口調を変えようとしてくれたからびっくりしちゃって」
「モカモカが善意で指摘してくれたのだから真摯に取り合うのは当然でしょう。プリオリ様がさっき私に諭したのはこういうことよね?」
「ギルティアってほんとに天才なんですね」
ふつうそんなすぐに変われませんよ。もしかしたらギルティアは、モカモカ以上に手のかからない弟子なのかもしれません。
衣服づくり体験に参加してみたり、未知なる遊び道具をうまく扱えず笑われたり、びくびくしつつスライムの触れ合いイベントに参加してみたり……
「プリオリ様ってば、こんなにも強いのにスライムごときを恐れてしまうのね」
「実物を目にするのは初めてですので。モカモカもこわくなかったですか?」
「ぜ~んぜん! かわいいから飼いたいなって思ったくらいだよっ」
「ん~、メープルがいるのでスライムはペットにできませんかねぇ」
「メプメプッ」
3人と1匹で過ごす楽しい時間がゆるやかに流れていきます。
「ねぇギルティア、ほかに楽しい場所ないの?」
「そうね……魔工房はどうかしら?」
「魔工房! いいねいいねっ、いこうよお師匠様っ!」
「はい、行きましょうか」
気がつけば、モカモカとギルティアが私の前を隣り合って歩いていました。ふたりは肩がぶつかるほどに近い距離で、微笑ましく話をしています。出だしは能面みたいだったギルティアの顔が、今はやわらかくほころんでいました。
「うまくやれそうですね」
仲睦まじくするふたりのあいだに私は割って入りました。
「なにを楽しそうに話してるんですか?」
「わわっ!? えっとね……ひ、ひみつ!」
「どうして隠すの? 私がそのリボンを可愛いと褒めたらお師匠様からもらったものだ~ってうれしそうに教えてくれたじゃないの」
「っ! ……ぎ、ギルティア~、言わないでよぉ~!」
「? 私、またなにか間違ったことをしてしまったかしら?」
モカモカは顔を真っ赤にして、ギルティアをぽこぽこしています。
ふふ、平和ですね。




