第2話 気づけば150年経っていました。
異世界転生してからまもなく150年が経とうとしていました。
……誤表記ではないですよ?
ほんとうに150年の月日が流れています。
150年前は毎日胸を弾ませてりんご採取をしていた私ですが、150年の月日が流れた今は……
「風よ、吹き荒れなさいっ」
【林檎の森のりんご×10を入手しました】
・EXP100/EP100
「風よ、荒れ狂いなさいっ」
【林檎の森のりんご×100を入手しました】
・EXP1000/EP1000
魔法を使って効率よくりんごを収穫するようになっていました。
ひとつひとつ採取するのももちろん楽しいのですが、魔法でこうドバっと収穫するのも得難い快感があるんですよねぇ。
と、魔法で大胆に収穫するのが気持ちいいからというのがりんご採取に飽きなかった理由のひとつ。
そして、いつまでも私にりんご採取を続けさせたなによりの要素は……
「今日はどれにしましょうかねぇ~」
ほくほくしつつ指先を空中に滑らせ、【EP交換所】をタップします。
そして並ぶのは、【家具】【装備】【魔法】といった項目です。
私は迷いなく【食べもの】を選択しました。
「ん~、これもいいなぁ、あぁでもこれも捨てがたいなぁ。……えぇい、どうせ太らないんだから豪勢にいっちゃえ!」
【EP2000を消費して特上カツ丼を手に入れますか?】
【EP3000を消費して特大フルーツパフェを手に入れますか?】
【EP300を消費してコーラを手に入れますか?】
いずれの確認項目も【はい】を押して処理すると、目の前にぽんっとカツ丼とパフェとコーラが出現します。
「いっただきま~す!」
とまぁ、今の一連の流れを見ていただければ、【EP交換所】とはなにか説明せずと理解が追いつくことでしょう。
りんごを採取する際にEXPと共に蓄積されていたEPというのは、既定の数値を用意すればどんなものとでも交換できる通貨のようなもののようでして、このシステムを通じて私はすべての魔法を会得しました。
そうなんです。なんと魔法も【EP交換所】ですべて手に入れることができたのです。
「ふぅ、食べた食べた~。ご馳走様です~」
この150年、私が獲得したEPの元となっているもののほとんどは林檎の森のりんごです。というのもこのりんご、どれだけ収穫してもすぐに再生するんですよ。
ですので、私のすべてのパラメータは最初の10年ほどですべてカンストしてしまいました。ただどれも999で止まっているので、幸運値9999はやっぱりイカサマなんだなぁとやりすぎな女神さまに苦笑してしまいます。
そんなこんなで、私は林檎の森でゆっくりまったりスローライフを送っているのでした。
……どういうわけか、動物はたくさんいるのに人とは一切出会わないんですよね。最初の10年くらいは寂しかったですが、今ではすっかり慣れてしまいました。
「よし、寝るか~」
たんまりお昼ごはんを食べて、満足するまで眠る。
う~ん、何度味わっても至高の瞬間です。
老化は魔法で緩めることができて150年前と変わらないキュートな姿を保てているし、肥満も同様に魔法で回避できるし、魔法って最高!
いつの間にか職業も【魔法使い】から【賢者】になっていますが、これが最高位なんでしょうかね? どうせなら最高の地位まで上り詰めたいものです。
◇◆◇◆◇
思う存分寝て目を覚ました私は、魔法使いらしくとんがり帽子をかぶり、魔法の杖を握り、ここ最近(50年ほど)ブームが来ている遊びに興じます。
歩くこと10分ほど。
到着したのはとある洞窟の前です。
「昨日は3層までいけたので、今日は4層までいきたいですね」
EP交換所に【ダンジョンの種】というものがありまして、これを地面に植えて1日待つとダンジョンが出現します。
ダンジョンという言葉からはおぞましいモンスターが襲いかかってくる場面を連想するかと思いますが、これまでのダンジョンにおいてモンスターと交戦したことは一度もありませんでした。
だから、ダンジョンというよりは巨大迷路を攻略している感覚です。身体を動かすのも頭を動かすのも好きな私にはたまらないアトラクションです。
「ん~、ここも行き止まりかぁ」
マップに×印を打ちます。
これでマップ左は全滅なので、次は右側の攻略に望みたいと思います。
「このダンジョンの報酬はなにかなぁ~」
ゴールにはいつも報酬が用意されています。実は今、私が持っているこの魔法の杖も、ダンジョン攻略で手に入れたものなんです。
筋力も魔力もカンストしているのであまり実感はありませんが、この【聖女の杖】もきっとものすごい武器なんだと思います。名称的にね。
目印となる松明を壁に張りつけながら歩いていると、地面から轟音が聞こえてきました。地面が大きく揺らぎ、驚きで心臓がしゅんと縮みます。
「……なに今の?」
今までダンジョン探索中にこんな不穏な音を聞いたことはありませんでした。
「……」
未知なるなにかがいるかもしれないという恐怖に息が詰まります。
パラメータがカンストしているとはいえ、私は戦闘未経験者なのです。
それと同時に、もしかしたらなにかが困っているのかもしれない、助けたいという気持ちも込み上げています。
これまでも森の中で困っている動物を何度も救ってきました。母の教えもあり、私は先天的に困っている誰かを放っておけない病にかかっているのです。
悩んだ末、私は杖を構えて詠唱しました。
「光よ、貫きなさい」
魔法陣が浮かび上がり、地下に向けて眩い光線を放ちます。
すればぽっかりと穴が空くので、私は浮遊魔法で宙に浮き、大急ぎで最深部に向かいます。ごめんなさい、反則技を使ってダンジョンを攻略してしまって。
どうやらこのダンジョンは7層で完結しているようです。サファイアのような青が溶ける小さな池が幻想的でした。
地面に足をつけます。きょろきょろ目を配って違和感を探してすぐ、池の前でぜーはー息を切らす1匹の動物が目につきました。
金色のもふもふが印象的な……猫? 兎?
……どちらの特徴も併せ持つ不思議な動物でした。
見たことのない動物です。未知に臆したのは一瞬のことで、全身が傷だらけであることに気づくなり、私は大急ぎでもふもふちゃんに詠唱していました。
「癒しなさい、精霊たちっ」
私が使える回復魔法の中でもっとも強力なものです。
青緑の光がもふもふちゃんを包み込み……
【魔法がキャンセルされました】
「え……?」
魔法がキャンセルされました?
異世界転生して150年。
こんなテロップを見たのははじめてのことでした。




