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第19話 大魔導士の力をお見せしましょう。

「それではどうぞ」


 ぶっきらぼうに言って、メガネのお姉さんは的に魔法を放つように促してきます。

 私は白々しく首を傾げて訊ねました。


「まだ私、名乗っていませんよ?」

「不必要です。さっさと終わらせてください」

「ふぅ。相手がどれだけ無礼であったとしても、マニュアル通り対応するのが社会人の務めですよ?」


 やれやれですね。自分が1級魔法使いだから選択のすべてが正しいとでも思っているのでしょうか。


 そんなはずはないんですけどね。大魔導士である私でさえも、日々モカモカからいろいろなことを学んでいるというのに。


 聖女の杖をアイテム一覧から取り出します。突如、杖が出現したことに会場がどよめきます。詠唱をせずとも魔法を放つことはできますが、今回に限ってはしっかりと詠唱をしなければなりませんね。


「光よ、舞え」


 私は、モカモカが唱えた魔法を厳かに口ずさみます。


「ふっ、口だけじゃないですか達者なのは」


 メガネのお姉さんの小馬鹿にした声が聞こえてきます。

 私が大人でよかったですね、同じ態度をアリスラースさんやエリシュナさんにとっていたら間違いなくその首を撥ねられていますよ?


 大衆の前で魔法を使えば、私の異常な力は明け透けになります。しかも聖女とか大魔導士とか苛立ちのままに名乗ってしまっているので、もう後戻りはできないです。


「お、おいなんだよあれ……」


 けど、後悔はありませんでした。

 私が大魔導士であると露呈してスローライフの終焉が早まってしまったとしても構いません。モカモカを馬鹿にされたことを許容してスローライフを継続するよりはずっとずっとマシです。


「まるで光の濁流だ……」


 思えばこれまでカッコ悪いところを見せてばかりでしたね。


 ぐーたらで、寝起きが悪くて、朝ごはんをつくってもらってばかりで、洗濯をしてもらってばかりで、夜は撫でまわしてばかりで。


「嘘……魔法の余波だけで結界が割れてる」


 だけどね、モカモカ。私は正真正銘、林檎の聖女なんですよ。人間と魔族の争いを止めたあなたの師匠は、この世界で最強の大魔導士なんです。


 なので、ちゃんと見ていてくださいね?


「光よ、舞いなさいっ」


〝パリパリパリパリパリパリパリパリパリパリパリパリッ〟


 私が頼れる師匠だって証明してみせますので。


「そ、そんなはずがありません……。そもそも攻撃魔法ですらないのにすべての結界を破壊するだなんて……」


 そっと目を開きます。

 結界はすべて破壊され、しかし的は綺麗なまま佇んでいました。その的の中心にあった赤丸の部分だけにぽっかりと穴が空いています。狙った通りです。


「攻撃魔法なんて使ったら街が吹き飛んでしまいますよ。1級魔法の方が張った結界程度なら発光魔法の発動余波で充分かなぁと思いっきり魔力を放出しましたが、少し張り切りすぎましたね。この感じだと20パーセントほどで事足りたでしょう」


 私は腰を抜かすメガネのお姉さんにズカズカ歩み寄り、エメラルドの髪を振り払って言いました。


「申し遅れましたが、私は林檎の聖女プリオリです。大魔導士です。1級魔法使いのあなたから見て私は魔法使い検定のどこに位置しますか? あなたより下ですか?」

「……ご、ごめんなさいぃぃ」


 メガネのお姉さんはデフォルメされたみたいな顔でぐずりはじめました。


 うっ。こ、心が痛みますが、ここで許すのはちょ~っと早いのでもう少しだけ心を鬼にして。


「モカモカは私の弟子です。ルールに基づいて再受講を拒否したことに対する不満はありません。ですが、リボンを馬鹿にする必要はありましたか? 不格好かも知れませんが、モカモカは今日はじめて自分ひとりでリボンを結んだんですよ? あなたはその成長を鼻で笑ったんですよ? ねぇ私の気持ちわかります? め~ちゃくちゃイラついてしまったんですよ。ねぇわかるよね?」

「す、すすすすびまぜんでしたぁぁ!」

「……すいません、やりすぎました」


 ここまでするつもりはなかったのですが……。

 ふぅ。私の親バカもとうとう来るところまで来てしまいましたかねぇ。


「おい、なにがあった!?」


 ほかの場所で魔法使い検定をしていた方がこちらに駆けてきます。これは捕まったらいろいろと面倒そうです。


 私はぽかんとするモカモカの手を握りしめました。


「再受講は困難そうなので、おうちに帰りましょうか」


 モカモカはぱちぱちと瞬きして、笑みを輝かせました。


「うんっ、帰ってお昼にしよ!」


 そういえばそんな時間ですね。

 今日はよくがんばったので、お昼は豪勢なものにするとしましょう。


 モカモカが来てからは、EP交換所で野菜やお肉を交換してはいるものの、食べられる状態にするまでの工程は自分の手でするようになりました。

 臭い言葉ですが、手作りのものには愛情がこもると言いますので。


 かくして、モカモカの第1回魔法使い検定は終わりを迎えたのでした。


 ◇◆◇◆◇


 高級ステーキでお腹を満たしてしばらく経ってから、私たちは数時間前の続きをしていました。


「じゃじゃ~ん! 試験会場にあったものとまったく同じものをつくりました~! どうぞ思い切り魔法を放っちゃってください」

「うん!」


 モカモカは杖を構え、そっと目を閉じました。


「光よ、飛べっ」


 威勢のいい声に合わせて、杖の先から光線が放たれます。


〝パリパリパリパリパリパリッ〟


 早速、何枚結界が割れたか数えます。


「12枚割れていますね」

「やったっ。お師匠様が言ってた通り、あたしは2級魔法使いなんだね!」

「13歳でここまで魔法が極まっているなんてモカモカは魔法の天才ですね」


 1枚も割れなかったら4級、10枚以下で3級、10枚から15枚で2級、15枚から20枚で1級、結界をすべて破壊し的を掠めたら賢者、的の真ん中を射抜いたら魔導士、という基準でした。新たにすべてを蹂躙したら大魔道士って項目が次回から追加されるかもですね。


 私はEP交換所で2級魔法使いのバッジを交換し、モカモカのだぼっとしたロープにつけてあげます。


「おめでとうございます。あなたは今日から2級魔法使いです」

「わぁ……! ありがとお師匠様!」

「いえいえ、むしろ会場をめちゃくちゃにしてその場で審査官の方からもらう機会を奪ってしまって申し訳ないなというか今さらだけどやりすぎたなぁというか……」

「お師匠様、すっごくカッコよかったよ! あたしもお師匠様みたいになりたいっ!」

「……私みたいになるのは大変ですよ? 追いつけますか?」

「がんばる!」

「ふふ、いっしょにがんばりましょうね」


 頭をよしよしと撫でると、モカモカはえへえへと心地よさそうにします。


 そっかぁカッコよかったかぁ~。

 そう映っていたらいいなぁとは思っていましたけど、直接言葉にしてそう伝えられるとうれしくて頬がゆるんじゃいますねぇ。


 







 


 


 


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