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第14話 ダメになっちゃう日もありますよ。

 モカモカが家族になってから日常が一変しました。


「おはようお師匠様っ、朝ごはん用意しといたよ!」

「ほわぁ~、ありがとうございます~」


 朝食を自分で用意することがなくなって。


「お洋服といっしょにお布団も洗っちゃっていい?」

「ひゃい、ありがとうございます~。ふわぁ~」


 洗濯も気がついたら終わっていて。


「今日はなにするの?」

「ん~とですね、りんごを拾ってダンジョンに潜ります~」

「またりんご採取かぁ……むぅあたしにも見えたらいいのになぁその青りんご」

「30分ちょっとで終わるので少しだけ待っていてください~」


 お日様のシャワーを浴びつつ日課となったりんご採取をします。う~ん、本日も素敵なお日柄です。

 メープルに頬擦りされて、そこでようやく私の意識は鮮明になりました。


「いや堕落しすぎでは!?」


 断っておきますが、これまでは食事の準備も洗濯も自分でちゃんとしていました。まぁ食事はEP交換で、衣服の手入れはクリーニング魔法で済ませていたのですが、身支度を自分でしていたことには変わりないでしょう。


 モカモカは聞き分けが良くて献身的な理想の娘でした。率先して私の役に立とうとしてくれますし、私がなにか指示を出せば一も二も無く聞き入れてくれます。良い方向にも悪い方向にも転がりそうな純朴さです。


 モカモカを孤独にするのは申し訳なさがあるので、りんご採取を予定より早く切り上げて自宅に戻ります。

 モカモカは切り株の椅子に腰かけ、ふんふん言いながらレシピ本を読んでいました。


「ただいま」

「おかえりお師匠様っ、今日の夕飯はね、このシチューにしようと思うんだ!」

「いいですねシチュー」

「けどね、あたしシチューつくったことないんだ。お師匠様はつくりかたわかる?」

「はい、わかりますよ。ではいっしょにつくりましょうか」

「うんっ!」


 というわけで、まだ1日がはじまってまもないのに夜の予定が埋まったのでした。


 りんごこそ見えないものの、りんごを素材にした料理は見えるようなので、アップルパイをメープルとモカモカに振る舞います。


「うまうまだぁ~」

「メプメプ~」

「美味ですねぇ~」


 アップルパイとアールグレイ(モカモカは甘いココア)でひと息ついたところで、お師匠様らしく弟子を特訓する時間です。

 モカモカは私がプレゼントした杖を構え、元気いっぱいに言い放ちました。


「光よ、捕らえろっ」


 一般拘束魔法です。


 大樹を標的に定めて放たれたその魔法は、朧げな光の輪郭を帯びるも、ついに実体を持つことなく霧散してしまいました。

 モカモカはしゅんとします。


「また失敗かぁ~」

「モカモカは大ぶりな魔法は得意ですが、細かい魔法は苦手な傾向にあるようですね。……イメージが不足しているからでしょうか。ちなみに今はどんなイメージをして魔法を放ったのですか?」

「えっとね、この樹にうきわをつけて水にぷかぷかさせてた」

「なんてお可愛いイメージ」


 実際のところ、イメージが魔法の精緻な部分に関与しているのかはわかりません。なにぶん私が、特に苦労することなくすべての魔法を会得してしまった身ですので。


 ですが、なにも無いよりはあった方が良いのは明確でしょう。私は少し頭を悩ませて言いました。


「水にぷかぷかさせず、うきわをつけるだけにしませんか?」

「やってみる!」


 再度、モカモカは一般拘束魔法を詠唱します。


 先ほどと同じく樹を囲うように浮かぶ朧げな光の輪郭は、今度は実体を帯びて樹を捉えました。

 モカモカはぱぁと顔を明るくして私を振り返ります。


「やったやったっ、できたよお師匠様!」

「さすが私の弟子です。物覚えが凄まじくいいですね」

「えへへ、お師匠様の教えがいいからだよ。ありがとっ」

「どういたしましてです」


 こんな風にモカモカは日に日に魔法の精度をあげていますが、間違いなく私の指導がいいというよりも本人の才能なんですよねぇ。

 実はモカモカは途轍もない魔法の才を秘めているのかもしれません。


「たくさん魔法を使って疲れたでしょうし、そろそろ家に戻ってシチューの準備をしますか」

「うんっ」


 こうして今日も、モカモカの特訓の時間を終えました。


 ◇◆◇◆◇


 その夜のことです。


 モカモカはひしと私に抱きつき、ぷるぷると身体を震わせていました。


「大丈夫ですよ。こわくないこわくない」

「うぅ、でも……」


 ぴしゃあああんっと窓の外で雷鳴がとどろきます。

 モカモカは「ぴぎゃあっ!?」と声をあげ、私に抱きつく力を強めます。


「こわいよぉママぁ」

「……今、ママって言いました?」

「あ……」


 やらかしたって感じのモカモカです。

 おずおずと顔をあげ、気まずそうに口を開きます。


「えっとね、お師匠様はお昼はお師匠様だけど、夜はママって感じなの。だからね、心の中ではずっとママって呼んでたんだ。……これから夜はママって呼んでいい?」

「全然OKです」


 サムズアップしてキメ顔をします。私も弟子であり、娘でもあると認識しているのでお相子さまです。相思相愛です。ほんと可愛いなぁこの子。モカモカの甘え上手に経験値が入る音がしました。


 その後も、ごろごろと雷は鳴りつづけました。

 そのたびにモカモカは怯え、いっそのこと暗雲を魔法で消し飛ばしてやろうかと思いましたが、天候を私情で変えるのはやりすぎだと思うので、今日のところは雷様の好きにさせることにしました。私の家族を傷つけたら容赦しませんけどね。


 そして迎えた翌朝、珍しくモカモカより早く起床した私は朝食づくりに励みました。

 その音に意識を揺さぶられたのか、モカモカが慌ててキッチンにやってきます。


「ごめんお師匠様っ、寝過ごしちゃった……!」

「人間ですからたまにはダメになっちゃう日もあるものですよ。ちょうど朝ごはんができたのでいっしょに食べましょう」

「うぅ、ごめんなさいぃ~」

「なにも謝ることはありませんよ。私がダメな日はモカモカがフォローする。モカモカがダメな日は私がフォローする。ふたりで支え合って立派な人間になりましょう」

「さ、さすがお師匠様っ。今の私のモットーにする!」

「え、いや、そんなつもりで言ったわけではないのですが……」 


 けど、今の教えを基盤にしてくれるのなら、モカモカが悪い子になることはないのかな。


 誰かのためにがんばるのはほどほどで、自分の悪いところもちゃんと愛することができて。

 モカモカがそんな子になってくれたらいいなぁ。


 


 

 


 


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