表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/40

第12話 不貞腐れていませんが?

「今さらですけど、この後になにか予定があったりはしませんか?」

「なんもないよ。今日はもうみんなのお手伝いは終わったし」

「学校には行かれていないんですか?」

「うん、去年までは義務教育だから行ってたけどもう行ってないよ。日中は困ってる人を助けて盗んで強くなって、夜になったら勉強するのがあたしの日課なんだ」

「えらいなぁ。盗みがなければ完璧だなぁ」


 そんな会話をしつつ、モカモカさんを林檎の森まで案内します。


「お師匠様はどんなおうちに住んでるの?」

「そんな大層なものではないですよ」


 私の手前、猫をかぶっているのではないかと勘繰っていますが、どうやらモカモカさん、根っからのいい子のようです。


 これはもう、先天的に宿ったスキルがハズレだったと言わざるをえません。

 レベルアップに伴って最大スキルが3つまで解放されるようになっているので、次に解放されるスキルは平和的なものであることを祈るばかりです。どうかなにとぞ。


 林檎の森に到着しました。私の自宅までまっすぐ進み、転がる青りんごを拾い上げて言います。


「私はこのりんごを採取して強くなりました。なので、モカモカさんもりんご採取で強くなりましょう」


 これが私の閃いた最速のレベルアップ方法です。


 遅くても2週間あれば、レベルが40に到達するはずです。

 その頃にはスキルも新しいものが解放されているでしょうから、確認した後に「もうこれ以上あなたに教えることはありません」的なことを言って師弟関係を解消する。並行して、エリシュナさんにご両親の居場所を特定してもらう。そして私が連れ戻す。そうすれば、モカモカさんがひとりで魔界領に行く不安もなくなる。


 これにて万事解決です。

 完璧ですね、どこにも隙がありません。


 ところが早速、暗雲が垂れ込めました。

 モカモカさんが首を傾げてこう言ったのです。


「どこにもりんごなんてないよ?」

「え、私が持っていますし、背後の木々にもあふれんばかりに実ってますよ?」

「お師匠様、疲れてる?」


 怪訝なまなざしです。

 頭のおかしいやつだと思われています。


 モカモカさんが嘘をついている気配はないので、おそらくこのりんごは私にしか視えないものなのでしょう。


 まぁこのりんご採取レベルアップ法はあまりに反則過ぎますものね。

 ……されはこれも女神さまが送ってくれたギフトのひとつなのでしょうか。採取スキルの副次効果だったり? あの女神さま、実はほんとうに超優秀だったのかもしれませんね。


「ん~、じゃあどうやってレベルアップしましょうか……」

「はいはいっ。あたしいい案あります!」

「なにかなモカモカくん」

「魔物を殺しまくります!」

「却下です」


 目をキラッキラさせて殺しまくると言いましたよこの小娘。

 ほんとにレベルアップさせていいのかちょっと不安になってきます。力を悪い方向に使ったりしませんよね?


 モカモカさんはムッと頬をふくらませます。子どもらしい感情表出です。


「えぇ~、なんでなんで? 魔物は悪者だから倒してもいいじゃんかぁ」

「魔物だから悪者とは限りませんよ。生きものを傷つけることはできるだけ避けなければなりません。わかりましたか?」

「うん、わかった!」


 あら、なんと物分かりのいい。

 うん、師弟関係が築かれているこの期間中に正しい倫理観を埋め込めば、いい方向に力を使ってくれそうですね。師匠として弟子を正しい方向に成長させねば。


「だけどお師匠様、盗まず倒さず強くなることなんてできるの?」

「ちょ~っと待ってくださいね」


 額をとんとん叩いて思考を巡らせます。前世でも悩んだときはこうやって案を捻り出していました。


 私がりんご採取でレベルアップできたのは、【採取】というスキルがあったからだと仮定して……。であれば、モカモカさんは盗みに関連するなにかをすればEXPを獲得できるはずです。


 ……う~ん、言葉通り盗んでレベルアップするのは情操教育的にどうかと思うんですよねぇ。なにかないかなぁ。


「メプッ」


 肩にのっかるメープルが鳴き声をあげました。

 モカモカさんがぎょっとします。


「その子、ぬいぐるみじゃなくて動物だったの?」

「はい、私のペットのメープルです。さてはなにかいい案でも閃きましたか?」

「メプメプッ」


 私の肩から飛び降り、メープルはとことこ歩いていきます。私とモカモカさんはその後をつけます。


 しばらくしてたどり着いたのは、林冠から陽射しが差し込み幻想な空気を漂わせるほとりでした。実はこの場所、私が苦い思い出を持っている場所でもあります。


「わ~、お魚さんがいっぱいだぁ」

「そうですね。お魚さんがいっぱいですね」

「お師匠様、釣りしよう釣りっ」

「……まぁ成長してるかもしれませんし」


 この150年、数えきれないほどのお魚を胃に収めてきた私ですが、自力で魚を獲ったことは一度もありませんでした。すべてEP交換所で手に入れていました。

 最高級の釣竿と最高級の釣り餌を使っても何故か1匹も釣れないんですよねぇ。


「メプメプッ」

「わわっ、どうしたのメープルちゃん?」

「メ~プ~」

「もしかしてあたしのためにお祈りしてくれてるの? ありがと」


 モカモカさんがメープルの頭を撫で、メープルは心地よさそうに目を細めています。

 あぁ素敵な一幕ですねぇ。たぶん私は今日も1匹も魚を釣れないでしょうけど、この光景を見られたのなら足を運んだ甲斐があったなぁと思えます。


 釣りをはじめてから1分が経とうとしたときのことでした。


「やった釣れた!」

「メプメプッ!」

「……マジで?」


 それから1分後。


「また釣れた!」

「メプ~!」


 さらに1分後。


「見て見てお師匠様っ、いちばんおっきいよ!」

「そうですか。よかったですね」

「お師匠様? なにか嫌なことでもあった?」

「べつに嫌なことなんてありませんよ。その調子でどんどん釣りあげちゃってください」

「うんっ! ――今度のも大物だぁ!」

「……」


 べつに拗ねてなんていませんよ? 

 私、大人ですし。お師匠様ですし。


 しかし驚きました。


【林檎の森のシラアユ×1を入手しました】

 EXP3200


 まさかこのお魚たちがこんなにもEXP獲得効率がいいだなんて。


 仮にEXPがモカモカさんにも見えていたら、驚きで目が飛び出ていることでしょう。今日、工具を盗んだ際に彼女に入っていたEXPはたったの180でしたから。


「ねぇねぇお師匠様、あたしなんだか強くなれてる気がするよ!」

「その調子でどんどん強くなりましょう」


 モカモカさんの現在のLVは早くも16まで伸びています。

 ……ほとりから魚を奪っているから窃盗スキルの一環として処理されているのでしょうか? なんにせよ、無駄な命を奪うことなく成長できていてなによりです。


 最終結果として、モカモカさんが魚を32匹釣り、私は1匹も魚を釣ることができませんでした。

 二度と釣りなんてしてやるもんかと固く誓いました。


 


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ