表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/40

第11話 お師匠様になっちゃいました。

 林檎の聖女と呼ばれるようになってから1週間が経とうとしていました。


「今日もりんご採取からはじめましょ~!」

「メプメプ~!」


 私の住処は変わらず林檎の森です。


 プリテンドに豪邸を用意するからそこに住まないかと申し出がありましたが、そちらはやんわりと断らせていただきました。だって、四六時中、聖女さま聖女さまと持て囃されるのは疲れるじゃないですか?


 最初の2日間はたくさんの方々と交流ができて幸せな気持ちに満たされました。ですが、3日を過ぎた頃から付き合い疲れを感じてきました。


 やはり何事も塩梅があるのでしょうね。ちやほやされるのは気持ちがいいですが、ずっとちやほやされていると疲労が喜びを追い越してしまいます。


 というわけで、プリテンドには3日に一度、顔を出すことを習慣とすることにしました。今日がその日です。


 りんご採取をし、メープルとアップルパイを堪能したところでプリテンドに向かいます。

 私を一目見た途端に街の方々は「聖女さまだ! 聖女さまだ!」と大はしゃぎです。ひらひらと手を振りつつ街を歩きます。


「聖女さま、こんにちは! 今日もお美しいですね!」

「ありがとうございます。私が不在の間になにか問題はありませんでしたか?」

「そうですね……あ、今朝からグリーネさんちの蛇口の水が出なくなってしまったみたいなんです」


 グリーネさんち。はて、そもそもグリーネさんって誰でしょう。

 疑問が募ると同時、頭の中でぴこんと音がしました。確認せずともわかります。私の所持する地図にグリーネさんのご自宅の場所が記されたのでしょう。


「それは一大事ですね。グリーネさんのご自宅まで案内していただけますか?」

「はい、もちろんです!」


 地図を確認して転移魔法というコンボを使えば一瞬で移動できますが、焦りの用でもありませんし、こちらの方と親交を深めることもかねて案内してもらいます。

 気さくに話しかけてきましたけど、私、この方と話すの今回が初めてなんですよ。


 会話をしつつなんとか名前を聞き出そうとしますがついに男性の方がお名前を口にすることはありませんでした。

 仕方がないのでステータスを確認することにします。ライネスさんというそうです。ん~、あっけないなぁ。


「あら聖女さま、どうされたんですか?」

「今朝から蛇口が出なくなったとお伺いしたので直しにきました」


 私は蛇口のプロではないのでなにが原因で詰まってしまったのかはさっぱりですが、魔法の力を借りれば問題を解決することができます。

 蛇口の状態を5年前まで戻しただけなので、また5年後に問題が発生するかもしれませんが、そのときは私がまた直しにきますのでご安心を。


「助かりました。ありがとうございます」

「いえいえ、とんでもございません」


 誰かの役に立てるのはやはりうれしいです。せっかく最強の魔法使いになったのですから、困っている人はできる限りたくさん救いたいものです。


 ほかに困っている人はいないか、ライネスさんに訊ねようとしたその時でした。


「待てやモカモカ!」


 銅鑼声に鼓膜がぴりぴりします。


 声の先を振り返ると、茶髪の少女がかんかんに怒る男性から逃げていました。手に持っているのは工具でしょうか。

 ……なんだろう、このくだりすごく既視感がある。


 私は茶髪の少女に拘束魔法をかけます。


「むがっ!?」


 光の輪を、足首にひとつ、身体にひとつ、口にひとつつけます。少女は芋虫状態になって私の前にころころ転がってきました。

 まずは宙に浮かび上がった工具を男性のもとに返します。


「おぉ聖女さま! こりゃどうも!」

「ご無沙汰しています。この子なんですけど、私が代わりにお説教してもいいですか?」

「もちろんです! そいつ、何回言っても盗みをやめないんです。女神さまから厳しく言ってやってください」

「はい、ガツンと言ってやります。ライネスさんも少し外してもらっていいですか?」

「わかりました。用が済みましたらお声がけください」


 ライネスさんが去ったところで、指を鳴らして少女の口から光の輪を外します。


「ぷあっ! あのあのっ、林檎の聖女さまですよね!?」

「はい、そうですよ。林檎の聖女プリオリです」

「わ~、ずっと会いたいと思ってたんだっ。あたしはモカモカ! いきなりだけど、聖女さまの弟子にしてくれないかな!?」

「ほんとに突然ですね……」


 呆れを通り越して感心してしまいます。

 両手両足を拘束されているのに目をキラキラさせてるんですよ、この子。まぁ話を聞いてくれるだけ良しとしましょうか。


「弟子の話はいったん置いといて。……モカモカさんはどうして盗みを繰り返しているのですか?」


 場合によっては厳しく咎めなければなりません。盗みが悪いことというのは、たとえ異世界であっても変わらぬ認識でしょうから。


 モカモカさんはじわりと瞳に涙を滲ませて言いました。


「それがさぁ、聞いてよお師匠様っ」

「お師匠様じゃないけど聞きましょう」

「あたしさ、ほんとは盗みなんてしたくないんだよ。けどさ、両親は街の外に出ることを許してくれないからこうやって強くなるしかないんだよ。あたしはみんなの役に立ちたくて、強くなりたくて、一瞬だけ盗みをしてるの。ほんとに盗んだことは一度もないんだよ? ほんとなんだよ?」

「なるほどですね」


 これが嘘ならゆくゆくは稀代のペテン師として大成することでしょう。

 真偽を確かめるため、ステータス確認をするとしましょうか。


【モカモカ/Lv8】

 職業:魔法使い

 

【スキル】

 窃盗Lv4


【ステータス】

 体力:36

 筋力:18

 耐久:12

 魔力:42

 幸運:20


 うん、言っていることに嘘はなさそうですね。


 私も序盤はりんご採取でレベルを上げていた身なので、モカモカさんの盗みで強くなっていたという話は理解できます。

 皆さん、ステータス確認はできないとおっしゃっていますが、スキルは的確に把握しているようなので、きっと天からお告げがあったりあるいは直感的に悟れるなにかがあったりするのでしょう。


 なにはともあれ。


「盗みはめっです」

「けど、これしか強くなる方法がないんだもん」

「モカモカさん、今何歳ですか?」

「13歳だよ」

「でしたら、まだまだ保護者に甘えていいご年齢です。強くなって誰かの役に立ちたいというお気持ちは立派なので、両親から街の外に出る許可をもらえるまでは、本を読んで知恵を蓄えるというのはどうですか?」

「それじゃダメなのっ。……あたしのほんとのパパとママは魔族に連れ去られちゃったから」

「……」


 重たいなぁそのバックボーン。どうして強くなりたがっているのかも読めちゃいました。


「魔族から両親を連れ戻したいんですね」

「そうなのっ。助けて聖女さまっ」

「両親のお名前はわかりますか?」

「ママはアリスで、パパはバーナー!」

「ちょっと失礼しますね」


 モカモカさんの額に触れて目を閉じます。


 ……ん~、反応がありませんね。けど、エリシュナさんがここ百年は人間を殺していないとおっしゃっていたので、生きてはいるはずなんですけど……。


「どう?」

「……現状ではなんとも言えませんね」

「そんな……あたし、諦めないもん! 魔族のところ行くもんっ!」

「う~ん……」


 この感じだと、すぐにでもひとりで魔族領に向かってしまいそうです。


 知性のある魔族はさておき魔物は危険です。私はなぜか魔物に襲われませんが、モカモカさんはきっと襲われてしまうでしょう。幼い少女の命を無碍にするわけにはいきません。


 私は頷いて言いました。


「モカモカさん、あなたを私の弟子にします」

「ほんと!?」

「はい。その代わりもう盗みは無しですよ?」

「わかった! やったやったっ、聖女さまのお弟子になれたっ!」


 街の方々が「さすが聖女さま!」と私に拍手を送ってくれます。


 これでモカモカさんがひとりで魔族領に発ってしまうことはないでしょう。

 師匠っぽいことをしつつ、こっそりご両親を探すとしますか。


「よろしくね、お師匠様っ」

「はい、よろしくお願いします」


 こうして弟子ができて、私はお師匠様となったのでした。

 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ