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第10話 救世主になっちゃいました。

「お待たせしました。グランドアップル無事収穫完了です」

「ふぇ?」


 私が手に持つ黄金のりんごを目にしてアリスラースさんは目を丸くします。あぁ美人なのにもったいない。


 林檎の森からプリテンドに戻ってくるまで、それはそれは居たたまれないことこの上ない時間でした。というのも、皆さん私に恐れおののいてしまったからでして……。


 行きは突き刺さる侮蔑の視線に息が詰まり、帰りは漂う畏敬の空気に息が詰まり……。

 王城に入ってようやく酸素が身体を循環しはじめた気がします。まさしく肩の荷が下りるってやつです。


「あれがグランドアップル……実物を目にするのは初めてだけれど、神々しさを見るに本物と見て間違いなさそうね」

「今さらですけど、グランドアップルってどんな効果を持っているんですか?」

「万病を治癒する力を持つと言われているわ」

「なんと」


 とてつもない代物じゃないですか。


 ということはですよ?

 それを喉から手が出るほど欲しがっていたということは……


「エリシュナさんの大切な方が重たい病にでもかかっているんですか?」

「あぁ。我の夫が百年前の人間との戦争で勇者一行に不治の病にかけられた」


 隠すことなくエリシュナさんは言ってのけました。

 百年前の人間との戦争……私がウキウキりんご採取している裏側でそんな出来事があったのですね。


 腰に片手を当て堂々と胸を張ったままエリシュナさんは続けます。


「夫の病が治った暁には、魔族一同、プリオリを大魔導士と認め、配下となることを約束しよう」

「配下だなんて堅苦しいこと言わないでください。なんでもないことをふとしたときに話せるお友達になっていただければ私はそれだけで充分です」


 それこそ今この瞬間のように。

 エリシュナさんはぱちぱちと瞬きし、ふっと頬をやわらげます。


「プリオリは驕る気配がてんで無くて好感が持てるな。この謙虚さをどこぞの座ってるだけの姫様にも見習ってもらいたいもんだ」

「私も普段は謙虚なのだけれど? ……プリオリ」

「はい、なんでしょうか?」

「エリシュナの夫の病が完治したら、アナタを処するという話は無しにするわ。そして、聖女として皆でアナタを歓迎しましょう」

「ちょおまっ、プリオリは我たち魔族のものだ! しゃしゃり出んな!」

「あら、プリオリは人間でしょう? こちら側の仲間になるのが道理ではなくって?」

「私のこと、魔女魔女言って、魔族の仲間扱いしていませんでしたっけ?」

「その折は申し訳なかったわ」


 なんとびっくり、アリスラースさんが私に頭を下げてきました。

 ……都合がいい気もするけど、ここまで傲岸不遜な振る舞いが目立っていたからあっさり許せちゃいますね。


「んな手のひら返しが通用するわけねぇだろ。プリオリは我たち魔族のもんだ」

「それを決めるのはプリオリよ。どう? アナタはどちらの国で暮らしたい?」

「えっと、まずはエリシュナさんの旦那様の病を治すべきなのでは?」


 ふたりは目を丸くして、


「その通りだな」「その通りね」


 よし、喧嘩が収まりました。


 魔族の国には転移魔法で向かうことにします。

 ……と、その前に。


「10億EP……」


 グランドアップルを魔法で複製することはやはり不可能だったので、EP交換所で追加入手しようとしたところ、とんでもない数値が表示されました。


 1週間前の私なら、二の足を踏んでしまったでしょう。ですが、今の私はすんなり交換ボタンを押せます。

 なぜって? EPが無限にあるからです。つまり実質無料。


「……気のせいかしら。プリオリがグランドアップルをふたつ持っているように見えるのだけれど」

「見間違いじゃないですよ。どうやら世界にひとつしかない代物のようなので、魔族側にひとつ、人類側にひとつ、グランドアップルを渡すことにします」

「早速世界にひとつしかない代物がふたつあるという矛盾が生じているのだけれど?」

「あ~……まぁ私は大魔導士ですので、矛盾のひとつやふたつ、ちょちょいのちょいっと破壊できてしまうのですよ。しかし複製は一度きりなので、使うタイミングはしっかり見極めてくださいね?」


 まぁその気になればいくらでも交換できるのですが、そうなるとグランドアップルの価値が暴落しそうなので、それはナイショの方向で。


 私は「ちょっと失礼」とエリシュナさんの手を握り、杖を片手に話しかけます。


「旦那さんはどこにいますか?」

「我の家だが」


 あ、ここですね。エリシュナさんと思考をリンクさせ場所を特定しました。ここに転移することにします。


「では大切な旦那さまをお救いしますね」


 魔法発動。

 次の瞬間、私はエリシュナさんの自宅にいました。


「……いよいよ本格的にプリオリが大魔導士であると認めざるを得ないようだ。転移魔法は大魔導士しか使えぬものだからな」

「あ、そうだったんですね。……えと、この方がエリシュナさんの旦那さまですか?」

「如何にも」


 精悍な顔つきをした御方です。筋骨隆々ではありますが、荒々しく呼吸する姿や血色の悪い顔つきが、彼が不治の病にかかり衰弱していることを言葉なく訴えてきます。


 私はグランドアップルを風魔法で八等分し、旦那様のお口に運びました。


「これを食べたら身体が良くなりますよ。召し上がってください」


 旦那さまは薄く目を開き、しゃくっとりんごを頬張りました。

 その直後でした。


「うんめぇ!?」

「……クリフ、顔色が良くなって」

「あぁ、しゃくしゃく、呪いがすっかり引いてやがる、しゃくしゃく、ってかこのりんご金色に光ってんじゃねぇか、しゃくしゃく、なんだこのりんご!?」

「よかったっ……!」


 エリシュナさんが瞳にしずくをたたえて旦那さまに抱きつきます。無我夢中でりんごを頬張っていた旦那さまは、泣きじゃくるエリシュナさんの頭を撫でました。


「不安にさせて悪かったな」

「ほんとだばか野郎っ。……と、先に紹介しなければな。この子はプリオリ。クリフを救ってくれた大魔導士さまだ」

「プリオリちゃんね。ありがとうな。この恩は一生忘れねぇ。困ったらいつでもこの俺、魔族王ジークリフを頼りな」

「はい、困ったときは頼りにさせていただきますね」


 感動の再開をしている中、大変申し訳ないのですが、事の顛末をアリスラースさんに伝える必要があるので、いったんプリテンドに戻ります。


 ぐすんぐすんと涙の余韻に浸るエリシュナさんを見て、アリスラースさんは状況を悟ったようでした。


「プリオリ、アナタを林檎の聖女として歓迎します」

「林檎の聖女ですか。……まぁ自称大魔導士よりはマシかな。ぜんぜんプリオリって呼んでくれて構わないんですけどね」

「そうアナタを呼べる誰かはきっと限りなく少ないわよ。だってアナタは、人と魔族の千年にわたる長い争いに終止符を打った救世主だもの」

「え、そんなにも長い因縁があったんですか?」

「あぁそうだ。……ずびっ、プリオリ、アンタは正真正銘、世界を救った聖女なんだよ……ずびっ」

「なんとまぁ……」


 りんごひとつで世界を救った聖女になってしまったようです。


 その後、街の人たちに歓迎されて宴に興じました


「聖女さまっ、こっち見て!」

「はいはい~」

「聖女さまっ、たんまり食ってくれよな!」

「はいはい~」

「聖女さまっ、これからもこの街をお守りくださいね!」

「はいはい~」


 半日前の酷い扱いは何処へ。

 今をときめくアイドルみたいな扱いを受けている私でした。


「占いおばばが言ってた青りんご色の長い髪に金色の賢そうな双眸を持つ聖女ってのは、やっぱりお嬢ちゃんのことだったんだな。オレは最初からそう思ってたんよ」

「あはは、この街に来たばかりのときはあなたにこんな生娘が救世主なわけがないかって笑われましたけどね」

「その折はすいませんでしたぁぁ!」

「ふふ、いいですよいいですよ、これから仲良くやりましょう」


 ひとり静かなスローライフもいいですが、こうして大人数でわいわいやるスローライフも悪くないものです。


 こうして私は、人と魔族の長い争いの歴史に終止符を打ち、林檎の聖女と讃えられ、たくさんのお友達をつくることに成功したのでした。


 実は私のスローライフはここまでがプロローグで、ここからが本編なのかもしれませんね?





 

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