迷走
俺たちのパーティにゼフレンとリリアが加入してから数日が経った。
『これからは同じパーティの仲間だから、僕のことはゼフレンと呼んでほしい』
パーティへの加入手続きを終え、戻ってきたゼフレンは開口一番そう言った。俺たちはお言葉に甘えて、ゼフレンと呼ぶことにした。
ミレナとリリアは、この数日間でかなり仲良くなった。
リリアたちがパーティに加入した次の日を休養日にしたのだが、その日に二人で街に出かけたらしい。
今では、まるで10年来の友人であるかのように仲睦まじい。
今もリリアがミレナに抱き着きながら何かを話している。俺としては眼福なので、もっとやってくれ。
ミレナと出会ってから、彼女が同い年の女の子と話しているのは初めて見る。
同性相手にしかできない話もあるだろうから、気兼ねなく話せる友人が居るのはとても良いことだと思う。
「さっきからグレインの視線がやらしい」
「失礼な」
仲睦まじい二人を眺めていると、視線に気付いたリリアが失礼なことを言ってくる。前言撤回、リリアそこ代われ。
この数日で最も変わったのはリリアかもしれない。俺たちに対する遠慮が無くなった。
俺に対してはからかったり、軽口をたたいたりするようになったし、ミレナにはよく抱き着くようになった。
さて、パーティが4人に増えたことにより、新たな問題が発生した。
俺自身の戦闘時の役割についてだ。
俺は剣士なので、レオディスのパーティに所属していた頃から近距離攻撃を担当してきた。しかし、今はゼフレンと役割が被っており、能力も彼の方が上だ。
だから何か違う役割を担当しようと思っているのだが、考えがまとまらない。
一度、自分の適性を見直した上で役割を考えた方が良いかもしれない。そう考えて、隣に座るゼフレンに話しかける。
「ゼフレン、少し相談したいんだけど、いいかな?」
「ん? 構わないよ。それで相談って?」
「ゼフレンから見て、俺って剣士の才能があると思う?」
あえて何気ない質問を装って明るく質問する。だが、ゼフレンはしばらく考え込む。
しばらくして、ゼフレンは言葉を選ぶように答える。
「もちろん、君の努力次第で一流の剣士になれる可能性もあると思う。君がそれを望むなら、僕は君を応援するし、協力もする。その前提で僕の考えを話させてくれ」
ゼフレンの真面目な雰囲気に、思わず身構える。
例え俺にとって耳を塞ぎたくなる話でも、真摯に受け止める覚悟を決める。
「君の適性は剣士では無いと思う。君はある程度なら満遍なくこなせる才能があると思うから、鍛えれば人並み以上に活躍できるはずだ。だけど、本当の適性は別にあると思うんだ」
「やっぱりそうですか」
俺に剣士の適性がないことは予想出来ていた。あまり伸びしろを感じなかったのだ。
もちろん、鍛えれば中型モンスターぐらいなら一撃で倒せるようになるかもしれない。
しかし、ゼフレンやレオディスのような領域に至る未来は想像できなかった。
「でも、向き不向きはこれから見つけていけばいいと思う。そのために僕たちにできることがあれば、何でもするよ」
「ありがとうございます。俺、色々と試してみようと思います」
「うん。それがいいと思う」
いつまでもミレナの隣に立ち続けるためにも、彼女に見合う冒険者にならなくては。
クエストが終わり、ギルドで報告を済ませる。
その後ギルドで解散すると、みんなは帰路に就く。
俺は一人ギルドに残り、パーティメンバー募集の掲示板の前に居た。もちろん、パーティを移るためではない。
掲示板にはメンバー募集のビラが掲示されているのだが、そこには、それぞれのパーティのメンバー構成が載っている。それを見てヒントを得ようと思ったのだ。
それぞれのメンバー構成を見ていくと、思いつかなかった役職だけでなく、聞いたことすらない役職もあった。
「シーフに弓使い、重戦士か。なるほど」
印象に残ったのはこのあたりだ。他にも色々とあるが、順番に試してみよう。
翌日。まずはシーフの適性があるかどうか試してみることにした。
シーフといっても何かを盗むわけではない。
シーフの役割は、主に索敵と罠の探知・解除だ。
これらは前のパーティでは俺の担当だったので、ある程度こなせる。他の全員が苦手だったため、消去法的に選ばれただけだが……。
シーフの戦闘スタイルについてはゼフレンに教えてもらった。
武器は短剣や暗器を使うことが多いらしい。人によっては武器に毒や薬を塗ることもあるらしいが、俺にはできない。
これらの武器は剣や槍と比べて攻撃力が劣る。なので、存在感を消して接近し、不意打ちでモンスターの急所を攻撃することで攻撃力不足を補うようだ。なるほど、わからん。
もうこの時点で結果は見えている気がするが、とにかく試してみることにする。
それから5日間、シーフとして冒険してみた。
慣れないことも多く、みんなに迷惑をかけることになったが、何も言わずに付き合ってくれた。
俺の中では向いていないという結論が出たが、一応他のみんなにも聞いてみる。
「多分、まだ剣士の方が向いていると思う」
「あたしもそう思う。さすがに迷走しすぎかな」
「私も……。でも、索敵と料理は良かったと思うよ?」
ミレナのフォローが逆に辛い。というか料理関係ないじゃん。シェフじゃないんだぞ。
やってみた所感としては、やはり戦闘時の攻撃力が問題だった。大前提として、俺個人の攻撃力は人並み以下だ。
なので、不意打ちで攻撃を急所に当てることで、火力を補う必要があったのだが……。
「なぜか敵に目立ちまくっていたんだよなぁ……」
そう。存在感を消そうとしても消えないどころか、逆に目立ってしまった。それも攻撃担当のミレナやゼフレン以上に。
結果、短剣でモンスターと正面切って戦うことになってしまった。
もう二度とやりたくない。
「グレインからはモンスターを惹きつけるフェロモンでも出てるんじゃない?」
リリアが恐ろしいことを言う。俺を何だと思っているんだ。
「そんな訳あるか」
……出てないよな?
それから数日間、俺は再び剣士としてクエストに出ていた。
シーフの武器を用意するのにお金を使ったため、金欠になったのだ。
剣士に戻っても相変わらずモンスターに狙われている気がする。俺が一番弱そうに見えるのだろうか。
その分、攻撃担当の二人が動きやすくなっているので、悪いことばかりではないが。
「グレイン、今日もモンスターにモテモテだね。はい、回復魔法をかけてあげる」
「ありがとう。ん? なんだか疲れも吹き飛んだ気がする」
「そうでしょ。最近気付いたんだけど、回復魔法もイメージによって若干効果が変わるみたいなんだよね。傷口の自然治癒力を高めるイメージだと今まで通り怪我が治るし、疲労回復を早めるイメージだと疲れが取れる、みたいな」
「そうなんだ。凄いな……」
そんなのアリかよ。しかもイメージがフワッとしてるし。
リリアにこれ以上喋らせると、人間の身体に詳しい人たちに怒られそうな気がするので、あまり深掘りしないことにする。
「そういえば、リリアはどこかで魔法を習ったのか?」
「あたし? あたしは故郷の街に魔法使いのお婆さんが住んでいて、その人に習ったんだ。その人も昔は冒険者をしていたみたい」
「そうなのか。もしかして、ゼフレンも魔法を習ってたのか?」
「ううん、お兄ちゃんは習ってなかったよ。お兄ちゃん、自分には魔法の才能がないと思っているみたいだから……。多分だけど、練習したらちょっとは使えるようになると思うんだけどね」
「そういうの、分かるものなのか?」
「うん。何となくだけどね。おーい! ミレナー」
リリアに呼ばれたミレナがこちらに来る。
え、魔法使いなら誰でも分かるものなの?
「リリア、どうしたの?」
「ミレナって人を見るだけで、その人が魔法を使えそうかどうか分かる?」
「うん。なんとなくなら分かるよ」
「分かるんだ……」
ほらね。と、リリアが目配せしてくる。俺は若干引いていた。
「ミレナから見て、お兄ちゃんが本気で練習したら、どんな魔法を使えるようになると思う?」
「ゼフレン? うーん。身体強化とかなら出来そうかな。属性魔法だと初級魔法なら習得できるかも」
二人の意見は精度の差こそあれ、おおむね一致している。俺は背筋が寒くなるのを感じる。
「……ちなみに、二人から見て俺はどうだ?」
恐る恐る問いかけると、二人はそっと目をそらす。あ、嫌な予感がする。
「……グレインは私が守るから大丈夫」
「こっちを見て言え、こっちを。それ答えになってないから」
「まあ魔法がなくても何とかなるよ、きっと。それにお互いの弱点を補いあうのがパーティだからね!」
「いい話風にまとめてごまかすな! ってか弱点!?」
俺が魔法使いになるのは無理そうだ。
「……」
「ミレナ、どうかした?」
言いたいことがあるが、何かに迷っている。そんな顔に見える。
「ごめん、何でもないの。気にしないで」
気になるなあ。




