適性②
翌朝。
今朝は早く目が覚めてしまったが、そのまま支度して宿を出た。なので、待ち合わせより30分以上早くギルドに着いてしまった。
ミレナを待つ間、昨日のことを思い出していた。
あのモンスターを一撃で仕留めた攻撃魔法。ミレナ曰く水属性の魔法で、ウォーターアローという初級の攻撃魔法らしい。
名前の通り、大気中の水分から水の矢を作り出して発射する魔法のようだ。
ミレナは故郷から王都へ向けて旅に出る間際――1年以上前のことだ――に、父親からこの魔法を教わっていたらしい。
そして、この魔法はミレナが使える唯一の攻撃魔法のようだ。
俺は今までに何人かの魔法使いと一緒に冒険をしたことがある。その中で様々な魔法を見た。
しかし、初級魔法で中型モンスターを倒したところは見たことがない。
もしかして、ミレナの本当の適性は――
「おはよう、グレイン。待った?」
ハッとして顔を上げる。気付けば目の前にミレナが立っていた。
考え込んでいる間に、予想より時間が経っていたようだ。
「おはよう、ミレナ。ついさっき来たところだから全然気にしないで」
「……ありがとう。今日はどうしようか?」
「今日は何かクエストを受けてみない? パーティメンバー募集のことも考えると、早めにパーティランクを上げておいた方がいいと思うんだ」
冒険者はギルドでパーティを登録することができる。パーティの人数に規定はないが、基本的に複数人であり、少なくともこの街にはソロパーティで活動している猛者は居ない。
ついこの間まで俺は仕方なくソロプレイをしていたが、あれは例外だ。
パーティを登録すると、クエストを受けることができるようになる。
パーティランクが上がると活動の自由度が増すので、パーティランクを上げておいて損はない。
また、ギルド内でパーティメンバーの募集をかけることもできる。ギルドの受付で申請すると、メンバー募集用の掲示板にビラを貼り出してくれる。
基本的にランクの高いパーティほど希望者が現れやすいし、能力も高い傾向がある。まあ当たり前の話だろう。
ちなみに、俺たちのパーティランクは最低のFランクだ。パーティを登録してから、ほとんどクエストをクリアしていないので仕方ない。
「そうだね。さすがにFランクのパーティに入りたいって人は来ないだろうし……」
ミレナの同意も得たので、俺たちはクエスト掲示板の前に移動する。
俺たちでも受ける事ができるクエストは、薬草採集や小型モンスターの討伐など、難易度の低いものばかりだ。その分、報酬もかなり控えめになっている。
やっぱり早くランクを上げないといけないな。
ミレナと話し合った結果、小型モンスターの討伐クエストを受ける事にする。
このモンスターは基本的に森の入り口周辺に生息しているが、時々集団で森の外に出てくる。そして、そのまま外に居ついたり、街の方に寄って来たりすることがある。
そうなると住民だけでなく、冒険者――特に手負いの冒険者――も危険に晒されるので、定期的に討伐して数が増えすぎないようにする必要があるのだ。
俺たちはギルドの受付でクエスト受注の手続きを行い、街の外に出ていた。
そこで俺はミレナにある提案をする。
「今日の討伐クエストだけど、ミレナも攻撃に回ってくれないかな?」
「私も攻撃に? 別にいいけど、どうして?」
「昨日の攻撃魔法、凄い威力だったからね。もう少し見てみたくて」
「わかった」
その後、二人で相談して役割を決める。
昨日までとは異なり、今日はミレナが中心になって攻撃する。俺はミレナを護りつつ、魔法をかいくぐって近付いて来たモンスターと戦うことにした。
ミレナは近接戦闘が苦手なので、モンスターが彼女に接近する状況は避けなければならない。
いつでもミレナのところへ駆けつけられるように、彼女から離れすぎないように気を付けないと。
「いや、すごいな……」
およそ1時間後、俺は自分の認識を改めていた。
ミレナには攻撃魔法の適性があると思っていたが、それ以上だ。天才とは彼女のような人のことを指すのだろう。
攻撃の威力に関しては、使っているのが初級魔法なのに、平均的な魔法使いの中級魔法にも引けを取らない。
相手が小型のモンスターとはいえ、大半は一撃で倒してしまう。
しかし、ミレナの本当の凄さは威力ではなく、魔法の精度だ。
相手が止まっていたり、同じ方向に動き続けていたりする場合は、完璧に急所に当てている。それはまるで吸い込まれるようだった。
急所から外れたのは、相手が急に止まったり反転したりしたときだけなので、狙った場所にブレなくコントロール出来ているということだろう。
魔法の精度に関して言えば、前のパーティに居たカナリスより上だ。
カナリスは王都の魔法学校を首席で卒業しているほどの実力者なので、彼女より上となると、この国の中でも屈指の才能ということになる。
余談だが、王都の魔法学校を上位で卒業した者のほとんどは宮廷魔術師か貴族に使える魔法使いになり、冒険者になる者は稀だ。カナリスは愛に生きる女性なのだ。
そんなことを考えている間に、最後のモンスターが倒れて辺りに静寂が訪れる。
ミレナにはしばらく休憩してもらい、ほとんど出番の無かった俺がモンスターの角を回収しに向かう。これがモンスター討伐の証明になるのだ。
ざっと見たところ30体は居る。クエストの依頼書によると15体以上討伐すればクリアなので、今回のクエストは既に達成したことになる。
この調子だと、すぐにEランクパーティになれそうだ。
4日後の夕方、今日もクエストを終えてギルドに戻ってきた。
受付の担当者にクエスト達成の報告をする。これで5回クエストを達成したことになる。なので、
「確認が完了しました。今日もお疲れ様です。お二人のパーティは、これで5回クエストを達成されましたので、Eランクに昇格となります」
「やった!」
隣でミレナが小さくガッツポーズする。かわいい。
Eランクに上がったので、俺たちはそのままパーティメンバーの募集を申請する。
申請中に受付の人に訊くと、応募があるのはほとんどCランク以上のパーティらしい。
メンバーが増えるのは当分先になるかもしれない。
そう考えると、嬉しいような悲しいような複雑な気分だ。




