適性①
俺がレイヴェルクに到着してから半月ほど経った。
この街に来てから何度か未開拓地調査のクエストを受け、未開拓地のモンスターとも戦った。
それで分かったことだが、未開拓地のモンスターは俺の想像以上に強かった。意外に防御力が高く、なかなかダメージが通らないのだ。
効率良くモンスターを倒すためにも、武器を変えるか、攻撃力の高い冒険者とパーティを組むか。俺はギルドで考え込んでいた。
「グレイン、久しぶり」
そのとき急に声がかかった。驚いて顔を上げると、そこにはミレナの姿があった。
また再会できた嬉しさに、思わず目頭が熱くなる。
俺は、声が震えないように気を付けながら返事する。
「ミレナ、久しぶりだね。ゆっくり休めた?」
「うん。でも、いつまでも落ち込んでいられないから。……家でね、お父さんとの約束を思い出したんだ。世界一の魔法使いになるっていう約束」
ミレナの目には力強い光が宿っている。本当に真っすぐで強い女の子だ。
「そうだったのか。話してくれてありがとう。これからどうするの?」
「私もこの街を拠点にして、冒険者を続けようと思ってる」
「そっか」
二人の間に沈黙が流れ、俺の心臓が早鐘を打ち始める。
俺は姿勢を正して小さく咳払いをすると、彼女に問いかける。その声は自分でも驚くほど震えていた。
「もし、ミレナが良ければ俺とパーティを組んでくれませんか?」
「うん。喜んで」
その返事を聞いて、心の中で大きくガッツポーズする。
彼女が父親との約束を果たせる日まで、隣で支え続ける。そう心に誓うのだった。
「そっか。このあたりのモンスターってそんなに手強いんだ」
「うん。俺の攻撃力だと全然足りないみたいだ」
俺はミレナに未開拓地のモンスターについて説明する。
本当は『一撃で倒せる』と言えれば良かったのだが、半月程度ではそこまで成長できるはずがなかった。
実のところ、ミレナと再会するのはもっと先になると思っていたのは内緒だ。
「じゃあ、私が支援魔法でサポートしたらどうかな? 身体強化で攻撃力を上げれば戦闘が楽になると思うんだけど」
「確かにいいアイディアかもしれない。ミレナさえよければ明日にでも試してみる?」
「うん。大丈夫だよ」
こうして俺たちは、未開拓地に向かうことを決めた。
二人だけで冒険に出るのは初めてで、俺は言葉にできないほどの高揚感に包まれていた。
翌朝。
俺とミレナは準備を整えて未開拓地に来ていた。
未開拓地には俺が苦戦したモンスターだけでなく、未知のモンスターもいるはずなので油断は禁物だ。何かあったらミレナだけでも逃がさないと。
「じゃあ身体強化いくよ」
「ありがとう。よろしく」
ミレナが身体強化の魔法をかけてくれる。
レオディスに酷評されたミレナの支援魔法だが、身体強化魔法に関してはそれほど悪くない。俺は平均的だと思っている。
一方、敵への妨害魔法については初心者レベルで、練習しても一年間ほとんど上達しなかった。レオディスはそれが気に食わなかったのだろう。
俺は、支援魔法の効果を確かめるために一度剣を振ってみる。
うん。昨日までに比べて剣が軽く感じるし、剣速も上がっている。これならある程度戦えそうだ。
「ふう。……しばらく休憩しようか」
「うん。そうだね」
モンスターを数体倒してから、俺はミレナに休憩を提案する。
俺たちは未開拓地に入ってすぐの森の中に居る。
この周辺は小型のモンスターが多く、身体強化があれば攻撃の通りも良い。
それでも半分以上は一撃で倒せなかった。やっぱり攻撃力が足りないなぁ。
「ねえグレイン、もう少し奥まで行ってみない?」
「奥まで? 今の俺たちだと少し危険じゃないかな」
「ほんの少しだけだよ。それぐらいなら大きなモンスターも出てこないだろうし」
一般的にモンスターは森の奥に行くほど大きく、強くなると言われている。しかし、ミレナの言う通り、少し奥に行った程度で劇的に変わったことはない。
あくまで俺の経験上の話だが……。
「分かった、行ってみよう。そのかわり、危ないと思ったらすぐに戻るよ」
「うん!」
こうして、俺たちは森の奥に向けて歩を進めた。
奥に移動してから1時間ほど経っただろうか。
俺たちは、森の中の少し開けた場所にいた。広さ5mほどの円形の空間だ。
この空間の中央付近は林冠が途切れており、そこから太陽の光が差し込んでいる。その光がこの空間全体を柔らかく照らしているため、明るく見通しが良い。
ここに来るまでの間に小型モンスターを数体倒したが、いずれも森の入り口周辺と比べて若干強い程度であった。
――カサカサッ
音のした方に目を向けると、ちょうどこの空間内に小型のモンスターが入ってきたところだった。
そのモンスターは右前方2mぐらいの場所から現れ、俺の正面まで走ったところでこちらに気付くと、急に向きを変えて奥に向かって駆け出した。
背中がガラ空きで隙だらけだ!
俺は反射的に後を追い、走りながらモンスターの背中に攻撃を繰り出す。その瞬間。
――ガサガサガサッ
先程より明らかに大きな物音が右後方から聞こえた。マズい!
「グレイン、後ろ!」
ミレナが慌てた様子で叫んでいる。俺は攻撃直後の体勢から足を踏ん張り、振り返ろうとする。だが。
――ズルッ
踏ん張り切れずに足が滑る。体勢を崩した俺はそのままうつ伏せに転倒し、衝撃で剣を取り落としてしまう。
「グレイン!」
ミレナの声にハッとして顔を上げる。すると、目の前で体長1.5mぐらいのモンスターが前脚を振り上げていた。振り上げた前脚には刃物のように鋭利な爪が生えている。
あれをまともに受けると間違いなく死ぬ。
遠くでミレナが何かを叫んでいる声が聞こえる。魔法かもしれない。それならば回避する隙ができるかも。
とっさにそう考えた俺は、必死に身体をひねって横に転がる。
直後、目の前のモンスターが咆哮し、そのまま前に倒れ込んでくる。そして、俺のすぐ隣に横たわった。
俺は慌てて飛び起きる。そして震える手でなんとか剣を拾い上げると、すぐにモンスターに向けて構えた。
「はあっはあっ、……ん?」
だがモンスターは一向に起き上がらない。俺が聞いたモンスターの咆哮、あれが断末魔だったと気付くのに時間はかからなかった。
俺はモンスターが絶命したのを確認して、ミレナのもとに向かう。
「グレイン、大丈夫だった?」
「本当にありがとう、助かったよ。立てる?」
「ごめん。腰が抜けちゃって……」
よほどショックだったのだろう。ミレナはぺたんと座り込み、目に涙を浮かべて小さく震えていた。
俺はミレナの横に腰を下ろし、彼女が落ち着くまで隣にいるのだった。
それからしばらくして、ミレナが落ち着いたのを見計らって立ち上がる。
これ以上冒険を続ける気力もないので、二人肩を並べて街に向かって歩く。
帰路に就く途中、俺はミレナに気になっていたことを尋ねた。
「そういえば、さっきのモンスターってミレナが倒したんだよね。どうやって倒したの?」
「攻撃魔法を使ったの」
「攻撃魔法? ミレナって攻撃魔法使えたんだ」
「失礼な。……と言いたいところだけど、私も使えることを忘れてた。あの時はグレインがピンチでパニックになってたんだけど、顔周辺に攻撃魔法を当てれば怯むかもしれないって急に閃いたの」
「そうだったのか。それにしてもすごい威力だったな」
ミレナは怯ませる目的で攻撃したようだが、攻撃はモンスターの頭部を貫通していた。
いくら急所とはいえ、あの大きさのモンスターを一撃で仕留めるということは、ミレナの魔法攻撃力はかなり高いのかもしれない。そう考えながら街へと歩を進めるのだった。




