Cランク昇格試験①
あの決闘からしばらく経った。
決闘後の数日間はミレナの機嫌が悪かったので、俺は毎日のように謝り続けた。
最終的に『俺が勝手にミレナの前から居なくならない』ことを約束して許してもらえた。
色々あったが、普段通りの日常が戻って一安心だ。
今日もクエストをこなし、ギルドで報告する。
「本日もお疲れ様でした。……あっ! 今回のクエスト達成で、Cランク昇格試験を受験できるようになりましたよ」
「やったあ!」
リリアが嬉しそうに飛び跳ねる。窓口のお姉さんはそんなリリアを見て嬉しそうに微笑んでくれる。その目はまるで妹を見るかのようだ。
「試験をお受けになられますか?」
お姉さんが確認するように訊いてきたので、4人で顔を見合わせて頷きあう。
「はい!」
絶対に合格してみせる。そんな意志を込めて返事する。
「かしこまりました。日程を確認いたしますので、しばらくお待ちください」
そう言い残してお姉さんは窓口の裏に下がる。
「大丈夫かなあ」
「しっかり準備して、僕たちの実力を発揮すればきっと合格できるよ」
不安そうな顔をしていたリリアだったが、ゼフレンに励まされて安心した表情に変わる。
こういう時、ゼフレンは本当に頼りになるなあ。
「お待たせいたしました。試験は5日後になります。試験の際は最低3日分の食料と、野営の準備をお願いします。詳細は当日に説明しますね」
「分かりました」
「頑張ってくださいね。みなさんの合格を祈っています」
お姉さんは俺たちだけに聞こえる声でそう言った。表立って応援するのは良くないのかもしれない。
「ありがとうございます!」
俺たちは力強く頷いた。
その後、ギルドの中で試験までの予定を話し合うことにした。
「試験の日程が決まったから色々と準備しないといけないね」
ゼフレンの言葉に、一同が頷く。
「試験までの間はクエストを受けずに準備と休息に専念するのはどうかな?」
「僕はグレインの意見に賛成だ。万全の状態で試験を受けたいからね」
ゼフレンの言葉にミレナとリリアも頷いている。どうやら異論は無いようだ。
「食料と野営の準備って言ってたよね。あたしのカバンだと小さいかなあ?」
「ちょっと小さいかもしれないね。明日一緒に買いに行く?」
「ありがとう!」
ミレナとリリアは仲良く買い物の約束をしている。
「食事はどうしようか。日持ちする食料を持って行って、俺が簡単な料理を作るのが良いかな?」
「現地調達は時間と体力を使うから今回は避けたいね。お願いできるかな?」
「任せてください」
「ありがとう。食料の買い物と持ち運びは僕も手伝うよ」
「助かります」
自分の荷物に加えて4人分の食料と調理器具を一人で持つのは大変だから、手伝ってもらえるのは本当にありがたい。
そして、昇格試験の日がやって来た。
この試験に必要な物は用意したし、しっかり休んで体調も万全だ。
他の3人も調子は良さそうで、気合の入った表情をしている。
「おはようございます。みなさんお揃いですね」
指定された場所で待っていると、窓口のお姉さんとギルドの副団長がやって来た。副団長は今回の試験の立会人を務めるようだ。
手短に挨拶を済ませ、お姉さんが一歩前に出る。
「まずはこちらをお受け取りください」
そう言って、お姉さんは俺たちに地図と資料を手渡す。
それらを見ながら説明の続きを待つ。
「これからみなさんには二つの課題を行っていただきます。両方の課題をクリアし、明後日の昼の鐘が鳴る前にギルドに戻ってくれば合格となります」
いつもと違い、お姉さんの声色がやや冷たく感じる。
「では、地図をご覧ください。一つ目の課題として、地図に記した場所に設置した箱を持ち帰ってもらいます。地図に注記してある通り、箱は地上にそのまま置いているとは限りませんのでご注意ください」
地図を見ると、未開拓地を北西に進んだところに×印が一つだけ描かれていて、余白にお姉さんが言った通りのメモ書きがある。
「二つ目の課題はモンスターの討伐です。こちらは資料に書かれたモンスターのうち、いずれか一体を討伐してください。討伐を証明できる素材を持ち帰ればクリアとなります」
先ほど貰った資料には、5種類のモンスターの情報と討伐証明のための素材、換金できる素材が書かれている。
どのモンスターも見たことの無いモンスターで、強そうな見た目をしている。
「課題はどちらから挑んでいただいても構いません。繰り返しになりますが、両方クリアした上で明後日の昼までにギルドに戻れば合格です」
俺たちは短く返事する。
「最後に、これをお渡しします」
そう言って、お姉さんは全員に2本ずつ筒のようなものを手渡す。
「この狼煙に火をつければ煙が高く上がり、救助を呼ぶことができます。ただし、これを使うと試験は不合格になりますのでご注意ください。ですが命には代えられませんので、非常時には躊躇せずに使ってください」
それまで顔色を変えずに淡々と話していたお姉さんだったが、狼煙の説明の際には縋るような表情に変わる。それだけ俺たちの身を案じてくれているのだろう。
やがて試験開始の時間となり、俺たちは未開拓地に向けて出発する。
パーティの間には程よい緊張感が漂っていた。
試験が始まってから1時間ほど経っただろうか。
真っすぐ北向きに歩いていると、森の入り口に到着した。
「今は地図のここかな。森には入らず、森に沿って西向きに進もうか」
「森に入ると色々と大変ですからね。賛成です」
ゼフレンの提案に全員が賛同する。
これ以上北に進むと森に入ってしまい、時間と体力をより多く消費してしまう。なので、森を目印にしながら見通しが良く、移動しやすい平地を進むことにした。
「未開拓地の北側に来るのは初めてだから、なんか新鮮だね」
「南の方がクエストの効率が良いもんね」
リリアはそう言いながらゼフレンの持っている地図をのぞき込む。
「森の西には山があるんだね」
「そうだね。多分山道を通ることになるから、足場の狭いところには気を付けるんだよ」
「はーい」
リリアが明るく手を挙げる。そんな二人の様子をミレナは楽しそうに見つめていた。
山道に入った。勾配がきつい場所もあり、思いのほか体力を使う。
「このあたりで一度休憩しようか」
「時間もお昼ぐらいですし、ご飯にしますか?」
「そうだね。簡単なもので良いからお願いできるかな?」
「分かりました」
昼食に時間をかけてしまうと、その分移動時間が減る。なので、手早くスープを作ることにした。
ちらりとみんなの様子を見る。まだ疲労の色は薄いが、少し暑そうにしている。
その姿を見て、味付けをほんの少しだけ濃くすることに決めた。
汗をかいたら塩分補給だ!
「さっきの道、幅の狭いところがあって怖かったね」
リリアの声が聞こえてきたので、手を動かしたままそちらを見る。彼女はミレナと話しているようだ。
「帰りも気を付けないとだね」
「他に良い道があればなぁ……」
「別のルートだと遠回りになっちゃうもんね」
ミレナの言う通り、山道を通らない安全なルートはあるが、山を大きく迂回するので時間がかかってしまう。今回は制限時間があるので、山道を抜けることにしたのだ。
食事と片付けを終え、体を休めながらモンスターの情報が書かれた資料を見る。
資料によると、この山道沿いには試験課題のモンスターが生息しているらしい。体長2mぐらいの鳥型のモンスターで、鋭い爪と嘴が武器だ。
もし道中でそのモンスターと遭遇すれば討伐する予定になっている。
「それにしても鳥型のモンスターか……」
このパーティで鳥型のモンスターと戦うのは初めてなので、勝手が分からない。
資料には『あまり賢くないため討伐は比較的容易』と書かれているが、大丈夫だろうか。




