決闘後②
私の一日は、お嬢様を起こすことから始まります。
「お嬢様、おはようございます」
「おはよう、グラシア」
いつもは私が起こすまで寝ていますが、今日は既に起きていました。
多分、冒険に行きたくて早く起きたのでしょう。
「今日は予定がございませんが、どうなさいますか?」
「もちろんクエストを受けるわ! 早くグレインたちに追いつかないと!」
「かしこまりました」
お嬢様は早く冒険に行きたそうにウズウズしています。最近のお嬢様は毎日楽しそうにしていて、こちらまで心が温かくなります。
――これも、彼らのおかげですね。
ギルドに向かうための馬車を手配しながら、そんなことを考えるのでした。
ギルドに到着しました。
お嬢様は周囲の注目を集めていますが、わざわざ近付いてくる人はいません。一人を除いて。
「フェルドリッジ伯爵令嬢、おはようございます! 今日はクエストの日ですか?」
「おはよう、リリア。もちろんそのつもりよ。早くあなたたちに追いつきたいわ」
私は反射的に周囲に他の人が居ないかどうか確認します。良かった、誰も居ない。
「お嬢様、公共の場では誰が聞いているか分かりませんのでご用心を」
「大丈夫よ。ちゃんと確認したわ」
お嬢様は聡明なお方ですが、盗賊討伐の時のように勢いで行動されることがあるので、心配になります。
もう少し落ち着きを持ってもらえると助かるのですが……。
「今日は6人で一緒にクエストを受けない?」
「良いですね! みんなに相談してきます!」
お嬢様から提案を受けたリリアは嬉しそうにグレインたちのもとに向かいます。その後、仲間を連れてこちらへ戻ってきました。
「カティア様、おはようございます。ぜひ、一緒にクエストを受けましょう!」
グレインのその言葉に、お嬢様はぱあっと表情を輝かせます。
これは6人で冒険できるのが嬉しいのか、それとも――。
その後、6人で中型モンスター討伐のクエストを受けました。
午前中にノルマを達成し、少し長めに休憩をとってから街に戻ります。
今は男性の二人が周囲を警戒してくれているので、図らずも女子会のような形になりました。
この4人で話すのは久しぶりなので、話題はもちろん――。
「決闘の時のグレイン、本当にカッコ良かったわね!」
「はい! あたしもお兄ちゃん一筋じゃなければ惚れてたかもしれません! カティア様はグレインが勝つと思ってましたか?」
「当然よ! わたくしを護ってくれた時から只者じゃないと思っていたわ!」
お嬢様……。決闘前夜に『グレインが負けたらどうしよう。決闘を止めるべきだったかしら』と仰っていたことは、お墓まで持っていきます。
「それにしても、グレインはギルドでも注目されていましたね。お嬢様と同じぐらい視線を集めていたような気がします」
「……女性の羨望の視線が多かった気がするわ」
うっ、失言でした。お嬢様の目が鋭くなり、周囲の温度が下がります。
「ま、まあ、大半は『カッコいい』って感じの視線でしょ。きっと」
リリアがフォローしてくれたので事なきを得ました。
一部、熱を帯びた視線を感じたとは絶対に言えません。まあ、彼女らも隣にお嬢様やミレナが居れば寄ってこないでしょう。
……そういえば、先ほどからミレナがあまり話していませんね。
気になって彼女をチラリと見ると、どこか不機嫌そうです。何かあったのでしょうか。
「リリア、少し良いですか?」
「どうしたの?」
休憩後、二人きりになったタイミングを狙ってリリアに話しかけます。
「ミレナのことですが、何かありましたか? 少し機嫌が悪そうに見えますし、グレインともほとんど話していませんが……」
「色々あったから気持ちの整理がついてないんだと思う。まあ、もう少ししたら元に戻ると思うから大丈夫だよ」
仲の良いリリアがそう言うのなら、大丈夫なのでしょう。
その後は気持ちを切り替えてクエストに集中しました。
クエストを終え、ギルドに戻ります。報告も済ませ、あとは屋敷に帰るだけになったのですが、名残惜しくて動きたくなくなります。
それは全員同じようで、私たちはギルドの中で会話を続けます。
「グラシアさん、少しいいですか?」
そんな中、ミレナが遠慮がちに話しかけてきました。
「ミレナ? どうされましたか?」
「ここでは、ちょっと……」
彼女は二人きりで話がしたいように見えたので、さりげなく他の4人から離れます。
「ここならみなさんに聞こえないでしょう。……何かありましたか?」
「えっと、グラシアさんにお願いがあって……」
もしかすると不機嫌なこととは別の件かもしれない。そう思いながら話を聴きます。
「グラシアさん、氷魔法が得意ということは、水魔法も使えますよね?」
「はい。中級魔法ぐらいまでなら問題なく扱えますよ」
「でしたら、私に水魔法を教えてください! お願いします!」
そう言うと、ミレナは勢いよく頭を下げます。
「構いませんが……理由を聞いても良いですか?」
「はい。この街に来てから、グレインは適性を見つけて努力して、日に日に成長しています。だけど、私は全然変わっていません。このままだと、グレインがどんどん遠くに行ってしまう気がして……。これからも彼の隣に居続けるためには、私も強くならないといけないと思うんです。グレインに守ってもらうだけじゃなく、私も彼を守れるようになりたい! そう、思ったんです」
目の前の少女が眩しく見えます。私は思わずミレナの手を取りました。
「分かりました! 私の知っている水魔法を全てお教えします!」
お嬢様の恋が叶うことだけを優先するなら、断るのが正解だったのかもしれません。だけど、ミレナの切実な想いを聴いて、彼女にも幸せになってほしいと思いました。
お嬢様、ごめんなさい。あなただけを応援することができなくなってしまいました。




