グレインの過去③
レオディスのパーティに加入してから約半年が過ぎた。
ミレナの妨害魔法は少しずつ上達していて、小型モンスターには若干効くようになった。
レオディスはまだ不満そうだが、多少上達したことで最近は落ち着いている。
今日は俺が加入してから初めての遠征だ。
どうやら俺とミレナが冒険に慣れるまでは、あえて日帰りのクエストや依頼を受けてくれていたらしい。
加入直後に泊りがけで冒険に出ていたら色々と対応できなかったと思うので、この配慮は非常にありがたい。
「よし、今日はこの辺りで野営するぞ」
夕方になり、周囲が暗くなり始める頃。
レオディスが号令を出し、一同は野営の準備にあたる。
5人で手際良く準備を進め、完了まであと少しというところで、ガルドが俺とミレナのもとにやってくる。
「よしグレイン、ミレナ。ちょっと付き合ってくれ」
「付き合うってどこにですか?」
「付いてくりゃ分かるさ。レオディス、ちょっと行ってくる!」
「分かった。気をつけてな」
レオディスにひと声をかけると、ガルドは先ほどまで歩いてきた道を引き返していく。
俺とミレナはどこに行くのか分からないまま、ガルドの後を追った。
「よし、ここでいいだろう」
俺たちがやってきたのは野営地の近くにある村だった。
ガルドは村で最も大きい屋敷――この村の領主か村長の自宅だろうか――の扉をノックする。
「はい、どなたでしょうか?」
屋敷の中から使用人の男性が出てくる。彼は俺たちの姿を見ても特に顔色一つ変えない。
「すみません。近くに野営する冒険者なんですが、少し野菜を分けてもらえませんか?」
ガルドはにこやかな笑みを浮かべる。使用人は合点がいったように頷く。
「なるほど、そういうことでしたか。少々お待ちください」
しばらくして、使用人がいくつかの野菜を抱えて戻ってくる。
「こちらでよろしいですか?」
「ありがとうございます。助かります」
俺とミレナが使用人から野菜を受け取る。ガルドは持ってきた財布からお金を取り出すと、使用人に手渡す。
「確かに。あなた方の無事を祈っております」
俺たちは使用人に一礼すると、野営地に向かって歩き始める。
「ミレナ、サンキュ。ここからは俺が持つ」
「えっ? 大丈夫ですよ。重くありませんから……」
ミレナは遠慮するが、ガルドは構わずに野菜を全て受け取る。ミレナは困惑した様子だ。
「ははは、そんな顔するな。今回はお前たちに冒険中に野菜を調達する方法を教えたかったんだ。いいか、相場よりちょっと多めにお金を払うのがポイントだぞ」
そう言うとガルドは楽しそうに笑みを浮かべた。
しばらく歩き続けているうちに、あたりはすっかり暗くなってしまった。
「あちゃー。出発するのが遅かったか。次からは、暗くなる前に帰れるように計算するんだぞ」
ガルドの声は明るく、焦りは感じられない。何か明かりでも持ってきているのだろうか?
「これ、大丈夫なんですか? ちゃんと帰れますか?」
ミレナの声の調子からして、呆れているようだ。
「まあまあ、そんな顔をするんじゃない。……って暗くて見えねえな」
「冗談言っている場合ですか。これからどうしますか?」
思わずガルドにツッコんでしまう。このままだと野営地の方向すら分からない。
「まあ待ってな。もう少しだから……ほら」
ガルドがそう言った瞬間、前方に火が起きた。あれは焚き火だろうか。
「まさかカナリスが?」
「おっ! ミレナ正解。鋭いね」
ガルドに褒められたミレナだが、呆れた表情でため息をついている。
「これで方向は分かったし、足元に気を付けて野営地に向かうぞ」
ガルドとミレナが歩き始めるが、俺は立ち止まったまま空を見上げる。
東の空に、満月が顔を出し始めていた。
深夜。
物音で目を覚ます。起き上がって周囲を見回すと、火の番をしていたガルドと目が合った。
ガルドは声を出さずに森の方向を何度も指差す。それに合わせて口をミ・レ・ナと順にパクパクさせていた。
俺は頷くと、ガルドが指し示す方向へ向かうことにした。
森に入って数分歩くと、開けた場所に出た。どうやらここは湖のほとりのようだ。
ミレナはどこに――
「!!」
その姿を見て思考が止まり、呼吸すらも忘れてしまう。ただ、心臓だけは耳の横にあるかのように激しく主張している。
「……きれいだ」
湖のほとりにはミレナが佇んでいた。彼女は両手を広げて満月を見上げていた。
満月に照らされたミレナは、どこまでも美しく、幻想的だった。
「――っ!」
気が付くと、俺の頬を涙が伝っていた。こんな姿を誰かに見られるわけにはいかないと、涙を拭きながら来た道を引き返す。
この日、俺はミレナに恋をした。




