グレインの過去②
ミレナが妨害魔法を担当することになってから5日が経った。
今のところ上達の兆しは見えないようで、最近のミレナはしょんぼりしていることが多い。
カナリスやガルドがうまくフォローしているが、俺はどう声をかけたら良いかが分からず、役に立てていない。
「ミレナちゃん、調子はどう?」
「全然ダメです……。妨害のイメージが湧かなくて……」
「なるほど。そういう時はね、――」
クエストの休憩中、カナリスがミレナに妨害魔法の手ほどきを始める。
俺がその様子を眺めていると、隣にガルドが腰を下ろす。
「おっ! やってるなー」
「はい。熱心ですよね」
「だよな。まあ、カナリスが先生役なら安心だ。アイツも使える魔法だからな」
そういえばカナリスは妨害魔法を使えると言っていた。
彼女は炎属性の攻撃魔法がメインで、攻撃力が非常に高い。今までに見た魔法使いの中でも屈指の強さだ。
「そういえば、カナリスって凄い実力ですよね。貴族に仕えている魔法使いより強い気がするんですが……」
「ん? お前に言ってなかったっけ? カナリスって王都の魔法学校を首席で卒業してるんだぜ。それも歴代最高の成績でな。当然、宮廷魔術師の誘いもあったが、断ったらしい」
「ええっ!? そんなに凄い人だったんですか!? というか、宮廷魔術師を断るなんてもったいない……」
宮廷魔術師はその名の通り国に仕える魔法使いで、この国の魔法使いの中でも最上位の実力者だけがなれる職業だ。
名声は抜群で待遇も良いので、魔法学校に通う多くの生徒にとって憧れの職業らしい。
宮廷魔術師になるために他の都市からやってきて、魔法学校に入学する生徒も多いと聞く。
誘いを受けたのに断るなんて前代未聞じゃないだろうか。
「ははっ。俺もそう思うが、カナリスにはもっと大切なものがあったんだろうな。それに、アイツの二つ上の先輩にも宮廷魔術師の誘いを断った奴が居たらしい」
「えぇ……」
この国の魔法使いってどうなってるんだろう。
「それはそうと、お前もミレナのことを気にかけてくれてるんだな。ありがとな」
「いえ、俺は何の役にも立ててませんよ」
「俺も似たようなものさ。話し相手にはなれるが魔法の手伝いはできないからな」
ガルドはそう謙遜するが、彼がミレナの相談に乗っているところを何度も目にしている。なので、何もしていない俺よりはミレナの支えになっていると思う。
俺の心の声が聞こえたのか、ガルドが優しく笑いかけてくる。
「そんな顔をするな。お前は十分ミレナの役に立ってる。お前が気付いていないだけだ」
「……どういうことですか?」
ガルドの言葉の真意が分からず、彼に尋ねる。
「今まではミレナが新参で、一人だけ年下だった。アイツから見ると、俺らは目標ってところだと思う」
「……」
「だが、お前が入ってきたことで、ミレナにとってライバルと呼べる存在ができた。同い年で後から入ってきたお前が頑張ってるんだから、自分も負けられないと思ってるはずだ」
「ライバル……」
全く予想できない言葉が出てきて困惑する。
本当にそう思ってくれているのだろうか。そうだと良いな。
「お前が活躍するたびに気合の入った顔をしてるから、間違いないと思うぜ」
そうだったのか。ミレナは俺の後方にいることが多いから、彼女の表情の変化には気付かなかった。
ガルドも俺と同じく前衛にいるはずなのに、何で分かるんだろう。目が後ろにも付いているのかと思うほど、周りをよく見ている。
「だから、お前はお前の仕事をこなせばいい。それだけでミレナに良い刺激を与えているんだ。むしろ、これはお前にしかできない役割だ」
ガルドの言葉を聞いて、モヤモヤしたものがスッと晴れていく。本当に彼は凄い人だ。
「ありがとうございます。今の言葉で迷いが無くなりました」
俺の言葉を聞いて、ガルドはニカッと笑う。
「それは良かった。まあ、余裕があるときだけでも良いから、ミレナに話しかけてやりな。同い年同士、仲良くな」
「はい!」
そう言うと、俺たちはミレナとカナリスの方を向く。
普段は姉妹のような二人だが、今は師弟の顔になっていた。
ミレナが妨害魔法を練習し始めてから1か月以上経った。
残念ながらミレナの魔法はほとんど上達していない。なので、レオディスも時々苛立ちを見せるようになってきた。
彼がミレナに直接何かを言うことはないが、カナリスに進捗を尋ねる頻度が増えた。
それがミレナにとってプレッシャーになっているのか、最近の彼女からは焦りが感じられる。
今もレオディスとカナリスがミレナの方をチラチラ見ながら話している。
ミレナを魔法の面でサポートするのがカナリスなら、メンタル面でサポートするのが俺とガルドだ。
今はガルドがこの場にいないので、俺の出番だ。
ミレナに近付き、レオディスたちとは反対側からミレナに話しかける。
これでミレナがレオディスたちのやりとりを見ないで済めば良いが……。
「ミレナ、この間街で――」
俺の話を聞いてミレナが笑ってくれるが、俺は上手くやれているのだろうか。
それでも、今は俺にできる方法で彼女を支えるしかない。きっと身体強化魔法のようにコツを掴んで花開くはずだ。
その日の夕方。
久しぶりにクエストが早く終わったので、素振りをするために城門の外に向かう。
俺はいつも同じ場所で素振りしているが、他の冒険者に先に陣取られているのを見たことがない。城門から少し離れているからだろうか。
「ミレナはもう練習してるかな?」
気になったので前と同じように城壁の角を曲がった先をのぞき込む。すると、そこにはミレナ、カナリス、ガルドの三人が居た。どうやらミレナの練習に二人が付き合っているようだ。
ミレナが妨害魔法を放ち、それを見たカナリスとガルドが首をかしげる。今度はカナリスが魔法を放って手本を見せながら、ミレナにアドバイスを送る。
ガルドもたまに妨害魔法を受けてみて、その感想を言っている。……ってかガルド凄いな。
俺が行っても何もできなさそうだし、ミレナたちの手を止めてしまいそうだ。なので、声をかけずにいつもの場所に戻り、鍛錬に励むことにした。
「おう、グレイン。お前も頑張ってるな」
素振りを止めて休憩していると、背後からガルドが話しかけてくる。
「はい。早くみんなに追いつきたいので。それに、ミレナも頑張ってますから」
ガルドの方に振り返りながら答える。他の二人は来ていないので、まだ向こうで練習しているようだ。
俺の言葉を聞いて、ガルドが笑みをこぼす。
「お前たち二人とも大したもんだ。ミレナも同じことを言ってたぞ」
「ミレナが?」
俺は毎日来ているわけではないし、ミレナの方が先に来て後に帰っているから気付いていないと思っていた。
彼女も俺の姿を見てくれていたと知り、心が温かくなる。
「そういえば、ガルドたちもミレナがここで練習していることを知っていたんですね」
「ああ。ミレナはうちのパーティに入った直後からここで練習してるからな」
そんなに前からここで練習していたのか。それを知っているガルドも凄い。
「いやいや、そんな目で見るなって。ここだけの話、レオディスも知ってるからな?」
「えっ!? レオディスも?」
「アイツはアイツなりにミレナに期待してるんだよ。まあ、口が悪いのと、頭に血が上りやすいのが玉に瑕だがな。だからこそ、アイツがカッとなって一線を超えそうになったら、俺たちで止めないといけない。その時は手伝ってくれよ?」
ガルドがニカッと笑う。
その時が来ないことを祈るばかりだが、心の準備ぐらいはしておこうと思った。




