凪
盗賊討伐の翌日。
昨日、俺はカティア様を庇って盗賊からの攻撃を受けた。
幸い防具のおかげで一命は取り留めたし、リリアのおかげで傷も癒えているが、防具の方は攻撃を受けた部分がへこんでしまっている。
なので、今日はアッシュさんに防具のメンテナンスをお願いすることにした。
この防具は気に入っているから今後も使い続けたいが……。
「おはようございます。アッシュさん、居ますか?」
防具屋に入り、店主の名前を呼ぶ。
この店は路地にあって目立たないため、相変わらず他の客はいない。それでも陳列している防具が新しいものに代わっているので、買っていく人はいるようだ。
「おうグレイン、久しぶりだな。何か用か?」
アッシュさんが店の奥から出てくる。
「実は昨日、防具に攻撃を受けてへこんでしまったんです。見てもらえますか?」
俺は持ち込んだ防具を出しながらメンテナンスをお願いする。
「そうか……。じゃあちょっと確認してみるぜ」
「よろしくおねがいします」
アッシュさんは防具を持って店の奥にある工房に向かう。俺は店内の防具を見ながら待つことにした。
しばらくすると、アッシュさんは俺の防具を持って店の奥から出てきた。
「おう、調べたが問題なさそうだ。へこんだ部分は直しておいたぞ」
「ありがとうございます!」
アッシュさんから防具を受け取り、攻撃を受けた部分を見る。先ほどまでそこにあったへこみは無くなっている。
「凄い! どこがへこんでいたのか分からないぐらいです」
「それにしても、相当な衝撃だったみたいだな」
「はい。並の防具だったら死んでいたと思います。アッシュさんのおかげで助かりました」
俺はアッシュさんに頭を下げる。いくら感謝しても足りないぐらいだ。
「よせよ。照れるじゃねえか」
アッシュさんは顔を逸らしながら頬をかく。
……初対面の頃とはすっかり別人だな。
「そういえば、グレインは金属以外の材質の防具に興味あるか?」
「金属以外……ですか。軽くて丈夫な防具とかも作れますか?」
「作ってみないと分らんが、試してみるか。まあ気長に待っててくれ」
「ありがとうございます! 楽しみに待ってます!」
アッシュさんがどんな防具を作るのか、今から楽しみだ。
防具を直してもらった後、宿に戻る。
時間はちょうど昼ごろなので、宿の食堂で昼食を採ることにする。昼間は宿泊客の大半が出かけているようで、食堂は空いていた。
「あれ、グレインだ」
声のした方を見ると、リリアが昼食を食べていた。こちらに手を振っている。
俺は料理を受け取ると、リリアの向かいに座る。
「リリアが宿に居るとは思わなかったよ」
彼女は休みの日には街に出かけている印象だ。
「寝坊しちゃって、ついさっき起きたの。誰とも約束して無くて良かったー」
リリアは『てへっ』と小さく舌を出す。
「昨日の冒険で疲れちゃった、とか?」
「そうかもしれない。治療、頑張ったからね」
「その節は大変お世話になりました」
俺が芝居じみた態度でそう言うと、リリアは「くるしゅうない」と返す。
その様子が可笑しくて、二人でケラケラと笑う。
その後も二人で他愛ない話を続ける。話が落ち着いたところで、少し水を飲む。
すると、リリアが何かを言いたそうにしていることに気が付いた。
「リリア、何か話したいことでもあるの?」
リリアは少し迷ったような表情を見せた後、少し申し訳なさそうな顔を浮かべた。
「……グレインとミレナってどういう関係なの?」
リリアが遠慮がちに尋ねてくる。一瞬遅れて、その言葉を咀嚼する。
すると、先ほどまで穏やかだった俺の心が一転して大騒ぎになった。
「待って、リリア。違うんだ! 俺とミレナはまだそういう関係じゃない」
動揺した俺は、慌ててリリアの言葉を否定する。
「ごめん! そういう意味じゃないの!」
今度はリリアが目を丸くしてあたふたする。どうやら俺は勘違いしていたようだ。
「あたしが訊きたかったのは、二人はどんなきっかけでパーティを組むことになったのかってこと。まあ、『まだ』の部分も気になるけど、今は許してあげる」
「そういう意味だったのか。とりあえず今はパーティを組んだ経緯だけで許してほしい。そっちもいずれ話すからさ」
「分かった。約束だよ」
そう言うとリリアは引き下がる。ここで無理に訊いてこないところは彼女の美点の一つだ。
俺とミレナが元々王都で同じパーティに居たこと、色々あってパーティを抜けてこの街に移ってきたこと、ミレナと二人でパーティを組んだことをリリアに話す。
ミレナが前のパーティを追放されたことなど、彼女が知られたくないであろう内容は伏せておいた。
「俺たちがパーティを組むことになった経緯はこんなところかな。結構駆け足で話しちゃったけど、大丈夫?」
「うん! ありがとう。それにしてもグレインって優しいね」
ミレナを追いかけてパーティを抜けたことを言っているのだろうか。それは自分の恋心に従った結果だからなあ……。
「そうかな?」
「そうだよ。あたし、グレインのことを応援してるから!」
「ありがとう」
ミレナと仲の良いリリアが応援してくれるのは心強いし、自信が出てくる。
「応援ついでに忠告しとくね。ミレナって結構人気あるから、モタモタしてると誰かに取られちゃうよ」
「ええっ!?」
同じパーティに居るのに気が付かなかった。ミレナはかわいいし、魔法の才能もあるから無理もないか……。
「まあ、直接口説いてくる奴は居ないから、ミレナは気付いてなさそうだけどね。でも、ミレナが席を外した時、ミレナがフリーかどうかをあたしに尋ねてきた奴は何人か居たから、油断しないようにね」
「あ、ああ……」
まさかそんなに人気だとは。さすがにグイグイ行くことはできないが、のんびり構えることもできなさそうだ。
それでも、心のどこかで『大丈夫だろう』という慢心があった。




