パーティ脱退
翌朝。
冒険者ギルドに併設された居酒屋に到着する。ここは冒険者向けに朝から営業しているので、クエストを受ける前に利用する冒険者も多い。
ミレナとガルドはまだ来ていなかったので、飲み物だけ注文して待つことにした。
しばらくすると先にミレナがやって来た。目元を見ると隈ができていたが、泣き腫らした様子はない。
簡単に挨拶を交わした後、ミレナは俺の隣に座った。
「昨日はありがとう」
ミレナにかける言葉を探していると、彼女の方から声をかけてくれた。
「気にしないで。……仲間だから」
「うん。……ありがとう」
状況が状況だけに、言葉を間違わないか不安になる。一つ間違えば彼女が壊れてしまうような気がして……。
ミレナが来てから5分も経たないうちにガルドもやって来た。彼は、俺たちの席の前に立つと、席に着くもことなく頭を下げた。
「ミレナ、グレイン。本当に申し訳ない。レオディスを説得できなかった」
その後、何とかガルドに席についてもらい、詳しい話を聞いた。
昨日遅くまで3人で話し合ったが、レオディスが折れることはなかったという。
話がひと段落すると、ガルドが恐る恐る切り出す。
「なあ、ミレナはこれからどうするつもりだ?」
「私は……。一度、故郷に帰ろうと思います」
「そうか、故郷か。……いつ出立するつもりだ?」
「そうですね、明日の朝にでも」
「そうか。寂しくなるな」
「私もです。ガルドさん、グレイン、今まで本当にお世話になりました」
ミレナはそう言うと頭を下げる。しばらく頭を下げた後、ゆっくりと立ち上がり彼女は店を出ていった。
彼女の姿が見えなくなると、ガルドが話しかけてくる。
「グレイン、昨日はありがとな。それと、力になれなくて本当に申し訳ない」
「いえ、覚悟はできていましたから大丈夫です」
「で、お前はこれからどうするつもりだ? 必要ならレオディスには俺からうまく伝えておくが」
「いえ。自分で伝えます。……よく分かりましたね」
「お前ら分かりやすいからな」
そう。ガルドはパーティの仲間をよく見ているだけあって、俺とミレナの想いにも気付いている。
ただ、ガルドは故郷に残してきた想い人がいるので、ミレナの気持ちには答えられないそうだ。
このことは俺もミレナも人づてに聞いて知っている。ミレナはその話を聞いて酷くショックを受けていたし、今でも未練が残っているようだ。
恐らくミレナに出立日を聞いたのも俺のためだろう。本当にこの人には敵わない。
その日の午後、俺は冒険者ギルドに居た。レオディスに会うためだ。
この時間にレオディス、カナリス、ガルドの3人がギルドで合うことは、ガルドから聞いていた。
俺がギルドに着いてから10分ほど経つと、3人がギルドにやってきた。
挨拶を交わしてギルド内の席に座る。
俺はさっそく本題を切り出すことにした。椅子から立ち上がって深々と頭を下げ、レオディスに懇願する。
「レオディス、ミレナの件ですが考え直して貰えませんか。お願いします」
「グレイン。俺は考えを改めるつもりはない。もう決めたことだ」
「そうですか……。では、俺もこのパーティを抜けさせてください」
「グレイン君!?」
カナリスが目を丸くして驚いている。ガルドは腕を組んで目を閉じ、レオディスは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐ眉間にしわを寄せた。
「お前、本気で言っているのか」
「はい。本気です」
そう言って俺はレオディスの目を見つめる。レオディスはしばらく俺の目を見つめた後、目を閉じてふーっと大きく息を吐いた。
「そうか。分かった。残念だが仕方ない」
「レオディス!?」
さっきからカナリスが見たこともないリアクションをしている。常に冷静で落ち着いた大人の女性という印象だが、こんな反応もするんだな。
ガルドは相変わらず腕を組んで目を閉じたまま何度も小さく頷いている。心なしか「頑張れよ」と言ってくれている気がした。
3人にこれまでの感謝と別れの挨拶をして、ギルドを出る。
いつの間にか時刻は夕方になっていた。振り返ってしばらくの間、ぼんやりとギルドの看板を眺める。
寂しさとワクワクと開放感が混ざったような、これまでにない気分だった。




