盗賊討伐任務①
俺たちが輸送部隊護衛の依頼を終えてから半月ほどが過ぎた。
今日もダメ元で貴族からの依頼を確認している。
「うーん。相変わらずBランク以上の依頼だけだ」
「あれから毎日クエストばっかり。あたし、ちょっと飽きてきたかも」
「こらこら。リリア、そんなことを言っちゃダメだよ」
ゼフレンがリリアの発言を窘める。
「ま、まあ、今はランク上げと鍛錬の時期だと思うことにしよう、……ね?」
「ごめん。愚痴ってても何も変わらないし、二人の言う通りだね!」
ミレナの言う通り、今は鍛錬とクエストを頑張ろう。
「それにしても、相変わらず貴族の依頼は未開拓地の奥地の調査ばかりだ」
ゼフレンがぽつりと呟く。俺たちに話しかけたというより、思わず心の声が漏れた感じだ。
「あ! こっちには盗賊の調査依頼があるよ!」
俺たちもリリアが発見した依頼書を見る。条件はBランク以上だ。
「ザント団って最近街でも噂になっているよね」
レイヴェルクの東側に『ザント団』という大規模な盗賊の根城があるらしく、そこの調査依頼のようだ。
「この手の調査って正規軍とか貴族の私兵がやるイメージだけどなあ……」
「そうだよね。人手が足りてないのかな?」
俺がポツリとこぼした言葉にミレナが反応する。
依頼書をさらに読み進めると、前々からザント団はその場所を根城にしていたようだが、最近になって被害が多発しているらしい。
また、ザント団に呼応して、近隣の小規模な盗賊たちの動きも活発になっているらしい。
「東側は少し治安が悪くなっているみたいだね」
「街道は大丈夫だと思うけど、用心に越したことはないね」
俺たちはゼフレンの言葉に頷いた。
4人で相談して受けるクエストを決め、ギルドの窓口に向かう。
窓口には、顔見知りのお姉さんがいた。俺たちがDランクに昇格した時、一緒に喜んでくれたお姉さんだ。
「おはようございます。皆さん宛に依頼が来ていますが、お受けになりますか?」
お姉さんの言葉に、俺たちは顔を見合わせる。どうしてDランクの俺たち宛の依頼があるんだ?
その依頼を確認すると、依頼主はカティア様だった。
4人で話し合い、カティア様からの依頼を受けることにした。
依頼の内容については直接会って伝えたいとしか書かれていなかったので、この街にあるフェルドリッジ伯爵家の別邸に向かっている。
「依頼主がフェルドリッジ伯爵ではなくカティア様なのが気になるな……」
ゼフレンが顎に手を当てて呟く。俺も同意見だった。
「この件にフェルドリッジ伯爵は関与していないということだよね?」
リリアも首をかしげている。リリアはカティア様とすごく仲が良いので心配そうにしていた。
いろいろ考えているうちにフェルドリッジ伯爵家の別邸に到着する。すると、門扉の前に使用人が立っていた。
使用人は俺たちの身元を確認すると、応接室まで案内してくれる。
部屋の中に居たのは、カティア様とグラシアさんの二人だけだった。
使用人はカティア様に一礼すると部屋を出ていく。使用人が退室したのを確認し、カティア様が口を開いた。
「よく来たわね。歓迎するわ」
この場には俺たち6人しか居ないので、砕けた口調だ。カティア様が素の口調で話してくれることに嬉しさを感じる。
「カティア様、またお会いできて嬉しいです!」
リリアが目を輝かせ、本当に嬉しそうにしている。もしも彼女に動物のしっぽが生えていたなら、ものすごい勢いで左右に揺れているだろう。
「カティア様」
そんな中、グラシアさんが申し訳なさそうな顔でカティア様を呼ぶ。あまり時間に余裕がないのだろうか。
カティア様は『コホン』と一つ咳払いすると、真面目な表情でこちらを見据える。
「実は、あなたたちにお願いがあるの。わたくしと一緒に賊を討伐してくれないかしら」
「賊の討伐……ですか?」
混乱のあまり聞き返すことしかできなかった。他の3人は目を丸くして固まっている。
「レイヴェルクの東にザント団という盗賊がいることは知っているかしら?」
「はい。最近、動きが活発になっているんですよね」
「今、レイヴェルクの貴族たちはザント団の対応について話し合っている。もちろん、お父様もね」
そうか。だからこの場にフェルドリッジ伯爵がいないのか。
「わたくしの予想では、近いうちにレイヴェルクに居る貴族の私兵を中心とした討伐隊が編成されるでしょうね。でも、それじゃ遅い。今この瞬間にも呼応した盗賊たちによる被害が拡大している」
「それで賊の討伐……ですか。さすがに危険すぎませんか?」
カティア様が考え直すことは無いだろうと思いながらも問いかける。
「安心して。今回はザント団ではなく、呼応した小規模な盗賊が相手だから、敵の数は5人ほどよ。わたくしとグラシアもいるから余裕ね」
何故か自信満々なカティア様。その自信はいったいどこから来るのだろう。
グラシアさんが居るとはいえ、カティア様を護りながら戦うとなると苦戦しそうだ。
「俺たち以外の、私兵のみなさんや他の冒険者は居ないんですか?」
「今回はお父様にも内緒だから、私兵は出せないわ。あなたたち以外の冒険者を雇うなんて嫌だから、この6人だけよ。もしあなたたちが断るなら、グラシアと二人で行こうかしら」
ニヤリと笑うカティア様。ズルい言葉だ。そう言われると、俺たちは依頼を受けるしかなくなる。
俺は3人の仲間たちを見た。みんなは視線に気付くと、小さく頷いてくれる。
「わかりました。この依頼、お受けします」
その言葉を聞いて、カティア様は嬉しそうに微笑んだ。
俺たちは馬車に乗って街道を移動する。前回とは違い、街で借りた地味な馬車だ。
いくら小規模とはいえ、賊の討伐に馬車で向かうとは思わなかった。
「カティア様、やっぱり歩いて向かった方が良いのではありませんか?」
「心配ないわ。小規模な賊だから斥候なんて居ないだろうし、この馬車を見て討伐に来たと思う切れ者なら、そもそも賊になんてならないわ」
俺の質問にドヤ顔で答えるカティア様。言っていることは一理ある気もするが、危なっかしくて不安になる。
彼女から目を離さない方が良さそうだ。
レイヴェルクを出発してから2時間ほどで目的の村に到着する。カティア様によると、この村の近くに盗賊のアジトがあるらしい。
村で聞き込みを行い、アジトの場所を知っているという青年を発見する。
彼は中肉中背で、黄色いタオルを首にかけている。汗っかきなのか、しきりにタオルで顔の汗を拭いている。
俺たちはその青年に道案内をお願いし、アジトへ向かった。
「……そうですか。盗賊のリーダーはそんなに卑劣な男なのですね」
「はい。奴はずる賢くて腕も立つので、村の若者でも手に負えませんでした……」
案内中、青年は拳を震わせながら村の被害や盗賊たちについて教えてくれる。よほど強い恨みがあるようで、話の節々に攻撃的な言葉も混じる。
やがて、盗賊のアジトが見える位置に到着する。
「あれが盗賊のアジトです。あそこには5人の盗賊が住んでいます」
「道案内、感謝いたしますわ」
カティア様は青年に礼を言い、グラシアさんが道案内の謝礼を手渡す。青年は謝礼を恭しく受け取ると、村の方向へ走っていった。
盗賊のアジトは村から北へ歩いて20分ほどの場所にある、小さな小屋だった。
小屋の北側と西側には小さな森があり、南側と東側は見通しの良い平原になっている。
「全然隠れて住んでいる感じがしないですね……」
グラシアさんが呆れたように呟き、ミレナとリリアがうんうんと頷く。
「やっぱり大した相手ではなさそうね」
カティア様は勝利を確信しているように見える。
「カティア様、油断してはいけませんよ」
「分かっているわよ」
俺が注意すると、カティア様は口を尖らせて不満そうな顔をする。しかし、すぐに真剣な面持ちになる。
「さて、奴らに見つからないように前進するわよ」
俺たちはカティア様の言葉に頷くと、慎重に前進を開始した。




