護衛任務②
それからしばらくして、荷物の積み下ろしが終わった。結局、俺たちは最後まで積み下ろしを手伝った。
かわいい女の子二人が頑張って荷物を運ぶ姿は、この街の男性陣のやる気に火をつけたらしい。ミレナとリリアは『二人のおかげでかなり早く終わった』と感謝されている。
「グレイン君、お疲れ様。大活躍だったね」
「ゼフレンもお疲れ様。……大活躍? ゼフレンの方が多く運んでいたような気がしますが」
「いや、こちらの話だ。気にしないでくれ」
そう言われると逆に気になる。そのことについて尋ねようかと考えていると、横から声がかかる。
「ゼフレン、グレイン、お疲れ様です。このタオルを使ってください」
声の方を見ると、グラシアさんがタオルを俺たちに差し出してくれていた。
俺たちは『ありがとうございます』とお礼を言いながらタオルを受け取り、汗を拭う。
「あれ、このタオル、ひんやりしていて気持ちいいですね」
タオルはほどよく冷えていて、動いて汗ばんだ身体にはちょうど良い温度だった。しかも、水で濡らして冷やしたわけではないため、拭いた後も水気が残らない。
いったいどうやって冷やしたんだろう。
「お気付きになりましたか。実は私、氷魔法が得意なんです」
グラシアさんはくすっと笑うと、そう教えてくれる。
「ということは、水魔法も?」
ゼフレンがグラシアさんに尋ねる。
一般的に、氷魔法に秀でている人は水魔法も得意であることが多い。
氷魔法の多くは、空気中の水分を使用して氷を生成する。
水魔法によって空気中の水分を効率よく集めることで、氷魔法の効果を高めることができる。なので、強力な氷魔法を使うためには水魔法の習得が必須になる。
「はい。水魔法もそれなりに使えますよ。ほら」
そう言ってグラシアさんは右手を前に出し、掌を上に向ける。すると、すぐに彼女の掌の約10センチ上に、直径3センチほどの水の塊ができた。
水の塊はふわふわと形を変えながら、グラシアさんの掌の上で浮いている。
しばらくして、グラシアさんは誰もいない方に向けて手を差し出す。すると、水の塊は5メートルほど飛んでからバシャッと地面に落ちた。
俺とゼフレンは思わず拍手を送る。グラシアさんは頬を染めて恥ずかしがる。
「お願いですからやめてください。……それに、水魔法ならミレナちゃんの方が上手に扱えると思いますよ」
そういえば、ミレナが戦闘時以外に水魔法を使うところを見たことがない。今度お願いしてみようかな。
そんなことを考えていると、カティア様たちが戻ってきた。
「お嬢様が戻ってこられましたね。私たちも馬車に向かいましょうか」
俺とゼフレンはグラシアさんの言葉に頷くと、馬車に向かった。
カティア様が戻ってきたので、俺たちは馬車に乗ってレイヴェルクに向かって出発する。
帰りも行きと同じ並びで座る予定だったが、気付けばミレナとリリアが入れ替わっていた。
疑問に思った俺は、他の人に聞こえないように細心の注意を払いながら、リリアに尋ねる。
「リリア、ミレナと場所を入れ替わったんだね?」
「うん。ミレナが変わって欲しいって。……何かエッチなことでもした?」
そう言ってリリアがからかってくる。俺のことを何だと思っているのか。
「するわけないだろ」
「だよねー。ということは、そういうことなのかな……?」
リリアは何やら納得したような顔になる。
「何か分かったのか? 俺にも教えてくれないか?」
「内緒」
リリアはそう言うと、話は終わったと言わんばかりに前を向く。リリアが姿勢を変えたことで、ミレナがこちらを見ていたことに気付く。
ミレナは俺の視線に気付くと、慌てて前を向いてしまった。
何なんだ?
夕方になって、俺たちはレイヴェルクに帰ってきた。
帰りの道中も大きなトラブルは起きず、女性陣が和やかに会話する幸せなひとときだった。
輸送隊とは城門で別れ、馬車はフェルドリッジ伯爵家の別邸に到着する。
本来は俺たちも城門で馬車を降りる予定だった。しかし、カティア様が『屋敷までお話ししたい』と言ったので、俺たちも別邸まで同行した。
リリアはカティア様に気に入られたようで、『リリアのような妹がいれば』と言われるほどだった。
もっとも、年下のカティア様にそう言われたリリアは微妙そうな顔をしていたが。
俺たちが馬車を降りると、屋敷の玄関前にいたフェルドリッジ伯爵がこちらに向かって走ってくる。
「おお、カティア。よく戻った。遅かったではないか」
「お父様、みなさまが見てますわ。それに、予定より早く戻ったのですが……」
カティア様が呆れたように返事する。
昨日も感じたが、やっぱり伯爵ってカティア様のことを溺愛しているよな……。
伯爵はカティア様の言葉を受けて、俺たちの方を見渡す。
「うむ、大儀であった」
そして、顔を引き締めてそう言う。俺は突っ込みたくなるのを我慢する。
迂闊なことを言って伯爵の気分を害すると、どんな目に遭うか分からないからだ。
その後、俺たち4人は馬車でギルドまで送ってもらうことになった。なお、カティア様とグラシアさんとは屋敷で別れ、代わりに昨日の従者が同乗している。
「自己紹介がまだでしたね。私はエルドと申します」
全員が馬車に乗り込むと、エルドさんが自己紹介してくれた。俺たちもそれぞれ自己紹介を返す。
「本日はどうもありがとうございました。お嬢様はずいぶん楽しまれたようですね」
少ししてから、エルドさんは俺たちにそう言った。何と答えたら良いか分からなかったが、無難に返すことにした。
「こちらこそ、伯爵令嬢には大変よくしていただきました」
「また機会がございましたら、お嬢様と仲良くしてあげてください」
……エルドさんにはバレているんだろうな。そう思いつつも、本当のことは言えない。
改めて見るとエルドさんは老齢の男性で、伯爵家に長年仕えているのだろう。
カティア様は生まれた時から見てきた、それこそ孫のような存在なのかもしれない。
そう考えると昨日の見送りの際の言葉や、カティア様に対する観察力の鋭さについても納得がいく。
「こちらこそ。ぜひまたお会いしたいものです」
リリアが前のめりになってそう答える。その隣でミレナも頷いている。
その言葉を聞いたエルドさんは、ギルドに着くまでずっと嬉しそうだった。




