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好きな人がパーティを追放された  作者: myano


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13/30

フェルドリッジ伯爵家

 俺たちのパーティがDランクに昇格してからしばらく経った。

「Dランクになってもクエストばかりだね」

 リリアがしょんぼりとした様子で呟く。

「なかなかDランク以上が条件の依頼が少ないからね。仕方ない」

 ゼフレンが苦笑しつつ答える。彼の口調にはどこか諦めが混じっている。

「この街の貴族たち、みんな未開拓地の奥にしか興味がないの!?」

「野心家の貴族が多いからね」


 ゼフレンの言う通り、貴族たちは自身が――厳密には彼らが依頼した冒険者が――未開拓地の最奥部に、最初に到達したという名誉が欲しいのだ。

 また、お金に余裕のない貴族は、未開拓地の最奥部にあると噂される秘宝を手に入れて一攫千金を狙っている。


「というか、あたしたちも未開拓地の奥まで行けたら良いのになあ。ダメなのは知ってるけどさあ……」

「『安全のため』って言われると何も言えないよね。でも、Bランクになるまでは探索済みの場所にしか行けないなんて……」

 今度はミレナが落ち込んだ様子で答える。

「そんな規則、守ってないパーティもいるんじゃないの?」

「そうかもしれないけど、依頼時に堂々と規則を破れないからね」

 ゼフレンの言う通りだ。表立ってギルドにケンカを売る貴族は居ない。

 なので、最奥部を目指す貴族連中は、必然的にBランク以上のパーティに依頼することになる。


「この間はせっかく私たちでもOKな募集があったのにね」

 ミレナの言葉に記憶をたどる。数日前の募集だ。

「あの時はBランクのパーティも手を挙げちゃったからなあ……」

「複数のパーティが手を挙げたら貴族がどこに依頼するかを選べるんだよね?」

 リリアの言葉に頷く。

「うん。だけど、どのパーティでも報酬は同じになる。だったらランクの高いパーティを選ぶよね」

「まあ、それが普通だよね。あー、誰かあたしたちを名指ししてくれないかなあ……」

 リリアの声がむなしく響き渡る。その日も、Eランクの頃と同じようにクエストを受けることになった。



 数日後。今日は休養日だ。

 俺は防具屋に向かっていた。

 一昨日、宿屋に『防具が完成したからいつでも取りに来い』という、アッシュさんからの手紙が届いたのだ。

 昨日のうちにパーティのみんなに事情を話し、今日は休みにしてもらっていた。


「アッシュさんこんにちは。グレインです」

 アッシュさんの防具屋に入り、挨拶を交わす。

 店内は前回来た時から変わっていな……あ、兜が無くなっている。売れたのかな?

「おう、グレイン。頼まれてた防具だが、これでいいか?」

 そう言いながら、アッシュさんは腕と足の防具を出してくれる。

 どちらも洗練されたデザインで、早く着けてみたいという衝動に駆られる。俺はその衝動を抑えながら、アッシュさんに感謝を伝える。

「ありがとうございます。今すぐ身に着けたいぐらいです」

「よっぽど気に入ってくれたんだな。ありがとよ」

 アッシュさんに代金を聞いて、支払う。

「防具、ありがとうございました。また作って欲しい防具ができたら相談させてください」

「おう。いつでも来いよ」

 そう言葉を交わして俺は店を出る。明日の冒険が待ち遠しい。



 翌日。

 俺たち4人はいつものように貴族からの依頼が貼りだされた掲示板を見る。

 しかし、見る限りどれもBランク以上が条件だ。今日もいつも通りクエストを受けるかな。

「あ、これ……」

 諦めかけたその時、ミレナが何かに気付いたのか声を上げる。その声に反応してミレナの方を見ると、ミレナが1枚の依頼書を指差していた。

「どれどれ?」

 俺たちは依頼書の条件欄を確認する。そこには『Dランクパーティ限定』と書かれていた。

「Dランク限定? なんでわざわざ……」

 思わず声を漏らす。あえてDランク限定にする意味が理解できなかった。

 他の3人も首をひねっている。


「ここで条件について考えても仕方ない。とりあえず受けるかどうかを決めようか」

 やがて、ゼフレンがそう提案する。それもそうだ。今考えるべきはこの依頼を受けるかどうかだ。

 俺は、依頼の内容と報酬の欄を見る。依頼の内容は輸送隊の警備、報酬は……あまり良い方ではない。Dランク限定にした分、報酬を抑えているのかもしれない。


「輸送隊の警備か」

 俺はぽつりと呟く。この依頼書には詳細が載っていないため、地域や距離は不明である。

 とはいえ、Dランク以下のパーティは日帰りの任務しか受けられない規則なので、あまり遠くへは行かないはずだ。

 となると、行先はレイヴェルクの衛星都市のどこかだろうか。この周辺は比較的治安が良いので、あまり危険ではなさそうだ。受けても良いように感じる。


「私は、受けてみたいかな」

「うん、俺も受けてみたい」

 最初に意思を示したのはミレナだった。俺もそれに賛同する。

「あたしも受けてみたい! 貴族の人ってどんな感じなんだろう」

 リリアも乗り気のようだ。早くも貴族に会うことを楽しみにしている。

「僕はどちらかというと反対だったんだけど……。多数決で受けるに決定だね」

 ゼフレンは逆に乗り気ではなかったらしい。一応、ゼフレンの考えも聴いておきたいと思い、俺はゼフレンに問いかける。

「ゼフレンはどうして反対だったのか教えてもらえますか? 俺たちが見落としていることがあるかもしれないので……」

「大した理由じゃないんだ。単にDランク限定というところが引っかかっただけで……」

 やっぱりそこが気がかりだよな。せめてDランク限定の理由が分かればなあ。

 モヤモヤしたものを抱えながらも、俺たちはその依頼を受けることにした。



 ギルドで依頼を受けた俺たちは、依頼主の貴族の屋敷に来ていた。この屋敷の当主は、レイヴェルクの近郊に小さな領地を持っている貴族だ。

 本邸は領地にあるそうだが、普段はレイヴェルクにある別邸に住んでいるらしい。俺たちが呼び出されたのもレイヴェルクにある別邸だ。


「私はハインツ・グラントール、フェルドリッジ伯爵家の当主だ。レイヴェルクでは、侯爵閣下の補佐役を務めている。本日はよく来てくれた。さっそく本題についてだが――」

 そこまで言うと、伯爵は一歩下がって控えていた従者の男に目配せする。

 従者は軽く一礼すると、前に出て話し始める。


「閣下に代わり、(わたくし)がご説明いたします。明日の早朝、この街からフェルドリッジ領に物資を輸送します。その後、フェルドリッジ領で別の物資を積んでこの街に輸送します。皆様には、輸送隊がこの街を出てから戻るまでの間、護衛をお願いしたいのです」

 そこで従者は話を止めて、伯爵の方を見る。伯爵が頷くと、従者はまたこちらを向いて話を再開した。

「なお、輸送隊の護衛には当家の私兵も同行いたします。また、閣下の名代として、当家のご息女も同行なされます」

 従者がそう言うと部屋の入口の扉が開き、少女が入ってくる。

 思わず息を呑むような、気品を感じる少女だった。

 真珠のような肌に意志の強そうな碧眼。

 光り輝く金色の髪をツインテールにまとめている。

 背筋をすっと伸ばした立ち姿は、それだけで周囲の視線を奪う。

 噂では15歳と聞いたことがあるが、もう少し大人びて見える。


「こちらにおわしますのは、フェルドリッジ伯爵家のご息女、カティアお嬢様でいらっしゃいます」

 従者による紹介を受け、カティアお嬢様は軽く一礼する。

「フェルドリッジ伯爵家のカティアと申します。此度(こたび)は父の名代として同行いたします。どうぞよろしくお願いいたします」

 俺たちも頭を下げる。

「恐れながら、フェルドリッジ伯爵令嬢。我ら、全力をもってご依頼を完遂させていただきます」

 俺がパーティを代表して言葉を発する。緊張で声が震えないように必死だった。

「娘をよろしく頼む」

 伯爵は黙って様子を見守っていたが、最後に一言だけ告げた。

 その表情は父親の顔だった。



 従者とともに屋敷から出る。少し緊張が解けたが、まだ従者の前なので気を抜いてはいけない。

「では、明日の夜明け前に東城門の前にお越しください。開門とともに出発しますので、くれぐれも遅れませんよう」

「かしこまりました」


 従者は主の前ではないというのに、俺たちに対する態度を崩さない。

 王都には、主人の目が届かなくなった途端に、ぞんざいな態度をとってくる従者も多かったのだが。

(わたくし)からも、お嬢様のことをどうぞよろしくお願いいたします」

 従者のその言葉に、俺たちは慌てて頭を下げる。とっさのことで驚きながらも、俺は何とか言葉を返す。

「微力ではございますが、伯爵令嬢をお守りできるよう、精一杯務めさせていただきます」

 その言葉に、従者は少し安心したような顔になった。


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