Dランク昇格
緊急クエストの数日後。俺たちはクエストを終え、結果を報告していた。
パーティが4人になってからは毎日のようにクエストを受けているので、窓口のお姉さんともすっかり顔なじみになった。
今日のお姉さんは、いつもより嬉しそうに見える。
「今日もクエストお疲れ様です。確認が完了しました。皆様のパーティですが、既定の回数クエストを達成されましたので、Dランクに昇格となります。本当におめでとうございます!」
お姉さんは自分の事のように喜んでくれる。
俺たちは興奮のあまり、互いにハイタッチを交わす。
ミレナは勢い余って窓口のお姉さんともハイタッチを交わしている。あ、我に返って恥ずかしがってる。かわいい。
しかし、この街に来てから立ち上げたパーティが無事Dランクに昇格か……。
ミレナもいるし、頼りになる仲間も増えた。感慨深いな。
俺が感慨に浸っていると、お姉さんがDランクパーティの説明をしてくれる。
「Dランクパーティでは、掲示板に貼り出されたクエストのうち、条件がDランク以上と書かれたクエストを受ける事ができるようになります。まあ、これはEランクの時と同じ要領ですね」
そう。ここまではEランクとそれほど変わらないのだが……。
「また、Dランクからは貴族の皆様からのご依頼を受ける事ができるようになります。流れとしましては、貴族の皆様が条件を指定して依頼を出し、それを冒険者が受けるという形になります。ランクが上がると、名指しで依頼される場合もあります」
前のパーティはAランクだったので、何度か名指しの依頼を受けたこともあった。だけど今はDランクなので、まず無いだろう。
「注意点ですが、ギルドを介さずに貴族の依頼を受けるのはご遠慮ください。もし発覚した場合、回数や内容によりますが、パーティランクの降格や冒険者カードのはく奪など、厳しい処分が科されます。……これも皆様をお守りするためですので、どうかご理解のほどよろしくお願いします」
お姉さんは申し訳なさそうな顔をしながらそう言うと、深く頭を下げる。
これは過去に貴族の甘言に乗せられて悪事に加担したパーティや、報酬支払いのトラブルに巻き込まれたパーティがいたから出来たルールだと聞いたことがある。
とにかく、冒険者カードをはく奪されてしまうと冒険者として生きていけなくなるので、このルールは守らなければならない。
「かんぱーい!」
4人の声が揃い、木製のジョッキがぶつかり合う。
ジョッキをぐっとあおると、みずみずしいぶどうの風味と甘酸っぱい味わいが口いっぱいに広がる。
Dランク昇格を記念してパーティの全員で一緒に食事をすることになり、俺たちは近くの食堂に移動した。
この店は少し値が張るが、美味しいと評判だ。宿屋街から少し距離があるのだが……。
ジョッキの中身はもちろんお酒……ではなく、ぶどうジュースだ。
ガルドに『20歳を超える前にお酒を飲むとパーになる』と口酸っぱく言われてきた俺とミレナは、迷うことなくぶどうジュースを選んだ。
リリアはその話を聴いて、顔面蒼白になりながらぶどうジュースを選択。ゼフレンも『それなら僕も』とぶどうジュースにした。
「おまたせいたしました」
店員さんが野菜と鶏肉に香辛料を絡めて焼いた料理を持ってきてくれる。
パチパチと鶏の油が弾ける音と香辛料のスパイシーな香りに、食欲が刺激される。
「あっ、この料理美味しいよ!」
その料理を一口食べると、リリアの顔がぱっと華やぐ。
「私も。……あ、本当だ。おいしい」
リリアの言葉を聞いて、ミレナが同じものを食べる。すると、まるで花が咲いたような笑顔になった。
俺も一口食べてみる。うん、おいしい。
素材の味を活かしつつ、コショウのピリッとした辛みが良いアクセントになっている。
野菜も鶏肉も新鮮なものを使っているのが分かる。鶏肉の程よい弾力と野菜のシャキシャキとした食感がたまらない。
安い食堂では塩漬けや燻製にした鶏肉を使うことが多いが、この店はおそらく生の鶏肉を使っているのだろう。
生の鶏肉は日持ちしないため、冒険に持っていくことができない。肉を持っていくとすれば干し肉だ。
なので、柔らかい肉を食べられるのは街の食堂ならではだ。
野菜に至っては、基本的に持っていけない。一応、野菜を乾燥させて持っていくという手もあるが、取り扱っている店がほとんど無いため、非常に高価だ。
王都に居た頃は、野営地周辺の街で購入することもあったが、未開拓地ではそれもできないだろう。
なので、街の食堂で新鮮な食材を使った料理を食べるのは、冒険者にとって至福のひとときなのだ。
しかも、好きな人や信頼できる仲間たちと一緒に卓を囲めるのだから、本当に幸せだと思う。料理も一層美味しく感じる。
「あたし、次はこれが食べたい。みんなは何か追加する?」
「じゃあ僕も同じものを注文しようかな」
「私はこっちにするね」
「じゃあ俺は……うん、これにしよう」
こうして、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
食事を終え、宿への帰り道を4人で歩く。
この時間に街を歩いている人はまばらで、ほとんどは俺たちのように街まで食事に出ていた人たちだ。
彼らは美味しいものを食べたり、お酒を飲んだりした後なのだろう。みな幸せそうな顔をして歩いている。
俺たちも周りから同じように思われているのかな。
「あの店、美味しかったね。あたしお腹いっぱい」
「俺もお腹いっぱいだ。ちょっと食べすぎたかも」
「あたしの回復魔法は食べすぎには効果がないから我慢してね」
「逆に効いたら怖いよ」
それはもはや回復魔法ではないだろう。
ふと、ミレナの方に顔を向ける。
ミレナは俺とリリアの会話の様子を見ていたようで、彼女と目が合う。ミレナはきょとんとした顔で小首をかしげる。
「えっと、ミレナも楽しめた?」
「うん、楽しかったよ。料理も美味しかったし」
「それは良かった」
ミレナも同じ気持ちだったことを知って心が温かくなる。
そんな風にお互いに感想を言い合ったりしているうちに、俺たちは十字路に到着する。
「あっ……」
ミレナが切なげな声を漏らす。ミレナが泊まっている宿は、この道を左に曲がった先にある。一方、俺たちが泊まっている宿は右側だ。
だから、ミレナとはここで別れることになるのだが……。
「ゼフレン、俺はミレナを送ってから宿に戻るから、リリアのことはお願いします」
「えっ?」
ミレナの悲しそうな顔を見ると、ここで彼女を一人にすることはできなかった。ミレナは俺の言葉に戸惑っている様子だ。
「そうだね。夜道は危ないし、グレイン君にお願いしようかな。リリアのことは任せて」
「お兄ちゃん、ぽっ」
ゼフレンは俺の言葉に賛同してくれる。リリアは……多分ゼフレンの言葉にキュンと来たんだろう。と言うか『ぽっ』って……。
「わかった。グレイン、よろしくね」
「うん!」
ゼフレンたちと別れてミレナと二人で並んで歩く。何か言うべきかと迷っていると、ミレナが先に口を開いた。
「グレイン、送ってくれてありがとう」
「いえいえ。ゼフレンが言ってたとおり、夜道は危ないからね」
「……」
心なしか、ミレナの目が『本当にそれだけか』と問いかけてきているように感じる。
だが、『ミレナが寂しそうだったから』なんて言うわけにはいかないので、慌てて話題を変える。
「ミレナは今日、楽しかった?」
「ふふっ。それ、さっきも聞いたよ? ……そういえば、みんなでこうやってご飯食べたのって初めてかな?」
「そういえばそうだね」
パーティの4人で一緒に食事を採ったのはお試しでパーティを組んだ時だけで、正式に二人が加入してからは今日が初めてだ。
ゼフレンたちがパーティに加わった時に歓迎会を行わなかったことを、今更ながら悔いる。
「またみんなでご飯を食べに行きたいね。次はCランクになったらかなぁ。うーん、待ち遠しい」
「何かの記念じゃなくても、食べに行きたいときに行けばいいんじゃないかな。ミレナが誘ってくれたら、俺も二人も喜んで参加するよ」
「そっか! その手があった!」
そう言って、ミレナは無邪気に笑った。




