重戦士
数日後の休養日。
クエストの報酬によって少しだけ装備を買うお金が貯まった。
無闇に装備を買うとお金がいくらあっても足りないので、今回はしっかりと考えてから買うことにする。前回からその思考に至っていればなあ……。
最近の戦闘や仲間との会話を思い出してみる。
まず、魔法使いはダメだ。ミレナたちの話によると、俺には魔法の才能が無いらしい。
魔法の才能があれば『敵の真ん中でミレナと互いに背中を預け合って、魔法で無双する』というロマンのある戦い方ができるのに。
まあ、ミレナを危険に晒すことになるから、実際にはやらないだろうけど。
弓使いは後回しかな。今とは戦い方が大きく変わる上に、ゼフレンさんによると習得にかなり時間がかかるようだ。
なので、他の役職の適性を試してからの方が良いだろう。
「弓矢で後方から支援するのもいいと思ったんだけどな」
他に候補があるとすれば……。
「残るは重戦士か」
重戦士。頑丈な鎧を身に着けて行動し、相手の攻撃を防ぎながら近距離攻撃を行う前衛職。人によっては兜や盾を身に着けるという。
武器は斧やハンマーを持つ人が多いらしいが、片手剣や大剣で戦う人もいる。
片手剣なら慣れた武器なので扱いやすい。攻撃力の上積みが期待できないのが気がかりだが……。
大剣でも戦闘スタイルを多少流用できるかもしれない。武器の質量が増せば、その分攻撃力が上がると思われる。
もちろん、扱えなければ意味はないが……。
重戦士は、防具による防御力を活かしてパーティの壁役を担当することも多い。
うちのパーティでは、ミレナとゼフレンが攻撃力に秀でている。しかし、二人とも防御力は高くない。
俺が壁役になれれば、二人の攻撃力をさらに活かすことができると思う。
今後、クエストの難易度が上がって強力な敵と戦うことになる場合、俺が壁役になる意味は大きいと思う。
「よし」
俺は重戦士を目指すことを決め、装備を買いに街へ向かった。
さて、装備を買うとは言ったものの、すべての装備を揃えるにはまだまだお金が足りない。
なので、少しずつ装備を揃えていくことにする。まずは胴部分の防具だろうか。
「こんにちは、グレイン君。買い物かな?」
防具屋の近くで後ろから声をかけられる。振り返ると、そこにはゼフレンがいた。
「こんにちは。防具を買おうかと思いまして」
「防具?」
俺はゼフレンに重戦士を目指そうと考えていること、今日は防具の一部を買いに来たことを説明する。
「なるほど、重戦士か。装備が重くなるから探索や移動がかなり大変になるだろうけれど、それでも構わないのか?」
「はい。覚悟の上です」
「そうか。それで今日は胴部分の装備を買いに来たんだね。もし良ければ僕も同行させてもらえないか?」
「ぜひ! ゼフレンのおすすめの装備について教えてもらえると嬉しいです」
「いいよ。じゃあ行こうか」
こうして、俺たちは防具屋を巡り始めた。
俺たちが防具屋を巡り始めて数時間が経った。
一概に防具屋といっても、職人によって腕の良し悪しがある。
また、職人ごとに得意な部位は異なり、胴部専門の職人から脚部が得意な職人まで様々だ。
なので、ほとんどの冒険者は部位ごとに違う店の防具を購入するらしい。
また、革の加工が得意な職人、金属が得意な職人など、素材についても得意不得意があるようだ。とはいえ、考えることが多くて混乱してしまう。
結局、評判の良い店を全て回ったが、しっくりくるものが無かった。
「今日は本当にありがとうございました。一緒に来てもらったのに決められなくてすみません」
「気にしなくていいよ。無理に決めるのが一番良くないから」
ゼフレンに感謝を伝えると、彼と別れて帰路に就く。ゼフレンは街に残って武器屋を見に行くようだ。
「今日は良い防具が見つからなかったな……」
肩を落として大通りを歩く。本当は今日中に買って、明日から試したかったので残念だ。
「ん? あそこにも防具屋があるのか」
ふと、大通り沿いの路地にひっそりと防具屋の看板が出ていることに気付く。ゼフレンとは大通りにある店を中心に見ていたので気付かなかった。
俺は誘われるように店に向かう。
「こんな場所にある店だから期待できないけど、最後にここだけ覗いてみるか」
ダメ元でその店に入る。俺以外に客はいないようだ。
店はそれほど広くなかった。売り場はおよそ5m四方ぐらい。大通りの店は小さい店でも15m四方はあったので、非常に狭く感じる。
入り口の正面にカウンターがあり、その奥では職人の男が防具を作っている。あれは恐らく前腕部の防具だろう。
職人の男はこちらに気付いて一瞥するが、何も言わずに作業に戻った。無愛想な男だ。
俺は店内を見渡す。すると、異常なほど商品が少ないことに気付く。
「兜が一つ、フルプレートアーマーが一つ、胴部の防具が二つか」
商品の少なさに気付くと、先程まで手狭だと思っていた店内が急にがらんとしているように感じられる。
どの防具も余計な装飾がなく地味な見た目だ。だが、俺はその洗練されたデザインに心を奪われていた。
胴部の防具のうち、頑丈そうな方を手に取ってみる。見た目通りずっしりと重い。
「結構重いな。だが、やっぱり凄くいい品だ」
具体的にどこがどう良いのかは説明できないが、本能が良いものだと訴えかけてくる。そんな逸品だった。もしかしたら一目惚れというやつかもしれない。
大きさも問題なさそうだし、購入しようと思って値札を見る。若干予算オーバーだが、手持ちのお金で足りる。
「よし、買おう。すみませーん!」
店の奥にいる店主を呼ぶと、彼は作業の手を止めてこちらにやってくる。
「はい。どうしたんだ?」
「この防具を頂けますか?」
俺がそう言うと、店主は一瞬驚いたような顔をする。しかし、すぐに元の表情に戻って値段を伝えてくる。俺は財布からお金を取り出すと、店主に手渡す。
「まいどあり」
何となく店主の雰囲気が和らいだ気がするので、気になったことを訊いてみる。
「すみません。どうしてこの店は売り物が少ないんですか?」
「オレは自分の納得するものしか売らない主義なんだ。だから、気に入らない所があれば何度でも手直しする。その分だけ一つ仕上げるのに時間がかかる」
なるほど、それだけ魂を込めて防具を作っているのか。
俺は売り場に置かれているフルプレートアーマーを一瞥する。腕や足の部分も洗練されており、店主の鍛冶師としての実力を示している。
実は、この街で一番腕の良い職人なのかもしれない。
「すみません、お願いがあるのですが」
「何だ?」
「俺は重戦士を目指してまして、他に腕と足の防具も買いたいんです。なので、こちらで作ってもらえないでしょうか。今はお金が足りませんが、またお金が貯まったら買いに来ますので」
店主は俺の話を聴くと、腕を組んで瞑目する。
「アッシュだ」
「えっ?」
「オレの名前だ。アッシュと言う。お前の名前は?」
「グレインです」
「そうか。グレイン、お前のその依頼を受けよう。どうせ作るのに時間がかかるから、こっちの事は気にせずにゆっくり稼いで来い」
「アッシュさん! ありがとうございます!」
これで、防具の目途が立った。後はしっかりお金を貯めないと。
翌朝。
俺はさっそく購入した防具を身に着けて宿を出る。サイズは問題なし。少し重さを感じるが、慣れれば平気だろう。
戦闘時の機動性や着続けた時の疲労感についてはこれから分かってくるだろう。
俺はこぶしを握り、少し強めに防具を叩いてみる。
前の防具だとそれでも軽い衝撃を感じたが、この防具は『コンコン』と鳴るだけで、全く衝撃を感じない。
「ふふっ」
俺は弾む足取りでギルドに向かうのだった。
「おはよう、グレイン。あれ? 防具が変わってる?」
「おはよう、ミレナ。昨日買ったんだ。前の防具よりちょっと重くなったけど、その分頑丈になったよ」
「そうなんだね。すごくかっこいいと思う。その防具」
「あ、ありがとう」
ミレナの口から出た『かっこいい』という言葉に胸が締め付けられ、思わず返事がぎこちなくなる。
もちろん俺自身が褒められたのではないが、それでも口元が緩みそうになる。
必死に『ミレナに他意はない』と自分に言い聞かせていると、ゼフレンとリリアがやってきた。互いに挨拶を済ませた後、ゼフレンが俺の防具に気付く。
「グレイン君、いい防具に出会えたみたいだね。本当に良かった」
ゼフレンの言葉を聞いて、リリアも俺の防具を見る。
「ホントだ。防具が変わってる。私もいいと思うよ」
「二人ともありがとう」
その後、俺たちはクエストを受けて未開拓地へ出発する。
今日は森の中に居る小型モンスターの討伐だ。このクエストは戦闘と移動のバランスが良い。
小型モンスターは群れで行動することが多いが、一匹当たりの脅威は大きくない。
なので、武器や防具を新調したメンバーがいる場合、小型モンスターの討伐クエストで感覚を確かめることが多い。
一般的にはレイヴェルク周辺の討伐クエストを受ける事が多いが、それだと戦闘がメインになる。
俺としては戦闘だけでなく移動時の感覚も確かめたいので、今回のクエストは凄くありがたい。
さて、森の中を歩き始めて2時間ほど経っただろうか。
これまでに数回戦闘を行ったが、意外と動けるという印象だ。
もっとも、腕と足にも防具を付ける予定なので、最終的にはもう少し機動力が落ちるだろうが……。
身体の疲労感は以前の防具とあまり変わらない。ただ、疲労は毎日蓄積していくので、もう少し長い目で見て判断したいところだ。
そして、肝心の防御力についてだが、分からない。
小型のモンスターとはいえ、あえて攻撃を受けるのはリスクがあるため、試せないのだ。
リリアは回復魔法を使えるが、それはあくまで対象の自然治癒力を上げて回復させるものだ。
もし運悪く手足が飛んだり死んでしまったりすると、リリアでも治すことができなくなる。
アッシュさんによると『中級モンスターの攻撃ぐらいなら余裕』とのことなので、今回はその言葉を信じることにする。
「……」
「あれ、ミレナ。どうかしたの?」
移動中、後ろでリリアがミレナに話しかけている。俺は索敵のため先頭を歩いているので、振り向かずに聞き耳を立てる。
「今日はモンスターが多い気がして」
「そうかな? あたしはいつもと変わらない気がするけど……。お兄ちゃんはどう思う?」
「僕も変わらないと思う。ただ、今日は小さい群れが多い気がする」
「小さい群れですか?」
「うん。小さい群れによく会うから、モンスターが多いように感じるんだと思う」
「なるほど。そうかもしれませんね」
ゼフレンの推測を聴いて、ミレナは納得したようだ。
しかし、違和感があるということは何かが起こる前触れかもしれない。そう思って一層気を引き締めるのだった。




