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好きな人がパーティを追放された  作者: myano


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1/8

プロローグ

 ここは王都の冒険者ギルドに併設された居酒屋。

 この日もクエストを終えた冒険者たちで賑わっている。

 互いを労いながら食事をする者、報酬を分け合う者、冒険譚を語り合う者と様々であるが、皆一様に明るく盛り上がっている。

 そんな居酒屋の隅のテーブルで、ピリピリとした雰囲気を漂わせて静まり返っているパーティが一組。残念ながら、俺が所属するパーティだ。


 俺の名前はグレイン。冒険者になって2年目の17歳。

 このパーティに入って1年近く経つが、俺が一番の新入りだ。

 パーティでは主に索敵(さくてき)や攻撃を担当している。攻撃といってもメイン火力は他にいるので、雑魚狩りぐらいしか出番がない。

 体幹には自信があるがそれ以外が平凡であるため、攻撃力が人並みなのだ。悲しい。


「さて、今日の反省会を始めようか。今日のクエストについてだが――」

 と、この場を仕切り始めたのはレオディス。このパーティのリーダーだ。

 俺より少し年上の赤髪のやや大柄な剣士で、このパーティのメイン火力の一人。近接戦闘においてはパーティで最も強い。

 と同時に、発言力も強い。というより、ウチのパーティでは彼の言うことは絶対である。

 ウチのパーティではクエストから帰還すると、その日の内に反省会を行う習慣がある。

 レオディス(いわ)く『日を改めてしまうと効果が薄れる』との事であるが、彼の機嫌を損ねてしまった日は最悪だ。彼の機嫌が直るまで文句と説教を聞く羽目になる。

 残念ながら今日はレオディスの機嫌が悪い日だ。パーティの皆もそれが分かっているから余計な口を挟まない。

 反省会自体はパーティ結成の頃からの習慣らしく、うちのパーティがAランクになれたのはこの反省会で活発に意見交換をしてきたからとのこと。

 もっとも、俺が加入した時にはレオディスがほかのメンバーに不満をぶつける会になってしまっていたが。


「――」

 レオディスのお気持ち表明はまだ続いている。俺はチラリとレオディスの隣に座る女性を見た。

 彼女はカナリス。凛とした美しさをもつ女性だ。

 彼女のトレードマークでもある黒髪のロングヘアは、クエストの後だというのにいつも通りサラサラと艶めいている。

 身長は女性の平均よりやや高いぐらいだろうか。

 パーティでは魔法攻撃を担当している。彼女の放つ炎属性の魔法は強力で、うちのパーティのメイン火力その2である。

 レオディスとは同い年で10年来の仲らしい。数年前の誕生日に彼から買ってもらったという魔除けの指輪――ちなみに、他意はなかったようだ――を肌身離さず着けている。はよ結婚しろ。

 カナリスはこちらの視線に気が付いたのか、チラリとこちらを見る。しかし、目が合うとすぐに苦笑して首を振った。今日のレオディスは彼女にも手が付けられないようだ。


 ならば、と横目で隣に座る金髪の男を見る。

 彼の名はガルド。このパーティで最も大柄な男で、壁役を務めている。

 見た目は厳ついが料理上手で、クエスト中の食事は彼が中心になって作っている。俺も手伝いながら料理を教えて貰っているが、遠く及ばない。

 また、レオディスに絞られた仲間のメンタルケアを欠かさず、相談にも嫌な顔一つせずに乗ってくれる、誰よりも仲間思いのナイスガイだ。

 彼もレオディスと同い年で、パーティ結成時からの付き合いらしい。

 ガルドは何かあったら止めに入るだろうが、今はまだ動く様子はない。


 そしてもう一人のメンバーがミレナという少女だ。

 顔立ちはどちらかというと可愛い系で目鼻立ちが整っており、肌も透き通るように美しい。

 髪は茶髪のミディアムショートで、彼女によく似合っている。

 身長は150cmほどでモデル体型。足もすらっと長くて美しい。惜しいかな、普段はローブを着ているので見ることはできないが……。

 可愛い系の顔立ちも相まって少し年下に見えるが、俺と同じ17歳で子ども扱いすると怒る(二敗)。

 彼女も魔法使いだが、支援と回復を担当している。ただ、魔法の能力はそこまで高くないようで、レオディスは彼女に対して不満を抱いている。

 ウチのパーティには俺より1カ月ほど早く加入したそうだ。

 彼女は約1年ずっと頑張って魔法を練習しているし、それはパーティのみんなが知っていることだ。しかし、あまり上達していないためレオディスは痺れを切らせており、ミレナに対する当たりも強い。


「今日のクエストは難易度の高いものではなかった。他のパーティなら遅くとも夕方には街に帰って来られただろう。だが、俺たちが街に戻ったのは門限の直前だった。俺はミレナが役に立っていないのが原因だと考えている。いや、今日だけの話ではない。ミレナがこのパーティに来てからというもの、まったく成長を感じられない」

 ミレナは顔面蒼白で俯いてしまっているが、レオディスは止まらない。

 最近、レオディスの機嫌が悪い日はいつも矛先がミレナに向いている。だが、何故か今日は嫌な予感がする。

 このままいくと取り返しのつかないことが起きる予感が。


「おい、レオディス。これ以上は――」

 俺と同じく何かを感じたのか、ガルドがレオディスを止めるべく口を挟む。だが、レオディスはガルドを制止するとミレナに向かって言い放つ。

「ミレナ。お前はウチのパーティには必要ない。今日この時をもってお前をパーティから追放する」


 瞬間、頭が真っ白になった。何も考えることが出来なくなり、声も出せない。

 レオディスの言った言葉の意味が理解できない。脳が理解を拒んでいた。

 何故ミレナが? 何で? 嫌だ、嫌だ、いやだ。


「――っ」

 俺たちの中で最初に動いたのはミレナだった。ミレナは即座に立ち上がると店の外に向かって駆け出した。そして、そのまま闇夜の中に消えていった。

 一瞬見えた、目にいっぱいの涙を溜めた彼女の顔が頭から離れない。


「グレイン! ミレナを追え!」

 その言葉にハッとする。ガルドだ。

 俺は弾かれたように立ち上がると、店の外に向かって走る。

「今日は解散だ。こっちは俺とカナリスが何とかするから、ミレナを頼む」

 店を出る瞬間、聞こえてきたガルドの声に振り向くことなく右手を挙げた。



 彼女を探している時間は永遠にも感じられた。

 探し回る間、ずっとミレナの事が脳裏に浮かんでは消えていく。ミレナの笑顔、怒った顔、そしてさっきの泣き出しそうな顔。

 今この瞬間、街のどこかでミレナが一人で泣いているかと思うと心が締め付けられる。

 早く見つけてあげたい。さすがに抱きしめることは出来ないけれど、せめて隣にいてあげたい。彼女を独りにしたくない。

 ああそうだ。認めるとも。俺はミレナの事が好きだ。たとえ世界を敵に回してでもミレナだけは護りたい。

 ――パーティを抜けることになっても。


 しばらく走り続けていると、路地の方から小さな泣き声が聞こえるのに気付く。

 聞いたことのない泣き声なのに、不思議とミレナに違いないという直感があった。俺は泣き声の方にゆっくりと近付いて行く。

 泣き声の主は俺の足音に気付くとビクッと反応し、泣き声を抑える。そして、消え入るような、それでいてどこか安らいだ声で尋ねてくる。

「ガルド……さん?」

「――っ。悪い、グレインだ」

「――グレイン。ごめんなさい。来てくれてありがとう」


 ああ。知っているとも。ミレナが密かにガルドに想いを寄せていることぐらい、彼女を目で追っているうちに嫌というほど理解させられた。ミレナが俺の事をただのパーティ仲間としか思っていないことも。

 だが、俺はそれでも良かったのだ。例えミレナの一番になれなくても、パーティ仲間として彼女を護り続けることはできる。

 彼女がガルドと結ばれるか、彼女の恋が終わるまで俺が恋心を隠し続ければ全て上手くいくと思っていた。……つい先程まで。

 ミレナに俺の恋心が露見しないよう、努めて感情を殺して彼女と話す。


「無理、していないか」

「無理? 何のこと」

「辛ければ思い切り泣いた方が良いと思う。その方がスッキリするはず」

「私、泣いてないもん」

「そうか」

 ダメだ。まだミレナに無理をさせてしまっている。しかし俺にはこれ以上掛ける言葉が見当たらず、二人とも黙ってしまう。

 薄暗がりの中、何となく気まずい時間が流れる。

 しばらくして、ミレナが沈黙を破る。


「さ、帰ろっか」

「今日はもう解散らしい。明日の朝、ガルドに会ってみよう。もしかしたらレオディスを説得してくれたかもしれない」

「うん。そうだね」

 ミレナを元気付けたい一心で精一杯の希望的観測を口にする。しかし、ミレナから返ってきたのは空々しい言葉だった。


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