水上流奈 決意
第1章、8話。
一人のアイドルが選択したこととは……。
「おい、流奈」
メンバー五人が住む寮、もといアパートの一階の階段まで茜はついてきた。
「……流奈! 無視すんな、いい加減こっち向けよ」
それでようやく流奈は振り向いた。
「あんたの言いたいことはわかった。これからしようとしてることもさ」
ため息をついてから茜が言った。
とうとう話してしまったのだ。流奈の体質、ライブで聞いたもの。そして、観客席にいた黒いもやと流奈がどう向き合おうとしているのかと。
それを聞いた茜は笑わなかったけど、「信じられない」という顔をした。居たたまれなくなって、流奈は茜を置いてアパートを出てきたのだ。そもそも行きたいところがあったからでもあるが。
「マジだって! そもそもあたしだってあんたの聞いた変な声、聞いたし。聞き間違いだと思ったけど、あれは本当だって今は思ってる」
「あたしが全部嘘ついてるのかもよ?」
「それこそ嘘だね。あたしの知ってる水上流奈はそんなことしないよ。馬鹿みたいに実直で良い奴だもん」
憤慨したように、茜は鼻を鳴らした。なぜかそれが流奈には愛おしかった。
「……ありがとう。茜っち大好き、友達としてだけど」
「知ってる。そのうえで渡したいものがある」
茜は赤いスカジャンのポケットから、親指の先の大きさぐらいのものがぶら下がった長い金属チェーンを寄越してきた。
「ほえー。どこで買ったのこれ、雑貨屋?」
「そうだよ。行くんだろ? その除霊とやらに」
「……うん」
「どうせ止められないだろうからさ。お守りとしてつけてきな」
ネックレスについている星は、表面の青い塗料が照明の光を受けて光っていた。
「わかった。ていうか、茜っちってこういうの買うんだ」
「意外か? あたしだってかわいいものぐらい買うさ」
「……そっかあ、ありがと」
「つけたげようか」
「いいよ、自分でできるって」
正直流奈の趣味には合わないデザインだが、茜を安心させるためにもつけておく。
「途中でへばるんじゃないぞ、絶対帰ってこいよ。あんたがいないとうちらはやってけないんだからな」
「はーい、わかりました。だけど、大げさだなあ。永遠の別れになるわけじゃないのに」
ようやく流奈は茜に背を向けて歩き出せた。




