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女神(アイドル)たち舞い歌いて、邪を祓う  作者: 暇崎ルア
第3章 踏み鳴らす足、地を清め

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静と楓花 ドーナツショップにて

「——ごめん。嫌な言い方をするけど、それは静のお母さんが呪いの元凶だったってこと?」


 A市の繁華街、チェーンドーナツショップの二階。

 静の話に聴き入っていた楓花は、聞き終わるや否や怪訝そうな顔で言った。


「そういうこと。息子のいじめの復讐のためにあの人は呪いを使ったの」


 盗み聞きをした日から、静はわだかまりを抱えて過ごした。

 中学を卒業する日、静は母と父に尋ねた。

 ——田中陽太くんの件、お母さんたちが仕組んだんでしょ。

 2人は当初「何のことかわからない」と揃ってしらを切っていたが、しつこいぐらい聞いてくる娘に折れ、全てを白状した。「どうか墓場まで持って行ってほしい」と懇願しながら。

「兄からいじめ加害者の名前を聞いたあの人は、それぞれの加害者の家を訪れた。それで呪いをかけたアイテム——呪物を置いて回った」

 それが、加害者の名前と呪詛の言葉を書いた木札である。

 陰陽師が活躍した平安の世、貴族の間では怨敵が通る道の土中に呪物を埋める呪法が流行ったという。

 父と相談した母はその方法を使ったのだろう。だから「田中」家から出てきた母の右手の爪には土が詰まっていたし、田中陽太少年は悪いものに憑かれたのだ。


「それから何も知らないフリをして、父は呪いを祓った——ただし、半分に割った呪物だけを残してね」


 彼がその後どうなったかは、家族に聞かなくてもわかった。


「ひと月もしないうちに、田中家は引っ越しって行っちゃった。どこに行ったかはわからない」


 また静が中学生になったとき、同級生がある噂を立てたことがある。


「——ある日を境に、原因不明の体調不良者が六人も出たクラスがあったんだって」


 主な症状は頭痛や身体のだるさ、幻視などの幻覚を見る生徒もいたという。そのうちの一人は回復したが、残った五名は回復することはなく、学校に通うことができなくなったそうだ。


「もしかして、その学年っていうのが」

「そう、私の兄の世代——田中陽太くんだけじゃない、母は兄をいじめた加害者全員の家に呪物を置いて行ったの」


 唯一、お祓いの相談に土御門家へと来たのが田中家だけだったという。

 田中家以外の家庭がどうなったのかは、両親はついぞ教えてくれなかった。おおよそ嫌な想像はつくことだが。


「その件があって以来、嫌になっちゃってさ」

「例えば?」

「……ほとんどはやっぱり、家族かな」


 時代が違えば、「陰陽師」として活躍していた自分の家系に負い目は感じていない。であれば、土御門という苗字でアイドル活動などしていない。

 ただ、両親と彼らのやったことが嫌になったのだ。


「あの人たちのように、お祓いとか除霊をしていたら同じような人間になってしまうんじゃないか、と思ってしまって」


 それは考えすぎだとは思う。だが陰陽師の術を悪用し、溺れてしまう自分も出てくるのではないかと、頭の片隅に怯えがあった。

 だから、中学を卒業すると同時に家を出た。両親には反対されたが「あなたたちと一緒にいたくない」ときっぱりと告げて出て行った。


「それから、霊も自然と避けるようになっちゃった。見ようとしなければ自然と彼らの姿は見えなくなるんだよね」


 それまでは、彷徨う霊から助けを求められることもあった。その度に、「魂を救うため」と誇りにしていた陰陽師流のお祓いを行っていたのに。「私には関係ない」「何も見えない」と無視するようになった。

 見ないふりをしていたせいで、心が痛むことはある。一か月前に穂村茜と行った心霊スポットのロケでは本当に地縛霊がおり、こっそりお祓いをしようか迷ったが、結局は何もできなかった。心のどこかでまだ両親のことを思い出していたからだ。


「自分の家族からも、体質からも逃げたりして最低だなとは思うんだけどね」


 これまでのことを振り返って、静は自嘲した。それから一口啜ったコーヒーは苦くて、冷たかった。

 逃げてしまったのは、自分の夢を追いたいと思ったこともあるかもしれない。おそらくだが「アイドルとして、ステージで踊ってみたい」という夢を叶えるのに、両親は反対しただろうから。

 今こうして「ばんかみ」としてデビューできたのは、独立してバイトをしながらダンスの練習に励んだこともあったからではないかと思っている。


「——こんなことを言うのは、あまりにもドライかもしれないけど」


 食べかけだったオールドファッションをつまみ、楓花が言った。


「どんな選択をしても、絶対に後から後悔すると思うんだよね。人間っていうのはさ」

「なるほど」

「今、静が幸せならそれでいいんじゃないかな。どう、幸せ?」


 一口分のドーナツを口に放り込む楓花。

 ——私は。


「……うん、幸せだよ」


 己のしがらみに苦しむことなく、「ダンス」という好きなことを仕事にできているのは、本当に幸せなことだ。


「なら、それで良いんじゃないかな」

「自分勝手だとしても?」

「自分の人生なんだ。勝手に生きていいじゃないか」

「そっか……」


 楓花の言うことを信じたかった。


「話戻るけど、今日のは少し心配になったよ」

「そんなに怖いものだったの?」

「あれはかなり強い悪霊——いや、呪いって言った方がいいかも」


 重いため息が出る。

 静にぶつかってきた黒い服の男性。そして、その背中に覆いかぶさっていた巨大な黒い影。赤い目。

 ——あれは危険だ。

 今思い出すだけでも、冷や汗が出る。

 あれはよっぽど強い力を持っていたのだろう。だから無理やりにも静にその姿を見せつけて、脳内に侵入してきた。

 恐らくあれはこの世に彷徨う魂ではない。未練を持った人間の魂でも、あそこまで強力で邪悪な存在にはならない。

 ——あれは何者かが故意に作った呪いだ。

 再び心の中で反芻し、静は身を震わせた。


「あの人のことが心配になってるんだ」

「そりゃ、あんなものを見せられたら心配になるよ」

「でもお祓いとかに関わるのはもう卒業したんでしょ?」

「……そうだけど」


 痛いところを突かれた。


「面倒見が良いところまでは捨てられないんだね」


 コーヒーをすすりながら、楓花が笑った。何も返せず、「そうかも」と曖昧に返すことしかできなかった。

 瞬間、テーブルの上に載せられた二人の携帯が鳴る。


「おおっ、茜からだ」


 楓花が嬉しそうな声をあげた。

 ずっと閉じていた携帯を開くと、メッセージアプリの「ばんかみ」グループチャットに、茜から新しいメッセージが届いていた。


『これ怖くね?』


 そのメッセージのあとに、ネットニュースのリンクが貼られている。見出しには

「若者世代で被害増加 高額報酬アルバイトに注意」とあった。

 データ入力などの短期アルバイトに応募した若者世代が、賃金未払いのまま雇用元と連絡ができなくなった、という件の相談が何件も労働基準監督署に寄せられているというニュースだった。

 雇用元である会社はペーパーカンパニーで「ホープステップ」や「ニューリアライズ」などと次々と名前を変えているのか、何も知らず騙されてしまう被害が増えているのだという。


『怖いね~、上手い話には気をつけないと』


 向かいに座る楓花が携帯画面を叩くのが見え、新しいメッセージがチャットに書かれた。

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