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女神(アイドル)たち舞い歌いて、邪を祓う  作者: 暇崎ルア
第2章 火の粉に魂(ライム)を混ぜ合わせ

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茜と高天原 打ち合わせ

第2章、第12話。

とうとう打ち合わせの日がやってきました。

 心霊ロケから一週間、とうとう新曲の打ち合わせの日が来た。高天原は遅れるとメールを送ってきた。

 プロデューサーが来るまであと10分、都内某所のスタジオの小会議室で茜は現代の若者らしく携帯をいじる。


「——マジかよ」


 国民的SNSのタイムラインを縦にスクロールしながら、茜は苦笑した。

 画面には、NavigatorsのKyoyaの公式アカウントの載せた、「#推し活」のタグつきの投稿が表示されている。


『推してる女神様のぬいぐるみ、ゲットできて幸せです!』


 付随した写真には、手のひらサイズのぬいぐるみ——茜を模したものが写っていた。現在S区のショッピングモール内で「ばんかみ」ポップアップショップが開催されているので、そこで買ったのだろう。

 ——どういう風の吹き回しなんだ?

 まさか自分が彼に推される身になるとは。

 首を捻っていると、打ち合わせ室のドアがガチャリと開く。


「ごめんごめん、おまたせ~」


 サングラスを額の上にかけた男——高天原光明が上機嫌そうに入ってくる。


「プロデューサー、お疲れ様です」

「お疲れ、茜もね」


 茜と向かい合う形でパイプ椅子に座った高天原は、「全然関係ない話題から入るけどさ」で話を始めた。


「この間の映像、山下さんから見せてもらったよ~。ていうか、他言無用の条件でコピーもらっちゃった」

「そこまでします?」

「だって茜さんのラップも聞こえてくるんだもん、聴きこまないと」

「……ははっ、なるほど」


 苦笑するよりなかった。


「おかげで何度も見たけど、とてもテレビじゃ放映できないやつだね。あれは」


 台本通りに作られた「怪奇現象」を追う映像は流されるようだが、筋書きの範囲外であるあの映像は俗にいう「お蔵入り」となることは既に聞いている。Kyoyaのファンが同番組を見る可能性は捨てきれないので、豹変した彼が苦しむ姿を見せられないという意味でも当然だろうとは思う。


「今更ですけど、勝手なことやってすみませんでした」


 謝罪の意を込めて頭を下げる。


「そうだよ、なんてことやってくれたんだ! ……って言ってもいいけど、よく頑張りました。褒めて遣わす!」


 パチパチと手を叩く高天原。


「実際に言葉っていうのはね、魔を祓うにはすごく重要な武器なんだよ」

「そうみたいっすね——流奈の件を聞いて、調べたんですけど」


 一か月前にライブ会場で感じた重い空気、そして流奈がファンに対して行った「除霊」の話がすべてのきっかけだ。それまでの人生、「心霊」や「除霊」などの世界にはからっきしだった茜だが、流奈のように自衛する手段を持っている必要があると考えたのである。

 流奈から話を聞いたり、調べていくうちに、彼女が除霊の武器として使ったのは「音」と「水」がメインだったとわかった。

 しかし、茜にはそれ以外にも有効なものがあるのではないかと考えた。


「日本には『言霊』っていうのがありますよね?」

「言葉の使い方によって、良い力も悪い力も引き出せるという信仰のことね」

「それです——ぶっ飛んでますけど、その理論上ならあたしのラップも使えるんじゃないかと思ったんすよ」


 それがロケでの予期していなかった「フリースタイル」である。


「あとあの場には、キャンプファイアーの火もあった。火っていうのは、水同様に良くないものを浄化してくれるって聞いたんで、使えるかと思ったんです」


 結果的にKyoyaに憑依していた霊がいなくなったということは、悪霊祓いには最適なロケーションで、良い「言霊」をリリックに乗せることができたのだろう、と茜は考えている。


「なあるほど、茜もなかなかに筋があるね~。これぞ『ばんかみ』メンバーって感じだな?」

「どういうことっすか?」

「おっと、今のは口が滑った。気にしないで~」


 ——気になるが。

 しかし、それ以上の説明はされず次の話題に入っていく。


「話変わって新曲の方なんだけどさ、リリックありがとね~」

「ああ、はい」

「あれ、この間のフリースタイルのリリックのアレンジだろ?」

「わかっちゃいましたか」

「わかるよ、聴きこんだもん」

「……こんな形で流用するのは良くないかもと思ったんすけど」

「言い分があるなら聞こう」

「あのとき、あたしが紡いだリリックはあのキャンプ場で亡くなった女性の魂を弔うためのものでした」


 Kyoyaが自殺した女性の霊に憑依されたと思ったとき、「成仏してほしい」という心を込め、頭を捻った。すると、不思議と弔いの言葉がすらすらと出てきた。

 特にメモをしていたわけではないが、端々の言葉は茜の記憶にうっすら残っていた。


「キャンプ場にいた女性は変えたかったんだと思います、色々なものを」


 Kyoyaの口を借りて言っていた彼女の言葉たち。それらは自分の身を取り巻く環境、自分自身を変えたがっていた。


「だけど彼女は何も変えられなかったし、どこにも行けなかった。それが無念で、あの場を彷徨うしかできなかったんじゃないでしょうか」


 それは茜の勝手な推測でしかない。

 だけど、あながち間違っていないのではないかとも思う。

 未練をひきずった魂は、居場所を見つけられなかったのだ。


「それで、考えたんです——あたしのラップで彼女たちのような人を救えるような曲、新しく変わりたい人たちへの背中を押せるような曲にできないか、って」


 アレンジ後の出だしを思い浮かべる。


「あんたの名前をあたしは知らない

 今まで何してきたかも全然わからない

 魔法の呪文とかは知らないし

 慰めの言葉なんかも言えない

 でも、あたしにはわかってる

 あんたがこれからどうしたいか

 だから今贈る、この歌を

 『変わりたい』と嘆くだけだった

 過去の自分へのレクイエムにしてくれよ」


「……ダメっすかね」

「正直言っちゃえば、茜がさっき言ってたことは君の願望でしかない。きつい言い方すれば綺麗ごとだね」


 鋭い指摘だった。


「——でも」


 茜の目を正面から見据えながら、高天原が続ける。


「『炎』とか直接的な言葉は使われてないけど、この言葉たちには『変わりたい人の背中を押したい』っていう茜のストレートな熱さがこもってる。茜の新境地だな」


 きっと良い言霊になると思うぜ。


「ニューアルバムのソロ曲はこれでいこう」


 高天原はにっかりと笑った。


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