表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神(アイドル)たち舞い歌いて、邪を祓う  作者: 暇崎ルア
第2章 火の粉に魂(ライム)を混ぜ合わせ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/35

Kyoya 覚醒まで

 暗いところにいた。ただ暗いだけではなく、まるで自分の中にもう一人いる感覚もあった。決して快くはなかった。

 少し遠くで誰かが大きな声で話しつづけていた。魂を揺さぶるような大きな声で。

 ——聞いたことあるな。

 それが誰の声なのかはわからない。声が何を言っているのかも。

 ただ慰めるようでいて、叱咤するような強さと勢いがあった。


『あたしは覚えててやる』


 それだけはっきりと聞こえた。その途端、霧が晴れるように暗闇が取り払われた。

 その間もKyoyaの耳にはその声だけが反響していた。


「……んっ」


 瞬きを何回かすると、明るい天井が見える。ここはどこだろう?


「起きましたか?」


 傍らから低い声が聞こえてきた。

 横を見ると、黒いスーツに身を包んだ長身の男が脇の椅子に座っている。


「突然ですが、お尋ねします。ご自分のことを名乗っていただいてよろしいでしょうか?」

「ぼ、僕のことをですか?」

「お名前、職業、年齢、何でもいいです。推しがいればそれに関してでも」

「はっ、はあ——ええと、草刈恭弥といいます。Navigatorsというボーカルグループに所属していて、推しは今のところ特に……」

「わかりました。以上で大丈夫です」


 Kyoyaの話を途中で遮った因幡は仏頂面ながらも、どこか満足そうに頷いた。

 ——何だったんだ、今の。

 推しに関する質問はいらなかった気がする、と首肯するKyoyaだった。


「ところで、あなたは?」


 男の顔は見たことがあるのだが、どうにも思い出せなかった。


「申し遅れました。『ばんかみ』のマネージャー、因幡と申します。本日はうちのグループの二人がお世話になりました」

「こ、こちらこそお世話になってます——あの、ここは」

「キャンプ場の看護室です。お気を失って倒れられていたのですが、覚えていらっしゃいませんか?」

「はあ、あまり……」


 思い出そうとしてもできず、頭を抱えるしかない。

 かろうじて覚えているのは、林の中でロケ撮影終了後にぐらりとめまいのような感覚があり、身体がずっしりと重くなったこと。そこから先はマネージャーと話したような記憶はぼんやりあるが、何を話したかまでは覚えていない。

 正直に言うと、因幡は「わかりました」と頷いたが、続けておかしなことを言った。


「——何とか茜のかしりは功を制したようですね」

「え? か、かしり?」

「何でもありません、お気になさらず——ああ、一点お聞きしたいことが」

「は、はい」

「Cクリーンというサプリメントを飲んでいますよね?」

「……な、何で、それを?」

「夕食の席で茜たちに見せていたのを偶然見てしまったもので」

「——ああ、なるほど」


 言われてみれば、カレーを食べながらCクリーンを飲んでいることを静たちに伝えていた。


「失礼を、余計なことをお聞きしました」

「ああ、いえ——あの、もしかしてあまり良くないんでしょうか?」


 問い返すと、因幡は不思議そうな顔をした。


「なぜそんなことをお思いに?」

「その、言われたんですよ——僕が今飲んでるサプリメントは飲まない方がいいんじゃないか、と」


 Kyoyaは記憶を失う前に石丸マネージャーとしていた話の内容を、少しずつ思い出していた。

 ——Kyoyaくん「Cクリーン」って言うサプリ、最近ずっと飲んでるでしょ?

 ——あれ飲み始めてから、ずっと具合悪そうだよ。やめた方がいいんじゃないかな。

 彼女の話をぼんやりと聞いていたとき、急に「疲れた」という気持ちが心の中を埋め尽くし、涙が止まらなくなったのだ。

 一通り話を聞いた因幡は「なるほど」と頷いてから、「ここから先は私のお節介として聞いてほしい」と前置きしてから言った。


「体調の不調とサプリメントとの因果関係はわかりませんが、今のあなたにサプリメントは必要ないかと思います」

「やっぱり、そうですか……」

「ええ、まだお若いのですから——ああ、すみません。今の時代、年齢に関することを言ってはハラスメントになりますね」


 自嘲するようにうっすらと苦笑する因幡。


「いえ、そんなことは——すみません、色々とありがとうございます」

「お目覚めになったようなので、山下ディレクターたちを呼んで参ります」


 会話を終わらせるように、因幡は看護室を出て行った。


 *


「Kyoyaくん、良かった~! 一時はどうなるかと思ったんだからね!」


 石丸マネージャーは看護室に入ってくるなり、おいおいと涙を流しながら喜んだ。


「顔色もだいぶ良くなってる……うん、いつものKyoyaくんだ!」

「僕、そんなに顔色悪かったんですか?」

「悪かったよ~、さっきは白紙みたいな色してたもん! もう、あのサプリメントは取り上げるから!」


 きっぱりと断言した石丸マネージャーは、「そもそも調べたら他の商品にも問題あった会社のものなんだし、ダメだよ!」とかなり憤慨している様子だ。


「いやはや、色々あったけど本当に良かったよね~!」


 マネージャーの脇で、安堵の笑みを見せているのは山下ディレクターだ。


「Kyoyaくんに何かあったら、オレたち首が飛ぶじゃすまされなかっただろうからさ! どう? 気分は悪くない?」

「はい、大丈夫です……ご心配おかけしました」

「念のため、君には病院は後で行ってもらう予定だけどね。でもその感じなら大丈夫そうだな」


 呑気な顔で頷く山下ディレクター。


「そうだ、この映像を見てもらえばわかるかもな! とにかくすごいんだよ」


 はしゃいでいる山下は「これを見たことは他言無用ね」と言いつつ、一台のハンディカメラを差し出した。電源が入っており、映像が流れている。


「……これ、本当にあったことなんですか?」

「嘘みたいな映像だったでしょ、オレたちもびっくりだもん。その驚きようだと、Kyoyaくんはこの間ずっと霊に憑りつかれてたってことなん……あれ、どうしたんだ!?」


 Kyoyaは思わずベッドから飛び降りていた。

 ——そうだ、茜さんだ。


「すみません、茜さんはどこにいますか?」

「確か、外にいるとおもうけど……」


 Kyoyaの様子に目を丸くしながら、石丸は入口の向こうを指さした。

第2章、第10話。

目が覚めたKyoyaの見ていたものは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ