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女神(アイドル)たち舞い歌いて、邪を祓う  作者: 暇崎ルア
第2章 火の粉に魂(ライム)を混ぜ合わせ

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穂村茜 見たもの

第2章、第6話。

林の中の人影の真相とは。

 きっと何十メートルもあるだろう。

 二手に分かれる道の左手側。太く立派に育ったその木は、茜たちに縦一メートルほどの大きな切れ目を持った幹を見せつけるようにして立っていた。山下の言っていた話は本当だったようだ。

「……首つりがあった場所って、もしかして」

 ずさっと乾いた音がした。木を見上げていたKyoyaが一歩後ずさった音だ。

「——そっか、ここが」

 そばにいた静がハンディカメラを持つ手を上げた。

 茜の視線より少し上の方、大きな木はこれまた太い枝を讃えている。おそらく十年前、そこで一人の女性が自ら命を絶ったのだ。今は何もないが、当時は輪になった縄がぶら下がりもしていたのだろう。

 いたましさに顔をしかめた瞬間だった。


「……うわああああっ!」


 林全体に響きそうな叫び声。

 声のした方を見ると、今にも泣きそうな顔のKyoyaが「ああっ、うわあっ」と情けない声をあげている。

「どうしました?」

「誰かが、誰かが、肩をさ、触りました!」

 つっかえさせながら話すKyoyaは、しきりに左肩のあたりを触っていた。まるで肩についた何かを手で払うように。

「マジっすか?」

「マジですっ! こんなところで僕、不謹慎な嘘ついたりしません!」

 よっぽど怖かったのだろう、Kyoyaは今にも泣きそうだった。

「——あの、誰かこの人の肩触ったりとかは」

 三人の後ろについていた撮影スタッフたちは静に問われるも、皆神妙な顔で首を横に振るばかりだった。

「さっきからずっとKyoyaさんの後ろにいましたけど、肩を触るような人はいませんでしたよ」

 大きなカメラを構えていたカメラマン、野村が主張した。

「……ええっ、じゃああれ何だったんですか?」

 Kyoyaの悲痛な問いに誰もが「わからない」と答えた。


「……はい、オッケー! カット、カットー! 万事完了だよ!」


 *


 静まり返った雰囲気を壊すように、山下ディレクターが背後から叫んだ。

「いやー、お疲れお疲れ! Kyoyaくん、最後の演技めちゃくちゃ良かったよ! 台本通り、いや、台本以上だった! 演技の才能あるんじゃない?」

「ほ、本当ですか!? ありがとうございます~!」

 べた褒めされたKyoyaが、えへへと嬉しそうに頭を掻く。それを見ていたスタッフたちが度っと笑い声をあげる。

 がさがさ。そのとき、巨大な裂け目のある木の背後から生き物の動く音がした。

 スタッフとほとんどの出演者たちはその方に気を取られ、顔をしかめたKyoyaが「うっ」と一つ呻いて頭を抱えたことに誰も気がつかなかった。

「——すみません、もう大丈夫そうですか?」

 木から顔を出したのは白いパーカーを着た小柄な女性だ。緊張した面持ちで出演者やスタッフたちのことを見ている。

「おおっ、溝口ちゃんお疲れ! 君も良かったよ~、特にあの叫び声は迫真の演技だった!」

「そうですか。幽霊役は初めてでしたけど、何とか終わって良かったです」

「林の中に現れる、亡くなった女性の霊役」を務めた女優、溝口は嬉しそうに微笑んだ。そのままスタッフたちとの談笑に加わる。

「お疲れ様、茜」

 苦笑のような表情を浮かべた静が、左の握り拳を突き出している。

「……おう、お疲れ」

 茜も右手で握り拳を作り、そっとグータッチを突き付けた。2シーン目の撮影が終わったのだ。

 林の中から聞こえた女性の叫び声。林の中に入っていく白い人影。そして、Kyoyaの肩に触れた謎の人物。全ては番組ディレクターと脚本家が作った台本に従った出演者とスタッフたちの演技だった。Kyoyaに至っては、幽霊役の溝口が触ってもいない。ただタイミングに合わせて、「触られた」という設定で彼が一人で怖がる演技をしただけだった。思いのほか彼が上手くやったようなので、ディレクターは大喜びだ。

 ——とんだ茶番だな。

 茜はため息をついた。自分も参加している以上、呆れる資格などないとは思っているが。

 彼女が小さい頃からもこういった心霊特番でのロケ映像はあったし、よく見ていた。タレントたちが「心霊スポット」と呼ばれる場所でのロケ中、そこにいるはずのない者の姿を見たり、異音を聞いたりするものだ。子供の頃は本当に怪奇現象が起きていたり、本物の幽霊が出たのではないかと怖がったものだった。

 それらが全て筋書きの上で行われているということは、ある程度成長してから知っていたことではある。「まあ、全部やらせに決まってるよな」と思う反面、複雑な気持ちを抱えていた。

「——そういえばさ」

「うん?」

「さっき、心霊写真のことで何か言いかけてただろ」

 撮影が始まる前、静は何かを言いかけた。「あと、それかさ」と。「それ」とは何か。

 あの写真に写った人影に対して静はまず、グレーのパーカーを着た北谷が写ったのではないか、という考えを述べていた。それに並べるように出てきた「それ」という存在こそ、白いパーカーを着た溝口のことだったのではないか?

「二人で撮った例の写真に写っていた謎の人影は彼女が写ったものだ」と静が言いたかったということに、茜はようやく気がついた。

 聞けば、静は「うん、そういうこと」と頷く。

「撮影に女性の霊役の女優さんがいるってことはすでにわかってたからね。今日のロケ始まったときから白いパーカー着てたってことも——誰かさんは忘れてたみたいだけど」

「……はははっ。忘れてたっていうか、あんま意識してないようにしてたんだよ。これは心霊映像のやらせを撮る撮影じゃない、本物が出るかもしれないって」

 自分で言っておきながら、言い訳にしか聞こえなかった。

「ははあ、なるほどね」

「それ、信じてないだろ?」

「信じてるよ」

「どうだか」

 苦笑しつつ、茜は改めてじっくりと溝口を見る。頭まですっぽり被った白いパーカーのフードからは、胸元まで黒い髪が垂れている。心霊写真の人影とそっくりだ。十中八九、茜たちの撮影時に彼女が林のそばにいて、偶然写り込んだのだろう。

 ——あんなに騒いじゃって馬鹿だな。

 自分で自分に苦笑するしかない。人はその場に影響されやすいようで、いわゆる「霊が出る」という場所でおかしな写真を撮ると「心霊写真だ」とすぐに思い込んでしまうものらしい。


 心霊特番を盛り上げるための台本ありの撮影パートは終わっても、「本物の怪奇現象が起こるかもしれない」という期待も込めて、朝まで撮影は続けられる。

「溝口さん、すごいことが起きたんすよ」

 溝口本人に写真のことを言い出したのは、キャンプファイアーのそばで溝口や北谷と休憩をしていた頃である。ちょうどスタッフの何名かが眠気覚ましに入れたコーヒーがその場にいる者たちの片手にあった。

「すごいこと?」

 驚いたように目を見開く溝口。

「さっき静と写真撮ったんすけど……ほら、ここに白い人影が写ってる。これ、写ってるの溝口さんっすよね? あまりにも偶然すぎて心霊写真かと思っちゃって」

 ジーンズのポケットから携帯を取り出し、不審な人影が写った写真を見せる茜。脇では静がすました顔をしていた。

「……あの、写真撮ったのいつですか?」

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